民主化から20年の南アフリカ

−根深く残る格差の是正に向けて−

2014年5月2日

南アフリカ共和国(以下、南ア)において、初めてすべての人種が参加して行われた選挙を経て、故ネルソン・マンデラ氏が、初の黒人大統領に就任したのが1994年。そして同年、人種隔離政策(アパルトヘイト)が廃止された。それから20年の時を経て、5月7日には、5度目となる国民議会(下院)の総選挙が行われ、下院議員から大統領が選出される(注1)。

世界最大級の経済格差

「タウンシップ」と呼ばれるスラム街。多くの黒人層はいまだこのようなスラムに住む

アパルトヘイト廃止後、それまで白人を中心とした一部の層が享受していた経済的な恩恵が、黒人層を含むすべての層に波及することが期待されたが、状況は20年たった今でもあまり改善していない。一人当たり国民総所得(GNI)は7,610ドル(2012年)と、経済的には一見豊かな国に見えるが、1日2ドル以下で生活する人口の割合は31.3パーセント(2009年)、ジニ係数(注2)は63.6(2012年)で、世界最大級の経済格差がある。南ア全体の失業率は25パーセント、黒人の失業率は30パーセント以上、若年層の失業率に至っては50パーセントと深刻な状況だ。今回の選挙では、こうした経済格差への対策が、重要な争点となっている。

雇用創出に向けた取り組み

ツワネ工科大学で実習を視察する田中明彦JICA理事長。左は飯田護JICA専門家

JICAは1997年に現地事務所を開設し、本格的な支援を開始した。当初は黒人居住区を中心とした貧困層に対する支援に特化していたが、2000年代以降は国全体の経済成長を支援しながら、貧困層の底上げを図っている。

南ア政府は、低所得者層に対する雇用創出を喫緊の課題ととらえており、産学連携の推進、失業者への職業(再)訓練の整備などの政策を実施しているが、解決の糸口を見いだせていない。

この状況に対し、JICAは南ア政府の取り組みを支援するため、人材育成アドバイザーを派遣し、産業界が望む人材を輩出する政策の助言、産学連携モデル形成に関する技術的支援を行っている。その活動の一環として、工科大学6校を対象に、企業が求めるコミュニケーションやリーダーシップなどのソフトスキル強化を目的とした研修を実施し、日本が得意とする「カイゼン」や「5S」、プロジェクトマネジメントやイノベーションといった生産性を向上するためのコンセプトを伝授している。

根深い教育格差

配属先の小学校で算数を教える青年海外協力隊の山関萌(はじめ)さん

南アにおける経済格差を生む根本的な要因は、教育格差にあるともいわれている。アパルトヘイト時代に、人種間で明確に区別された教育が行われたことが、廃止後も労働者層の知識や能力の差を生み出した。特に算数に関しては、黒人層は意図的に低レベルの教育環境に置かれたため、能力が低いとされている。また黒人が多く居住する地方部の学校では、アパルトヘイト時代に適切な教育を受けられなかった教員が多く、教育格差は非常に根深い問題となっている。

このような状況に対し、JICAは、効果的な算数の指導方法を盛り込んだ算数教育政策の策定と展開を支援する教育政策アドバイザーを派遣している。生徒を指導する教員自身の理解度が低いため、授業の質にも影響が出ていることから、教員の質にかかわらず最低限の授業を行うことができる指導マニュアルの作成などに取り組んでいる。また、教育の現場では、実際に学校で教員の能力向上に取り組むボランティア派遣を行い、現場からのフィードバックを基に、教育政策立案能力の向上を図っている。

5月7日に実施される選挙は、アパルトヘイト廃止後に生まれた世代が投票する初の総選挙となる。JICAは引き続き、南アの新しい時代を担う人材の育成に注力し、すべての人々が恩恵を受けられる国づくりを支援していく。


(注1)大統領は国民議会による間接選挙で選出される。
(注2)社会における所得分配の不平等さを測る指標。