【Featuring Africa】エチオピアの産業構造改革と日本の役割

−神公明JICAエチオピア事務所長−

2013年6月3日

神公明エチオピア事務所長

エチオピアは、緑の高原と大地溝帯と砂漠という多様な地形から成る国だ。紀元前5世紀に遡(さかのぼ)る王国の歴史があり、独自のキリスト教文化を育んできた国でもある。日本の3倍の国土に80以上の民族が住み、文化的にも多彩だ。人々は土地を耕し、伝統を守り、欧州各国の干渉から国の独立を保ってきた。しかし、経済指標で見れば国民は貧しく、いまだ一部の地方では飢饉が発生するリスクもある。伝統的な社会制度と自然環境が複雑に絡まり、これまで変化を拒んできたように見える。

だが、今、エチオピアは明らかに変わりつつある。2004〜2012年の9年間にわたり、経済は年率平均約11パーセントで成長し、建設ラッシュで町は至る所で掘り返されている。2004年は38.7パーセントであった貧困率が、2011年には29.6パーセントとなった。インフレ率も2005〜2010年の平均で29.6パーセントと高い。そして、人々の生活は変化しつつある。その変化にJICAがどうかかわっていけばよいのか、それを考えてみたい。

農家の経営と貧困の削減 

8,400万人の人口の8割が農業によって生計を立てている。人口密度が高く、農家1世帯当たりの平均耕作地は1ヘクタールと小さい。土地生産性は低く、長い歴史の中で森林資源もほとんど失われた。天水に依存する農業は、定期的に干ばつの被害を受ける。1980年代半ばには深刻な飢餓が発生し、それ以来、海外からの食料援助を継続的に受けてきた。近年では、農村部の貧困層に対して、食料に代えて現金を給付するキャッシュ・トランスファーも大規模に導入されている。これは、干ばつの被害を受けた農民が、生産余力のある農家から穀物を購入することで、国全体としての食料自給を狙った新しいセーフティーネット制度である。

農家自身による優良種子の生産増加を支援する「小規模農民のための優良種子振興プロジェクト」

わが国は農業の生産面に重点を置いた協力を2000年から実施してきた。天水依存の脆弱(ぜいじゃく)性を解消するために、灌漑(かんがい)農業の普及を支援し、また、現地で役立つ農業技術の開発と普及のために、農民研究グループの活動を支援してきた。農民による優良種子の増産と普及活動も行っている。一村一品運動を通じて、農産物加工や手工芸品等の製造による収入源の多様化にも取り組んでいる。これらの協力は、農民の技術レベルが高まり、土地生産性が向上し、生活が豊かになることを目指している。課題は、活動のスケールアップにより明確なインパクトを出すこと、そしてより辺境の農民が裨益(ひえき)することである。

しかし、それだけでは「明るい農村」の将来像は描けない。狭い農地では、集約的で生産性の高い農業を実施しなければ、農家は生活していけない。市場へのアクセスの悪い地域では、さらに条件は悪くなる。2.1パーセントの人口増加を吸収して貧困を解消できる生産量の向上は、至難の業である。このため一部の農民は離農せざるを得ないともいわれている。では、土地を手放した農民はどこへ行くのか。

建設業から製造業へのシフト

近年の経済成長の原動力の一つが、建設業である。今、首都アディスアベバでは、道路工事が進み、古い平屋の建物がビルに建て替えられている。建設業は当面の雇用を創出し、町に活気と混乱をつくり出している。都市部の失業率も過去2年間で18.9パーセントから17.5パーセントとなった。政府は、積極的にインフラ整備をすることで、資金循環を活性化させている。しかし、つくられたインフラが有効に活用されるための産業を育てなければ、過剰投資となり、経済成長を持続させることはできない。また、恒常的な就業機会をつくり出すためには、既にGDPの45パーセントを占めるサービス業に加えて、雇用吸収力のある工業・製造業を伸ばすことが必要だ。では、エチオピアのGDPの13パーセントを占める工業・製造業において、どのような産業が期待されるのか。

カイゼンの手法を取り入れ生産性が向上した靴工場

一般的に、後発工業国で比較優位を持つ産業の一つが、低コストの労働力を必要とする繊維産業であり、エチオピア政府の5ヵ年計画である「成長・経済構造改革計画」(2010〜2015年)においても、繊維産業は発展が期待される産業の筆頭である。しかし、エチオピアでは、残念ながら現時点では繊維産業がGDPに占める割合の伸びは芳しくない。そんな中、高品質の原材料を生産していることで比較優位性があるとして注目されているのが、皮革加工である。政府はこれまで振興してきた原材料の輸出を規制し、靴や鞄(かばん)といった完成品を輸出することで付加価値を高める戦略をとっている。その他、砂糖やセメントへの期待も大きい。

このような産業開発に貢献しているのがJICAのカイゼン・プロジェクトである。日本の企業が育んできた品質管理・生産性向上のノウハウにより、2011年までに30の企業の工場で5Sを中心としたカイゼン(注)が実施され、作業効率が上がった。これを受けて、政府はエチオピア・カイゼン機構を設立し、2014年までに全国の製造業関連の265の大・中・小企業にカイゼンを広めようとしている。課題は、カイゼンを一過性のブームではない、エチオピア人の生活に根づいた行動変容につなげることである。

 産業構造改革とJICAの役割 

アフリカの産業構造は、就労人口は多いが労働生産性の低い1次産業と、インフォーマルセクターが大きく生産性の低い3次産業に特徴がある。これに比べて2次産業は小さく、また、地下資源に依存した資源開発型の事業が多い。このため、雇用吸収力のある製造業を振興して、2次産業の比率を拡大していくことは、今やアフリカ各国共通の課題である。エチオピア政府もまた、「成長・経済構造改革計画」という名のとおり、産業構造の改革を打ち出している。

経済成長を通じた貧困削減は、日本政府が一貫して掲げてきたアフリカ支援の方針である。もちろん、経済成長が社会の格差を拡大させるリスクは常にある。だからこそ、より多くの人々が経済成長のプロセスに参加できるよう、すそ野の広い農業の生産性の向上とともに、労働集約型の製造業を振興していくことが、インクルーシブな開発につながると考えている。また、それが、「ものづくり」を重視し、都市と農村の格差是正に努めた、日本的な開発モデルであり、アジア諸国への支援でも実績を上げたアプローチであると思う。農業開発と産業振興の両輪でエチオピアの産業構造改革を支援していくことで、アフリカへの開発援助のモデルをつくりたい。


(注)5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)などの手法を用い、日本企業で活用されてきた「みんなで職場を継続的に改善していこう」というボトムアップの活動。

<プロフィール>
神公明(じん・きみあき)
1961年生まれ。北海道江別市出身。1986年、国際協力事業団(現JICA)に入団。研修事業部、農林水産開発調査部、アフリカ部、英国事務所等に勤務したほか、環境庁(当時)へ出向。1990〜1993年、2003〜2006年に続き、2013年3月より3回目のエチオピア勤務。


【TICAD Vの開催に合わせ、アフリカの開発課題、事業の最新動向、援助の在り方についての分析など、アフリカをシリーズで特集しています】