国民一人ひとりの手で守るパラオの環境

2015年3月23日

パラオは太平洋に浮かぶ大小の島々から成る島嶼(とうしょ)国。見渡す限り青く広がる海と豊かなサンゴ礁に囲まれた美しい島々は、近年、経済や社会の近代化の波が押し寄せ、人々のライフスタイルの急激な変化により環境問題が深刻化している。

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美しいパラオの海と、コロール島とバベルダオブ島を結ぶ「日本−パラオ友好橋」(写真提供:鈴木革)

空き缶やペットボトルも集めれば資源に

横断幕を作る小学生たち

パラオの島の一つ、ペリリュー島に小学校の算数教師として派遣された青年海外協力隊の酒井大輔隊員は、ごみ分別の習慣のないこの島で、環境教育に携わる同期の隊員と協力して、小学校の生徒たちが空き缶や使用済みペットボトルを集めて売った資金を自分たちで活用する取り組みを開始した。

ペリリュー島は、今から70年前の太平洋戦争当時は、島に木が1本もなくなるほどの激戦地だった。この4月には、天皇皇后両陛下が戦没者の慰霊のためにペリリュー島を訪問される。生徒たちは資金の一部を活用して、両陛下を迎える横断幕を作ることにした。現地の先生たちにも協力してもらい、学校全体で空き缶や使用済みペットボトルを収集し、酒井隊員がリサイクルセンターで換金した資金で材料をそろえて、生徒たちが図案を考え、作成していく。「子どもたちは本当に楽しそうに横断幕を描いている。空き缶や使用済みペットボトルを集め、ごみの分別やリサイクルについて学びながらものづくりをすることに意味がある。横断幕づくりには生徒全員がかかわれるようにしたい」と酒井隊員は言う。

自分たちの手で廃棄物管理

コロール島のMドック処分場(中央)とリサイクルセンター(左手前)(写真提供:鈴木革)

ペリリュー島に限らずパラオの島々では、ごみ問題は深刻だ。近年の経済や社会の近代化により生活物資の輸入量が増加した結果、輸入品に多いプラスチックなどの土に還(かえ)らないごみの量が激増している。またこれまで人々がごみを捨ててきた「Mドック」はオープンダンプサイトと呼ばれる、ごみが野放しに積み上げられた状態の処分場で、火事も頻繁に起きた。

そこでJICAは、「準好気性衛生埋立て」(福岡方式、注1)を導入し、低コストで、悪臭や虫の発生を抑えながら、微生物が有機物の分解を早めてごみの減量化を目指す「廃棄物管理改善プロジェクト」(2005〜2008年)を実施した。しかし、こうして改善されたMドック処分場も、いずれは満杯になってしまう。廃棄物が適切に処理されないと、悪臭やメタンガスが発生するだけでなく、土の中にたまった汚水が海に浸み出して海水を汚染し、マングローブ林やサンゴ礁にも悪影響を与えることになる。

パラオでは2011年から、32オンス(約1リットル)以下の輸入飲料の容器1本 に10セントのデポジットを課し、空き容器をコロール州(注2)のリサイクルセンターに持っていくと、5セントで買い取る「容器デポジットプログラム」が開始された。現在は空き缶や使用済みペットボトルの90パーセント以上がリサイクルされるようになり、道端から空き缶が姿を消した。デポジットのうち残りの5セントは、コロール州と国の廃棄物管理の財源となり、処分場管理用の重機や、山積みになった古タイヤを粉砕してリサイクルするシュレッダーなどの購入、維持管理に活用されている。

現在JICAは、大洋州11カ国を対象とする「大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクトJ-PRISM」(注3)を実施している。パラオもその対象国だ。プロジェクトでは、ごみを減らし(Reduce)、使えるものは繰り返し使い(Reuse)、ごみになったら資源として再利用(Recycle)する3Rの啓発や、Mドック処分場の閉鎖計画、Mドック処分場に代わる新処分場の建設計画などを支援している。

「今年はプロジェクト最終年の5年目。ゆっくりではあるがカウンターパートが知識や技術を身に付けて成長し、国もプロジェクトにかかわる人員を増やすなど、体制も強化できてきた。一方、Mドック処分場の管理などの課題もある。今後もこの地域の廃棄物管理面の成長を見守っていきたい」と、パラオのカウンターパートらから厚い信頼を受けているJ-PRISMの専門家、村中梨砂さんは言う。

プラスチックをめぐる新たな挑戦

油化装置の説明をするコロール州政府の廃棄物管理アドバイザーの藤勝雄さん(元JICAシニア海外ボランティア、写真中央)

陸地が狭い上に、土地の所有権が複雑な大洋州の国々では、埋め立て地確保が難しく、プラスチック処理は頭の痛い問題だ。そこで、日本の株式会社ブレスト(神奈川県)はコロール州政府と協力し、プラスチックを油化して生成される混合油を使って発電し、州政府庁舎やリサイクルセンターで活用するプロジェクト(注4)を開始した。

質のよい油を作り、機械やメンテナンスの負担を軽くするごみの分別収集を促進するため、学校でも環境教育を行ってごみ分別の大切さを教える。プロジェクトを進める中で、将来、大洋州の他の国々にもこのシステムを普及する可能性を探っていく。リサイクルセンターのセルビー・エティベック所長は、「廃棄物を利用して作る電気を、いつかコミュニティーに還元したい」と大きな夢を抱いている。

豊かなサンゴの海をいつまでも

コロール島にあるパラオ国際サンゴ礁センター

パラオの環境問題を考える際に忘れてならないのは、サンゴ礁保護の視点だ。パラオ国際サンゴ礁センター(PICRC)は、2001年に日本の協力でオープンした研究・教育施設。世界各地から多くの研究者が訪れる、大洋州地域のサンゴ礁調査研究の中核的存在だ。JICAはこれまで同センターに対して機能強化やサンゴ礁モニタリングなどの技術協力を行ってきた。現在は琉球大学と協力して、「サンゴ礁島嶼系における気候変動による危機とその対策」を実施している。

自然・社会科学の研究成果を生かし、豊かな生態系を守りながら、持続的な開発を進めるための提言をしているPICRCが抱える悩みは、予算の確保だ。政府補助金は必要額の3分の1ほどで、残りは寄付金や共同研究、会場・機材のレンタル、併設の水族館への入館料などで賄わなければならない。センター長のイムナン・ゴルブー博士は優秀な研究者であると同時に、辣腕(らつわん)経営者でもある。寄付金でテナント用の別棟を建設し、センターの新たな財源を生み出そうとしている。配属された青年海外協力隊員も、水族館の展示や売店を改善し、より多くの人たちにパラオの豊かな生態系の魅力をアピールしようと奮闘している。

JICAは今後も、パラオの環境を守る取り組みを多方面から支援していく。


(注1)ごみの埋め立て層に空気を自然に取り込める管を埋設し、空気中の酸素で生育する好気性微生物の力で有機系ごみの分解を促進する日本初の技術。
(注2)パラオ最大の都市コロールのある州。2006年までコロールが首都だった。
(注3)Japanese Technical Cooperation Project for Promotion of Regional Initiative on Solid Waste Management in Pacific Island Countries。キリバス、サモア、ソロモン、ツバル、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、パラオ、フィジー、マーシャル、ミクロネシアの11ヵ国のほか、クック諸島、ナウル、ニウエも対象としている。
(注4)中小企業支援実証普及事業「3Rを促進するプラスチック油化装置の導入」。