サッカーの力で、コートジボワールの平和と安定を応援

−「平和と社会的調和」を目指し、ソニーと連携してFIFAワールドカップ ブラジル大会期間中にパブリックビューイングを実施−

2014年8月11日

♪私たちは許し合えば、成長することができる。固い決意で、住民たちの参加の下に、国に貢献していこう。改革を進めていこう。ほら、私たちならできる――。

ベウミのPV会場で思いを込めて歌うバリさん(写真提供:ソニー)

FIFAワールドカップ ブラジル大会期間中にコートジボワールで行われたパブリックビューイング(PV)の会場で、長期にわたり政治・経済的混乱の中にあったコートジボワールの人々に、共に生きようとの思いを込めた歌が披露された。歌を作ったのは、JICAプロジェクトのコーディネーターのバリ・ディアラスバさんだ。「JICAとコートジボワール政府が実施している行政官の能力向上プロジェクトの一環で、私たちは社会的調和をテーマとした歌を作りました。共に生き、再び喜びをもたらそうとの願いを込めて歌いました」

国家再建に向け再スタート

西アフリカに位置するコートジボワール。東にガーナ、西にギニア、リベリア、北にブルキナファソ、マリと国境を接し、南は大西洋に面している。日本より1割程度小さな国土に約2,060万人が暮らしており、農業、鉱業、林業が盛んで、中でもカカオ豆の年間生産量は約135万トン(国連食糧農業機関、2011年)と、2位インドネシアの71万トンを大きく引き離して世界一となっている。先のFIFAワールドカップ ブラジル大会で、日本代表の初戦の相手国だったことでも大きな注目を集めた。

首都はヤムスクロだが、大西洋に面した旧首都アビジャンが、現在も行政や経済の中心地として機能している

コートジボワールは、1960年にフランスから独立後、70年代には「象牙の奇跡」と呼ばれる経済成長を経験した。しかし、1990年代の政情不安とクーデターを経て、2000年代に入ると内戦や混乱に見舞われた。2010年末には民主化プロセスの大きな山となる大統領選挙が行われたが、皮肉にもこれを発端として武力衝突が発生、再び死者3,000人を数える内戦となった。しかし翌年4月に内戦が収束すると、アラサン・ウワタラ大統領が就任し、国家開発計画を定め、国家再建に向け再スタートを切った。国際社会の注目はコートジボワールの持つ大きな経済的ポテンシャルに集まりがちだが、国家再建の計画で政府が最優先課題として掲げているのが「平和と社会的調和」だ。

国民に希望を与え続けるサッカーの力

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アビジャン特別区、アボボ市の高校で行われたフレンドリーマッチ。2005年、ワールドカップ出場を決めた、ディディエ・ドログバらコートジボワール代表選手は、ピッチに座り国民に平和を呼びかけるなど、サッカーは平和と再統合への希望を与え続けてきた

2011年11月、2004年の閉鎖後、約8年ぶりに再開されたコートジボワール事務所でJICAがまず取り組んだのは、対立した人々の緊張関係を解きほぐし、平和を取り戻すための「社会的統合の促進」だった。そこで注目されたのが、同国が混乱に陥る中、幾度となく問題を解決してきたサッカーの存在。コートジボワールにおけるサッカーは、国民に平和と社会的統合への希望を与え続ける特別な存在だった。

JICAは、2009、2010年に隣国ガーナで「マスメディアを通じたエイズ教育プロジェクト」と連携し、PVを通じたHIV/エイズ予防の啓発、教育活動を大成功に導いた。すべてのコートジボワール人が望む復興と社会的統合に向けて、コートジボワールでもこの経験を生かしたい――。JICAはソニー株式会社と、FIFAワールドカップ ブラジル大会で再び手を組み、大会期間中にコートジボワールでのPV実施を決定。その立役者こそが、ガーナのプロジェクトを取り仕切った株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所の吉村司シニアマネージャー・チーフプロデューサーだった。

内戦を象徴する地区でPVを開催

紛争の影響で、インフラ整備が進んでいない道路には、下水が流れ衛生状態も悪く、悪臭が漂う。住民は道に下水路をつくり対応している(写真:大塚雅貴)

PVの開催地には、まず、アボボ市とヨプゴン市が選ばれた。両市はアビジャン特別区で、それぞれ約100万人規模の都市貧困層を形成している。2010年の大統領選挙後の内戦では、この地で大統領派と元大統領派に分かれて激しい戦いが行われた。インフラは破壊され、住民同士、そして行政と住民の間の信頼感が失われた、特別区内で最も紛争の被害を受けたコミュニティだ。

JICAは2013年8月に、長年の紛争と混乱で荒廃したアビジャンのインフラと人々の絆の回復を目標とした「大アビジャン圏社会的統合促進のためのコミュニティ緊急支援プロジェクト」をスタート。市役所が、住民自身による学校、道路などのインフラの建設、改修、利用を支援することで、市役所自身の行政能力を強化するとともに、人々からの信頼を取り戻せるように取り組んでいる。この地でPVを実施することは、平和と社会的統合への象徴的意味を持つ。

PVに集まった人々は、口をそろえて、長い危機後、初めて皆が集まれたことに対する感謝を述べた(ブアケの西方に位置するベウミで、写真提供:ソニー)

さらに、PVの開催地として、コートジボワール第二の都市で北部の中心でもあるブアケとその周辺地区が選ばれた。この地域は、2002年に勃発した政治的混乱時に政府に対抗する勢力の支配下に置かれ、その後約10年間、実質的に南部と国土が分断された状態が続いた。この間、政府による給水、保健、教育などの基礎的なサービスが提供されなかったために、人々の生活は困難を極め、南北の格差が拡大した。

JICAは2013年11月に、事務所再開後初の地方での取り組みとして「中部・北部紛争影響地域の公共サービス改善のための人材育成プロジェクト」を開始。小学校の修復、村落給水施設の新規建設と修復を通じて、紛争中に低下した地方の行政サービスを回復させるとともに、住民のニーズに合致した公共サービスを提供できるように行政官の能力強化に取り組んでいる。また、公共サービスの回復を通じて、住民と政府の間の信頼関係を回復させることも重要な目的だ。

コミュニティの特色や伝統色を生かしたプログラムを策定

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(写真左)ベウミで行われたなでしこマッチで優勝した「ソクア」チーム、(写真中央)アクペセクロで行われたフレンドリーマッチでは、民族、性別、年齢を越えたチームが協力し合って勝利を目指した(2枚とも写真提供:ソニー)、(写真右)「共に憎しみを土に埋め、平和を育てる」ことを目的とした植樹プログラム。JICA-SONY保護林として村人たちが育てていく(ディディエビ)

各開催地では、若者組合や伝統的コミュニティ、市役所関係者と共に、どうしたら地域の人々が分け隔てなく集まれるかについてアイデアを出し合い、コミュニティの特色や伝統色を生かしたプログラムを準備。午前中から夕方にかけてはサッカーのフレンドリーマッチ、劇の上演、ダンス、伝統的なゲーム、植樹、マラソンなど、集まった住民たちが一緒に取り組めるイベントを実施した。

また、今回のPVプロジェクト最大の特長は、「皆で楽しみながら」社会的調和を促進すること。ただサッカーの試合をするだけでなく、専門家やカウンターパート(注1)が、パワーポイントを使ってプロジェクトを紹介した後に試合をしたり、プロジェクトの「歌」を歌ったりすることで、多くの住民が楽しみながら活動内容を知ることができるよう工夫した。

女子サッカーチームが参加して行われた「なでしこマッチ」で準優勝を飾った、ブアケ近郊の町ベウミのチーム「アマゾン」のメンバーは、「負けはしたものの、今回のゲームを通じて、『たとえ今日がうまくいかなかったとしても明日は大丈夫』ということを学ぶことができました」と述べた。また、同じくベウミでサッカーのコーチを務めるサンガ・リーシャさんは、「戦争が起こった後、こういったイベントはまったくありませんでした。すべての民族が一同に集まり、サッカーを通じたイベントに一緒に参加できたことは、コートジボワールの社会的調和に大きく貢献すると思います。JICAとソニーの皆さんには、『コートジボワールまで来てくれてありがとう』とお礼を言いたい」と語った。

わだかまりを吹き飛ばすPVの一体感

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PV会場で、コートジボワールの未来を担う子どもたちの笑顔がはじける

プログラムのトリを飾るのが、生中継によるワールドカップのPVだ。実施に当たって、ソニーは映像、音響機材と合わせて、太陽光による発電・充電、オリビン型リン酸鉄リチウムイオン電池、蓄電モジュールシステムの制御技術などを導入。雨期を迎えたコートジボワールは、日照が限られ、またある時は厳しい風雨にもたたられたが、これらの困難はソニーの技術力で乗り越え、すべてのPVは自然エネルギーでまかなわれた。また、期間中、コートジボワールの子どもたちを対象に、ソニーが開発した機械や電気・電子の仕組みを学べる「科学するおもちゃ」を紹介するワークショップも実施。子どもたちは見たことのない技術に目を輝かせた。これらのプロジェクトを支えるため、期間中、ソニーグループから有志12人がコートジボワールに渡った。PVはソニーの技術と人、JICAの現場力とが融合して成功へと導かれていった。

プログラムの締めにPVを行った(アクペセクロ、6月21日、写真提供:ソニー)

PVでは、さまざまな参加者が同じ場所で同じ画面を見ながら、選手たちの一挙一動に熱い声援を送った。PVに参加した15歳のコナテ・ドゥソンギ・ヤクくんは、「このイベントで友情が深まり、ほかの人とも仲良くしていける」と感じたという。また、アボボで実施されたPVには「サンフレッチェ広島×なんとかしなきゃ!プロジェクト(注2)」と連携し、国際親善大使としてコートジボワールを訪れた元サンフレッチェ広島MFの中島浩司さんも参加した。中島さんは、「大アビジャン圏社会的統合促進のためのコミュニティ緊急支援プロジェクト」の現場をはじめ、JICAの国際協力活動も視察。視察後、中島さんは「今回感じたのは『未来に進もう』という気持ちです。まだ整備されていない場所や、問題もいろいろ残っているようですが、皆たくましく生活している。誰かに頼るのではなく自分たちのことは自分でやるんだ、前に進もう、という話がたくさん聞けました。紛争からの復興が前向きに進んでいることを感じました」と述べた。

計り知れない「社会的調和」のインパクト

PVイベントは、6月6日のリハーサルを含め、6月13日から30日まで、アビジャン周辺で5回、首都ヤムスクロ周辺で4回、ブアケで4回の計14回開催し、全体で約1万3,800人が参加する一大イベントとなった。また、アビジャンでの準備期間中は連日大雨に見舞われたにもかかわらず、初日の6月14日に晴天に恵まれると、以降、イベント終了の30日まで雨が降ったのは1度だけと、天候も味方につけた。

7月4日、1ヵ月弱にわたるプロジェクトを終え帰国した吉村シニアマネージャーは、成田空港でソニーの仲間たちに迎えられると、「PVを行ったコミュニティの中には、紛争後一度も村人が集まったことがない所もあり、今回の取り組みのインパクトは計り知れないと感じた」と、充実感あふれる表情で語った。

たった1度のPVで、「紛争の痕跡をすべて乗り越え、調和に導かれる」という簡単な問題ではない。しかし、この長い道のりにあって、今回、PVイベントに参加した1万3,800人の人々の心の中に、社会的調和と、コミュニティの人々が同じ方向に向かって歩んでいくことの重要性が、サッカーや啓発プログラムの体験とともに深く刻まれていったことだろう。JICAは、PVの成果を踏まえ、今後も、コートジボワールの最大の課題である「社会的統合の促進」を支援していく。


(注1)技術移転や政策アドバイスの対象となる相手国行政官や技術者を指す。
(注2)なんとかしなきゃ!プロジェクトは、国際協力 NGO(JANIC)と国際機関(UNDP)、政府開発援助実施機関(JICA)の 三者が推進する日本初の国際協力広報プラットフォーム。