オリーブパワーでチュニジアを変える

−厳しい環境で生き抜く植物の力を解明−

2014年6月19日

抗酸化作用のあるポリフェノールを豊富に含み、がんや動脈硬化などのリスクを抑えるといわれるオリーブオイル。日本ではヨーロッパ産のものが知られているが、実は今、チュニジア産のオリーブオイルが注目を集めている。というのも、チュニジア産のオリーブオイルが、ヨーロッパ産の10〜20倍ものポリフェノールを含むことが明らかになったからだ。

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チュニジアのオリーブ畑

次々と明らかになるチュニジア植物の高機能性

厳しい環境の乾燥地帯に生育する塩生植物のサンプルを採取

チュニジア産オリーブの機能性を明らかにしたのは、筑波大学とチュニジアの五つの研究機関が共同で行う「乾燥地生物資源の機能解析と有効利用」のプロジェクトチーム。JICAと独立行政法人科学技術振興機構(JST)が連携して実施している研究プロジェクト(SATREPS)(注)の一つだ。そのチュニジア側の研究機関の責任者らが、5月26日〜29日に、JICAの招きで来日した。プロジェクトでチュニジアから筑波大学の博士課程に留学している研究者たちの学位論文審査会に出席するとともに、香川県小豆島のオリーブ産業を視察するためだ。

チュニジアは、北は地中海、南はサハラ砂漠に接する独特の地形を持つ。気候は変化に富み、多様でユニークな植物が自生している。砂漠などの乾燥地に育つ植物は過酷な環境を生き抜くための機能を備えており、有効成分を多く含むといわれる。たとえば、チュニジアには、オリーブをはじめ体にいいといわれている植物がいくつもあるが、その伝承の科学的検証はこれまで行われたことはなかった。

プロジェクトチームは現地の伝承を調査し、薬効があるとされる植物数百種類を採取して日本に持ち込み、伝承を科学的に裏付けるための分析を行った。その結果、オリーブ以外の植物からも、老化防止やストレス抑制、メラニン生成抑制、抗アレルギー、抗腫瘍(しゅよう)、脂肪細胞分化抑制、エネルギー代謝促進などの効果がある物質が検出された。現在、科学的に機能が検証された植物は、オリーブ25種、塩生植物(海岸や、地下水の塩濃度が高い半乾燥地に生える植物)14種、ローズマリーなどの薬用植物14種。製品化に向けて企業への提案も進んでいる。

留学生たちの奮闘

学位論文の審査会では6人の研究者が成果を発表。発表後はチュニジアの研究者から厳しい質問も飛んだ

こうした研究を将来的にもチュニジアで続けられるように、プロジェクトではチュニジアの研究者を筑波大学の博士課程に受け入れ、機能解析技術などの習得を目指している。5月26、27日に行われた学位論文の公開審査会では、筑波大学に留学している6人の研究者が研究の成果を報告した。

イリス・ダマックさんは、オリーブを加工する工場の排水からポリフェノールなどの有効成分を回収するための技術を開発。「チュニジアではオリーブオイルの加工工場からの排水が垂れ流しになっていて環境問題になっている。このプロセスが実現すれば、排水を有効活用できる上、環境破壊も食い止められる」と強調した。サファ・スレムさんは、オリーブの葉に含まれるオレウロペインのカプセル化についての研究成果を発表。オレウロペインはポリフェノールの一種で強い抗酸化力を持つが、苦くて消化されにくい。そこで、オリーブに含まれている成分を使って乳化し、カプセル化するプロセスを開発。「サプリメントなどへの製品化を実現できたらうれしい」と語った。

オリーブのほかにも、マフムード・ベン・オスマンさんは、チュニジアに自生しているレモングラスの一種から、神経機能を改善する成分を抽出し、そのメカニズムを分析。米国に特許を出願しており、製薬化への可能性にも言及した。また、ネジュラ・トゥルキさんは、チュニジアで栽培されているデュラムコムギから、乾燥地の塩害に強い遺伝子を解明。「チュニジア産のコムギの増産につなげたい」と語った。

日本で研究することの利点を、研究生たちは「SATREPSという大きなプロジェクトの枠の中で、はっきりした道筋に立って自分自身の研究に取り組める」「実験機材や設備が整っているので効率的に研究を進めることができる」と振り返った。そして、「いずれはチュニジアに戻り、研究の成果をチュニジアと日本のために役立てたい」と抱負を語った。

チュニジア産オリーブオイルのブランド化を目指して

チュニジアの研究者たちが驚いた小豆島のオリーブの茶畑。オリーブの木を刈り込み、新芽だけを摘んでお茶にしている

5月29日は共同研究をしている筑波大学北アフリカ研究センターの礒田博子専門家らも同行し、日本有数のオリーブ産地である小豆島を訪れた。チュニジアのオリーブオイルの輸出量は世界第4位を誇るが、その多くがヨーロッパに輸出され、ほかのオリーブオイルとミックスされて「イタリア産」「スペイン産」として世界へ輸出されている。チュニジア産オリーブオイルをブランド化し販路を拡大するためには、ポリフェノールを多く含む機能性をうたうとともに、加工やパッケージングなどによる付加価値を高める必要がある。小豆島を訪れたのは、工場を視察するとともに、そうした商品化のノウハウを学ぶことが目的だ。

株式会社アグリオリーブ小豆島では、オリーブオイルの搾油のほかに、搾りかすを牛の飼料に再生する工程を見学。オリーブオイルや実の塩漬けなどを試食した。株式会社ヤマヒサでは、搾油とともに、オリーブの葉をお茶に加工する工程を見学し、ペットボトルに詰められたオリーブ茶を試飲した。また東洋オリーブ株式会社ではオリーブオイルのほか、塩漬けや砂糖漬けなどの加工食品、石鹸(けん)や化粧品などがずらりと並ぶ売店を見学。そのパッケージや商品のバリエーションの広さに、チュニジアの研究者たちは大いに驚いていた。

チュニジアでのオリーブの活用法は搾油だけで、搾りかすはすべて廃棄されている。視察を終えた研究者たちは「油を採取するだけでなく、葉や実、搾りかすまで丸ごと活用していること、しかもそれがビジネスとして成り立っていることに感銘を受けた」と口々に語った。加えて、オリーブオイルがチュニジアの10倍の価格で販売されていることも研究者たちの関心を引いた。チュニジア産のオリーブオイル産業も、付加価値を付けブランド化することで、まだまだ伸び代があることをあらためて認識したようだ。

研究できる喜びが原動力

小豆島を視察するチュニジアの研究者たちとプロジェクトリーダーを務める筑波大学の礒田専門家(中央)

プロジェクトでは、チュニジア国内の五つの研究機関と共同研究を進めているが、これまでチュニジア国内では複数の研究機関によるネットワークがつくられておらず、プロジェクトが国内研究機関のネットワーク構築にも一役買っている。その中には、産業化に向けた研究開発の促進を目的に、建設・運営管理をJICAが支援したボルジュ・セドリア・テクノパークも含まれている。

プロジェクトリーダーの礒田専門家は、「共同研究で大切なのは信頼関係。信頼関係を築くため、とにかく家族のように接することを心がけた」と振り返る。2011年1月に起こったジャスミン革命の影響で研究が中断することもあったが、研究に取り組む姿勢は変わらなかったという。「各研究機関は、以前は機材が乏しく、研究をしたくてもできない状況にあったが、今は機材も、それを使いこなす能力も高まり、研究できる喜びを感じている。その喜びが研究に向かう彼らの原動力になっている」

今回の視察では、小豆島のオリーブ産業の関係者も、ポリフェノールを豊富に含むチュニジア産オリーブオイルに高い関心を寄せていた。日本の加工・パッケージ技術とのコラボが実現すれば、チュニジア産のオリーブオイルの付加価値も高まる。近い将来、チュニジア産のオリーブオイルが、日本のスーパーに並ぶ日がやってくるかもしれない。


(注)地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development: SATREPS)。