セネガルの「授業研究」の事例をグローバルに発信

−質の高い教育は教員から始まる−

2014年7月29日

6月28日にベルギー・ブリュッセルで「教育のためのグルーバル・パートナシップ(GPE: Global Partnership for Education)」増資会合が開かれた。教育支援の世界的潮流を方向づけるこの会合で存在感を示したのが、セネガル国民教育省初等教育局学校・環境課課長のアリウン・バダラ・ディオップ氏だ。「教員のエンパワーメント」をテーマにしたサイドイベントにパネリストとして登壇したディオップ課長は、「質の高い教育は、教員から始まる」と、教育支援に必要な視点を強く訴えた。

初等教育普及のため各国が追加拠出を表明

セネガルのセリン・ンバイ・チャム教育大臣(写真中央)も本会合に参加するなど、途上国政府の積極的な参加が見られた

2000年に採択された、2015年を目標年とする国連ミレニアム開発目標(MDGs)(注1)を達成するため、国際社会は初等教育の普及に取り組んできた。その結果、初等教育を受けられない子どもの数は1億200万人(2000年)から5,700万人(2011年)に半減し、初等教育の純就学率(注2)は83パーセントから90パーセントへ改善した。一方で、依然として1割に当たる5,700万人は教育を受けられず、就学しても基礎学力が身についていない子どもは約4割(2億5,000万人)、初等教育を修了できない子どもは約3割に上るなど、開発途上国の初等教育に残された課題は多い。

GPEは、途上国政府の教育セクター計画を資金面で支援し、初等教育の普及を加速させるために、2002年に教育分野のグローバルファンドとして、世界銀行の主導で設立された国際的な支援の枠組み(注3)。これまでに57ヵ国に対し37億ドルの資金援助を行い、初等教育の普及を支援してきた。しかし、各国からの拠出金額は2010年をピークに減少傾向にある。そこで、各国がGPEに対する支援を表明するために増資会合を開催。国際機関や各国の教育大臣など91ヵ国から800人以上の関係者が参加し、2015年から2018年までの4年間で総計21億ドルをGPEに追加拠出することを表明。途上国政府も、公的支出のうち260億ドルを教育のために確保することを約束した。

日本オリジナルの「授業研究」で理数科教員の能力強化

研究授業では、授業を観察する教員たちも、子どもたちの反応を見て時には手助けをする

JICAはこれまで、「日本の強みを生かした理数科教育協力」「保護者・地域社会を巻き込んだ学校運営の改善」「子どもたちの学びの場をつくる学校建設」を主な柱とし、国レベルでの取り組みのほか、アフリカや中米では国を越えた地域的な取り組みを通じて、途上国の基礎教育を支援してきた。2004年からはアフリカ教育開発連合(各国の教育大臣と援助機関の会合)に参加し、アフリカの理数科教育協力に取り組んでいる。

こうした中、セネガルでは2007〜2011年に「理数科教育改善プロジェクト」、2011年からはその後継プロジェクトを実施し、小学校教員の理数科教授能力の向上を支援している。プロジェクトでは、初等教育の質を改善するために、「授業研究」を通じて小学校教員の理数科教授能力の向上を支援する。「授業研究」とは、教員たちが自ら授業の課題を見つけ、その課題を克服するために授業を計画・実践し、互いに助言・批評し学び合うという日本独自の教員研修システムだ。この「授業研究」を活用した研修モデルをセネガルで構築し、全国の小学校への導入を進めている。

パネルディスカッションで発言するプロジェクトマネジャーのディオップ課長

会合で発言した冒頭のディオップ課長は、このプロジェクトのカウンターパート(注4)側のマネジャーだ。全国の教員の監督を行う教育省の視学官で、国内の小学校を精力的に視察し、現場の教員の声に耳を傾けるとともに、自ら率先して算数の授業を実践してみせるなどして、教員の能力強化に情熱を注いでいる。サイドイベントでディオップ課長は、教育現場に寄り添ってきたこれまでの経験を踏まえ、「教育の質向上のためには、教育の中核にいる教員を意思決定に参加させ、責任を委ねることが不可欠」と述べ、「授業研究」を活用した研修モデルを、教員のエンパワーメントの事例として報告するとともに、これまでのJICAの協力に対して深い感謝の意を表した。

初等教育普及には資金とアイデアが必要

パネルディスカッションにはリベリアのエルモニア・タルパ教育大臣、ユネスコのチエン・タン事務局長補(教育担当)といった要人も参加し意見を交わしたが、質の高い教育を実現するためには教員の声を反映させた制度づくりが必要であるという認識を共有することができた。ディオップ課長の発言が、抽象的な議論に終始しがちなパネルディスカッションの方向性を決め、教員の能力開発の事例を発表することによって、議論をより具体的なものにできたことが大きく貢献したといえる。また、セネガルでの実践を世界に向けて発信できたことは、ディオップ課長にとっても貴重な経験となった。

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パネルディスカッションの内容をイラスト化したもの。政策決定の際、教員の話を聞き、教員のニーズに応える必要性が繰り返し述べられたことが見てとれる

開発途上国の初等教育の課題を解決するためには、資金援助はもちろんのこと、資金を教育の改善に有効に活用するためのアイデアや工夫が求められる。今回の会合では、セネガルの「授業研究」の好事例を通じ、資金を教員の能力強化に有効に活用するための一つのアイデアを提示することができた。

近年は、こうした教員の能力強化に加えて、カリキュラム・教科書改訂、学力試験の領域にも、学習産業とも連携して協力が拡大しつつある。JICAは今後も、国境を越えて、世界で求められる実践知の発信、学び合い、事業化に積極的に取り組んでいく。


(注1)21世紀の国際社会の目標として採択され、2015年までに達成すべき「初等教育」「妊産婦の健康」など八つの目標が設けられている。
(注2)就学年齢人口のうち、実際に就学している子どもの割合。
(注3)2011年に名称変更。旧称はファスト・トラック・イニシアティブ。
(注4)技術移転の対象となる相手国の行政官や技術者、機関。