中小企業海外展開支援と自治体連携の相乗効果――セブの開発課題に横浜の企業が挑む

2015年6月4日

中小企業の技術や製品を開発途上国の課題解決に役立てながら、中小企業の海外展開を後押しするため、JICAは2012年から「中小企業海外展開支援事業」を実施している。また2011年、横浜市と包括提携協定を結んだことを皮切りに、都市開発などに関するノウハウを持つ地方自治体との連携を強化している。これらが相乗効果を発揮している横浜市の事例を紹介する。

「中小企業海外展開支援事業」を活用して

横浜市は「みなとみらい21地区」の再開発事業の経験などを生かして、海外の都市開発に積極的に貢献している。市自体が海外で事業を展開することで、海外の自治体などを相手に単独でビジネスをすることが難しい市内の中小企業の進出を促進している。

2012年3月、横浜市はフィリピンのセブ市と覚書を交わし、メトロセブ(注1)開発のマスタープランの作成を支援した。同地域の開発に市内企業の参加を促し、現在、3企業がセブ市の廃棄物処理や上下水道の課題を解決しながら、海外での事業展開に挑んでいる。マスタープラン作成や市内企業の活動が評価され、横浜市は今年2月、環境改善に貢献したとしてセブ市長から表彰を受けた。

セブ市で活躍する横浜市の3企業が海外展開のために活用したのが、JICAの「中小企業海外展開支援事業」だ。支援メニューには、初期段階の情報収集などのために行う「基礎調査」、製品・技術のニューズを検証する「案件化調査」、途上国の開発に適合するかどうかを実証し、普及方法を検討する「普及・実証事業」などがある。3企業がセブ市で行っているのは、いずれも「普及・実証事業」で、事業の海外展開に向けた最終確認段階に当たることもあり、すでに効果が出始めている。

浄水場の処理能力を回復し、水質を改善

ワークショップで装置の搬入作業を実演するMCWDの職員(右下)

水源を鉄やマンガンを含む地下水に依存するセブ市では、飲料水の水質に問題を抱えている。水質を改善するため、既存浄水場の処理能力を回復させ、給水率の向上を目指している。そこで日本の浄水場の8割以上を取引先に持つ、ろ過材(フィルター)専業メーカーの日本原料株式会社(神奈川県川崎市)は、横浜ウォーター(注2)の支援を受けて、「移動式砂ろ過浄水装置及び、ろ過池更生システムの普及・実証事業」(2013年11月〜2016年1月)を行っている。

「移動式砂ろ過浄水装置」は車で運べるコンパクトな浄水装置だ。同社がJICAと業務協定を締結した直後の2013年11月、大型台風がフィリピンを襲った。ライフラインが寸断され、飲料水不足に悩む被災地の人々を助けるため、普及・実証事業の一環として「移動式砂ろ過浄水装置」を搬入。濁った小川の水を浄化して飲料水を作り、被災者に配布した。同社の浄水装置が災害時にも有効なことが実証された。

「ろ過池更生システム」とは、浄水場のろ過池(注3)で使用している、ろ過砂を取り出して洗浄し、ろ過砂を再利用する工事のこと。日本でも1960年代以前は、汚れたろ過砂は産業廃棄物として処分されていたが、現在では90パーセント以上の浄水場でろ過池更生システムが採用されている。

日本原料のろ過池更生システムは、同社が開発した「高速度ふるい分け洗浄機」を使用し、薬品を使わずにろ過砂をもみ洗いするもの。環境に与える影響が少ないこのシステムをメトロセブ水道区(MCWD)が導入。2014年には、MCWDの幹部や技術者を同社の工場に招いて、ろ過材の品質基準や品質管理に関する研修を実施した。研修で得た知見を生かして、MCWDでは水質改善に取り組んでいる。

今年4月には、MCWD、横浜ウォーター、JICAフィリピン事務所との共催でワークショップを実施。セブ島内の他の水道区やサマール島、レイテ島などの近隣諸島の水道事業者を招いた。訓練のため、MCWDの職員が浄水場にろ過池更生システムを搬入し、使用方法を実演してみせた。また、システムの導入に興味を持っても資金面の問題を抱える参加事業者のために、フィリピン開発銀行の担当者を招いて、資金調達の方法を説明してもらう機会を持った。

「今回のワークショップでは、参加者から個別訪問の要請を受けるなど、具体的な需要を見いだすことができました。現地が抱える課題に丁寧に対応し、フィリピンの安全な水供給に寄与していきたい」。日本原料の青島幸紀海外事業部副部長は言う。今後は要請を受けた事業体を個別に訪問し、普及活動を拡大していく考えだ。

汚泥脱水装置で水質汚染を低減

セブ市に設置された脱水装置。汚泥搬入を管理する現地スタッフ(右端)

セブ市では下水道が未整備で、家庭排水は各戸が設置している浄化槽に溜めておくか、川や海にそのまま垂れ流されている。また浄化槽の汚泥が定期的にくみ取られていないため、地下水などの水質汚染を引き起こしている。一方、くみ取った汚泥も処理施設がないため、ゴミ処分場や川、海に投棄されている状況から、汚泥を適切に処理できる安価な処理施設の建設が求められていた。これを受けて、排水処理装置などの開発・製造・販売を行うアムコン株式会社は、「浄化槽汚泥の脱水装置の普及・実証事業」(2014年1月〜2015年12月)の実施を通じて、水質汚染の低減に取り組んでいる。

同社の汚泥脱水装置は、バキュームカーが収集した汚泥を脱水し、固形分と脱離液に分離する。脱離液は適切な処理をして河川に放流し、固形分はたい肥として再利用できる。また、この装置は目詰まりしにくい、ランニングコストが低いなどの特長があり、操作が簡単なため、短期間の訓練で現地での運用が可能だ。

2014年6月、セブ市に汚泥脱水装置を含むパイロット処理施設を建設。以降、2015年4月までに2万立方メートルの浄化槽汚泥(2トンのバキュームカー1万台分)を処理した。施設から排出される脱離液は排水基準を満たした後、河川に放流している。同社はその間に、運転技術の指導や汚泥の適切な管理体制の構築も支援した。

セブ市での成果から、他市や複数の企業から汚泥脱水装置に対して引き合いがあり、産業系排水処理を請け負う企業と商談が成立。これまでに7台を納入した。今後の課題は、装置運転の維持管理をセブ市に引き継ぎ、同市の汚泥処理料金の徴収体制を整備することだ。さらにフィリピン全土への製品普及に向けて、自治体など関係者向けのセミナーを開催していくという。

廃プラスチックの燃料化や貧困層の雇用創出に貢献

ユニフォームや手袋、マスクを着用し、収集したプラスチックごみを装置に入れる作業員

経済成長と人口増加に伴い、廃棄物が増加しているフィリピンでは、廃棄物のリサイクル推進と埋立量の削減を目指している。しかし廃棄物行政のノウハウ不足、プラスチックが資源ごみとして十分にリサイクルされていないという問題がある。それはセブ市も同様だ。

萬世リサイクルシステムズは、同社が持つ廃棄物リサイクル処理技術、廃棄物管理技術、中間処理施設運営ノウハウをセブ市で活用するため、「資源循環推進事業創出に関する普及・実証事業」(2014年1月〜2015年12月)を実施している。セブ市の廃棄物最終処理場内に中間処理施設を設置し、これまで埋め立てられていた廃プラスチックからフラフ燃料(注4)を製造することで、廃棄物量を大幅に削減している。さらにウェスト・ピッカー(注5)から廃プラスチックなどを買い取るだけでなく、安全や衛生教育を行い、労働環境の改善に貢献している。

また既存のリサイクル業者や、家庭や商業施設から出る廃棄物を回収する行政区などと連携し、リサイクルの仕組み構築に取り組んでいる。今後は近隣の市でも同様の取り組みを進めていく予定だ。

各社はセブ市での成果を踏まえて、今後はフィリピン全土、さらには周辺諸国への事業拡大も視野に入れている。JICAはさまざまな自治体との連携を深めながら、中小企業の海外展開を支援することで、途上国の課題解決だけでなく、日本の地域経済の活性化にも貢献していく。


(注1)セブ市を含む7市6町で構成されるマニラ首都圏に次ぐフィリピン第2の都市圏。人口約255万人。
(注2)横浜市水道局が100パーセント出資。横浜市が培ってきた水道事業の技術力やノウハウなどを活用したビジネスを展開するために2010年に設立された株式会社。
(注3)上水道の浄水システムの一工程として、砂などを利用して水中の不純物をろ過する設備がある水槽。ろ過池で使用される砂がろ過砂。
(注4)廃プラスチック類を主原料とした細かく砕かれた状態の燃料。
(注5)Waste Picker。廃棄物の最終処分場などで有価物を拾い、それを売って暮らす人々。貧困層や子どもに多い。