微生物が世界を救う!(インドネシア)

−東南アジア最大級の微生物資源センターがオープン−

2014年10月7日

しょうゆ、みそ、納豆、酒、ヨーグルト、チーズ、ワイン、抗生物質、化粧品、下水処理場。これらすべてに共通するものは、何だろうか――。答えは、「微生物」だ。

とはいえ、微生物と聞いても、なじみがない人の方が多いだろう。しかし、私たちの日々の食卓に欠かせないみそやしょうゆなどの食品や、病気の治療に使われている抗生物質などの医薬品、そして化粧品などは、多様な微生物の力で作られている。また、微生物は有機物を分解する働きを持ち、下水処理・水質浄化の面でも重要な役割を担っている。私たちの生活は、地球上のさまざまな微生物に支えられているといっても過言ではない。

微生物が支える私たちの暮らし

開所式で、日本の協力に謝意を述べるブディオノ副大統領

9月11日、インドネシアのブディオノ副大統領、グスティ・ムハマッド・ハッタ研究・技術省大臣、ルクマン・ハキム科学院長官、アフマッド・ヘルヤワン西ジャワ州知事らの出席の下、東南アジア最大級となる「微生物資源センター」の開所式が行われた。インドネシア政府の予算で建設されたこの施設は、20年にわたるJICAの支援が、インドネシア側の生物学研究能力や、生物学研究への意欲を着実に向上させてきた結果ともいえる。開所式では、ブディオノ副大統領をはじめとする参加者が日本の協力への謝意を述べた。

インドネシアは、世界第3位の広さの熱帯林を持ち、世界でも有数の生物多様性に富んだ国といわれている。オランウータンやゾウ、トラなどの哺乳(ほにゅう)類はもちろんのこと、微生物の種類も非常に多いと考えられている。その中には、バイオ技術として活用できる、人類にとって有用な微生物も数多く含まれると考えられているが、まだその多くはベールに包まれたままで、調査・研究の必要性が議論されるようになった。

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微生物資源センター

20年の協力が生んだ東南アジア最大級の微生物資源センター

このような背景もあり、インドネシアでは、近年、微生物の研究が盛んに行われるようになってきた。中でもインドネシア科学院(LIPI)の生物学研究センター(Research Center for Biology: RCB-LIPI)は、その中核的な役割を担ってきた。

微生物研究の中核的な役割を担ってきた生物学研究センター(上)、たくさんの中高生がセンターを訪れる(下)

RCB-LIPIの歴史をたどると、長年にわたる日本の協力を垣間見ることができる。1995年には、同センターの動物部門の研究施設(動物標本館)を、日本の無償資金協力でボゴール県チビノン市に建設し、あわせて機材も供与した。1995〜2003年には、生物多様性に関する研究の推進や、動物の標本類の管理体制整備支援などを目的とした技術協力プロジェクト「生物多様性保全計画」を実施。さらに、2003〜2006年には、植物標本館を含む植物部門と微生物部門の研究施設を、無償資金協力で建設し、この施設をベースに2007年から2009 年にかけて、「生物学研究センターの標本管理体制及び生物多様性保全のための研究機能向上プロジェクト」を実施。植物や微生物の研究、標本類の管理体制の整備などが進んだ。

こうした一連の協力により、RCB-LIPIには、インドネシア全土の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫(はちゅう)類、魚類、昆虫類、甲殻類、植物などの標本やデータベースが整備されるようになり、さながら「インドネシア実物生き物図鑑」の様相を呈している。これらは、インドネシアの生物多様性研究・保全のために活用されているほか、世界各国の研究者らが同センターを訪問したり、中学生、高校生が生物学の学習のために利用するなど、さまざまな形で活用されている。

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写真左から、鳥類標本、ずらっと並んだ標本のケース、インドネシア・シーラカンスの標本

微生物と共に切り開く、新しい未来

2011年からは、RCB-LIPIなどを実施機関とした地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)(注1)「生命科学研究及びバイオテクノロジー促進のための国際標準の微生物資源センターの構築プロジェクト」 が、5年間の予定で実施されている。このプロジェクトは、独立行政法人製品評価技術基盤機構、東京大学、独立行政法人理化学研究所などの専門家による技術支援の下、微生物コレクションの管理と研究を支援している。

研究の面では、インドネシア各地の自然環境から、人類に有用と思われるさまざまな微生物を分離、収集し、その特性や活用方法などに関する調査が進められている。例えば、農作物の成長を促進する肥料の製造に役立つ微生物や森林伐採地・荒廃地での樹木の生育を助ける菌類、家畜の健康維持に役立つ乳酸菌が発見され、環境にやさしいバイオ技術の実用化が期待されている。このような微生物資源の研究開発は、健康食品、化粧品、医薬品、農業、畜産業、化石燃料に代わる新エネルギーなどの利用促進につながり、新たなビジネスチャンスにもなり得る。

植物標本について説明するLIPIの職員

また、研究・教育・産業活動における微生物利用に欠かせない、微生物コレクションの管理面では、コレクションの適切な保存・管理体制とともに、民間企業や研究機関などが、商品の開発や研究に用いたい微生物をセンターに注文し、適切な価格で購入できる体制づくりを支援している。

こうした活動の大きな成果が、インドネシア自身による今回の東南アジア最大級の微生物資源センターの開設である。

プロジェクトリーダーを務める鈴木健一朗専門家は、「微生物の中には動植物にはない潜在能力を持つものがたくさん存在します。世界第2の生物多様性を持つといわれるインドネシアの熱帯雨林は、未知の微生物に出合うチャンスが多いので、温泉や深海などでも試料採集を行います。今回、微生物資源センターという『入れ物』ができましたが、これからはコレクションの充実が重要です。インドネシアの特長的な微生物を収集していくのはもちろんですが、利用に際しては高度なバイオテクノロジーへの対応が求められるので、品質向上がこれからの課題となります」と語った。

インドネシアの財産を活用

1993年に生物多様性条約が発効し、国家が生物資源の権利を持つことになった。その取得と利益配分に関する「名古屋議定書」(注2)がこの10月に発効する。このような世界的動向の中でタイムリーに開設されたインドネシア微生物資源センターは、国内外の多くの研究機関などに、新たな研究や開発の機会を提供するものと大いに期待されている。

実施中のSATREPSプロジェクトが、インドネシアの財産である多様な生物資源の一層の活用に貢献し、近い将来、世界が直面するさまざまな問題の解決へとつながっていくことを願い、JICAは引き続き協力を進めていく。


(注1)Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development (SATREPS)。JICAと独立行政法人科学技術振興機構(JST)が連携し、地球規模課題解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う3〜5年の研究プロジェクト。
(注2)2010年に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議で採択された。