企業と共に「REDD+」で進める森づくり(ベトナム)

2014年10月16日

近年、集中豪雨や干ばつなど世界各地で極端な気象が観測され、地球規模での気候変動の脅威がますます高まっている。そうした中で、途上国の熱帯林の破壊を止めて、森づくりを進めること(REDD+、注1)が、気候変動の緩和策として国際的にも大きな注目を集めている。9月23日に開催された国連の気候サミットには日本政府も参加し、2020年までに天然林の減少を半分に、2030年までにゼロにすることを目指した「森林に関するニューヨーク宣言」が表明されたばかりだ。

REDD+とは?

森林は、二酸化炭素を吸収・固定(ストック)する。そのため、森林が破壊されると、それまで固定されていた二酸化炭素が排出されてしまう。最新のIPCC(注2)第5次評価報告書第1作業部会報告書によれば、過去260年ほどの間に「人間活動」によって排出された累積二酸化炭素量の約3割が、森林伐採などの土地利用変化によるものといわれている。特に炭素ストックが多く、面積も大きい熱帯林の保全は重要となる。そこで、熱帯林の多くが存在する途上国の森林破壊を止め、保全を進めることによって、二酸化炭素の排出を抑制し、吸収・固定を進めようという取り組みが行われている。これがREDD+である。

今、国際社会では、REDD+推進のため、途上国の森林保全による排出削減量・蓄積増加量に応じて国際的な資金を配分し、森林保全を進めるためのインセンティブにしようという議論が進められている。

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焼畑によって山の斜面の森林が農地化している。「持続的ではない」焼畑は森林破壊の原因の一つ(ベトナム)

日本の官民による支援

衛星画像を活用して効率的に森林パトロールを実施(ディエンビエン省)

JICAは、これまで取り組んできた開発途上国の森林管理官の育成、住民を巻き込んだ森林保全活動実施などのノウハウを生かして、ブラジル、インドネシア、ベトナムなど11ヵ国・機関で、各国のREDD+の準備状況に応じた支援を行っている。

また、日本の民間企業もREDD+への支援を始めている。住友林業株式会社は、2013年8月にJICAと協定を締結し、ベトナムのディエンビエン省で森林保全活動への支援を実施している。環境・エネルギー部グローバル森林戦略グループの佐藤裕隆グループマネージャーは、「途上国では森林保全にも持続的な発展にもさまざまな課題がある。途上国の地方政府をREDD+の仕組みで支援することは、日本政府にとってもわれわれ民間企業にとっても意義の大きな取り組みとなると、その可能性を感じている」と語る。

住友林業とJICAの呼び掛けにより、現在、アスクル株式会社、一般社団法人ヤンマー資源循環支援機構も、CSR(企業の社会的責任)活動の一環として森づくり支援に加わっている。アスクル株式会社セールスマーケティングの東俊一郎部長は、「木材資源を原材料とする商品を販売してきたからこそ、途上国の森林保全や地球温暖化防止にも企業は責任を負うべき。また、REDD+の中でも、ビジネスを通じた課題解決が求められている」と、プロジェクトに参加した意義を述べた。

ベトナム初の「省REDD+」行動計画

家畜を育てて焼畑だけに頼らない暮らしを目指す

5月には、JICA支援の下、ベトナム初の省ベースの、「ディエンビエン省REDD+行動計画」が策定された。ディエンビエン省は、ベトナムの中でも最も貧しい省の一つで、人口増などによる「持続的ではない」焼畑農法(注3)が森林破壊の原因となっている。そこで、省REDD+行動計画では、(1)家畜飼育、キノコ作りなどの生計向上活動を導入して、生計手段を多角化し、焼畑への依存度を低めにして森林破壊を止めること、(2)住民による森林パトロール、植林や天然更新(注4)による森林再生などの森林保全活動、(3)それらのプロセスを森林管理官が適切にサポートする体制を整えること、(4)衛星画像などを活用した森林増減の適切なモニタリングを行うこと、などが計画されている。プロジェクトでは、これらの活動を総合的に支援。民間企業3社は、プロジェクトの枠組みに沿って、四つの村で生計向上活動や森林保全活動を資金面で支援している。

7月末には、この「ディエンビエン省REDD+行動計画」をモデルとして他省とも広く共有するため、現地でワークショップが開かれ、企業3社も参加した。ヤンマー資源循環支援機構の中根康有理事は「森林保全のための住民パトロールのチームを作ったり、時には森林の木のサイズを一本一本測定したり、現地の皆さんの地道な取り組みに感銘を受けた。REDD+は、このような地道な活動の上に成り立つものであり、それが地球温暖化防止につながっていくことを実感した」と述べる。

しかし、新しい概念であるREDD+の理解と実施は簡単ではない。「REDD+行動計画の実施には、さらなる関係者の能力強化と資金の確保が必要」とディエンビエン省森林支局のグエン・ディン・キー支局長は言う。プロジェクトでチーフアドバイザーを務める高橋漠(ばく)専門家は、「地域の森林管理には住民の参加が不可欠。プロジェクトの取り組みによって、ようやく行政官の中にも住民と行政との協働が重要だという意識が生まれてきている」と、資金面だけでなく途上国自身の意識改革の必要性を訴えた。

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民間企業も参加して植樹祭を実施

「森から世界を変えるREDD+プラットフォーム」の設立に向けて

現在JICAは、企業や政府関係機関と共に、日本国内外で、REDD+を推進するためのプラットフォーム(森から世界を変えるREDD+プラットフォーム)を、11月上旬に設立する準備を進めている。

開発途上国の森林保全によって地球規模の気候変動を緩和し、同時に地域住民の生活の安定、生物多様性の保全などの相乗効果の可能性を秘めるREDD+。気候変動問題は、先進国、開発途上国を問わず、私たちの暮らしを脅かす。さらなる日本の官民の知恵、技術、経験、資金の活用が求められている。


(注1)開発途上国の森林の減少・劣化を防止して地球全体の二酸化炭素排出量を削減するという考え「REDD」に、持続可能な森林管理などによって森林の二酸化炭素吸収・固定機能を高めるという考えを付加(「+」)したもの。現在、気候変動対策の一つとして、国連などでREDD+を国際的に推進する枠組みが検討されている。
(注2)Intergovernmental Panel on Climate Change。人為起源による気候変化、影響、適応・緩和方策について、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、1988 年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画 (UNEP)により設立された組織。
(注3)自然の植生回復を無視した焼畑農法。「非伝統的焼畑農法」とも呼ばれる。本来、伝統的な焼畑農法は持続可能なもので、一つの畑で作付けを行った後、数年単位で植生が自然に回復するのを待ち、移動を繰り返す。
(注4)森林の伐採後、植林や植栽などを行わず、自然に落下した種子や根などから、天然の力で造林を図る方法。