

ベトナムでは、1986年のドイモイ政策以降、民間保健医療サービスの自由化、自己負担制度や医療保険制度の導入等の様々な改革を行ってきたことで、保健医療の状況が大きく改善しました。他方で、貧困格差の拡大、山間部と都市部における医療サービスの格差増大が新たな問題となっています。また、予算不足や関連行政機関の管理運営能力不足など、課題も残されているのが現状です。
上記を背景として、JICAは、2001年10月に、北部保健医療体制強化に関する調査団を派遣しました。この調査の結果、一般住民や社会的弱者層への裨益効果が高く、効率的な保健医療体制を整備するためには、リファラルシステム(注1)を再構築する必要があることが明確になりました。また、そのための方策として、バックマイ病院の地域病院指導活動(DOHA(Direction Office for Healthcare Activities)活動)との連携を視野に入れながら、モデル地方省において、集中的にプロジェクトを実施することで成功事例をつくり、そのモデルを他の省へ拡大していくことを提案しました。
以上のことから、JICAは、ホアビン省をモデル省として、技術協力プロジェクトを実施しています。このプロジェクトでは、ホアビン省保健局の管理・指導能力向上に向けた活動を行うと共に、バックマイ病院との連携を通じて、ホアビン省病院DOHA部の管理・指導能力の向上を図っています。また、院内感染対策の強化や、医療機材管理の改善等を通じて、ホアビン省病院が、リファラルシステムの中で有効に機能するよう支援しています。さらに、情報交換の促進や、救急医療システムの強化等を通じて、ホアビン省内の患者リファラルシステムを整備しています。
このプロジェクトを通じて、ホアビン省における地域医療システムを強化し、そのシステムが、モデルとしてベトナム北部に普及することで、北部地方の医療システム整備に貢献することが期待されています。
(注1)リファラルシステム:疾患状況に応じて適切な医療サービスを受けることが可能となる病院間の患者の紹介体制

山間部にあるホアビン省は、全国の中でも平均寿命や乳児死亡率等の保健指標が低く、早急な改善が求められています。そこでJICAは同省の保健医療水準を向上させるため、省保健局と協力しながら郡病院に対する研修にかかる管理・指導機能の強化と患者リファラルシステム(注1)の整備を省病院のDOHA部(注2)を中心に展開しています。
(注1)患者リファラルシステム−患者の症状や状態に応じて、省−郡間で適切な病院へと患者を紹介・移送する仕組み。
(注2)DOHA−Direction Office for Healthcare Activities.:地域医療指導活動と呼ばれる。保健医療分野の地域格差を是正するため、上位レベルの病院が下位レベルの病院に対して指導を行う活動

JICAと日本政府の支援で完成したホアビン省総合病院の新しい技術棟の手術室で、ホアビン市街に住むDucさんとQuyさん夫婦の2人目の赤ちゃんが帝王切開で生まれました。Quyさんは「新しくなった病院は見た目にも綺麗だし、患者へのサービスも良くなったので、リラックスして出産できました」と赤ちゃんの顔を見ながら嬉しそうに話してくれました。
新技術棟の玄関に掲げられた“全てを患者の満足ために”の標語はTruong Quy Duong院長が考えた、病院にいる全ての人へのメッセージです。「JICAとの協力で得られた一番の成果は、患者とのコミュニケーション能力を向上させる研修を契機に、病院スタッフの目線が患者に向き始めたことです。これが医療の質の向上につながっています。」とDuong院長は笑顔で話してくれました。


医療サービスの向上は医療技術だけでなく、医療従事者への研修による能力開発や、地域医療全体を見据えた仕組み作りによっても改善できます。そこで病院間での研修管理システムの強化や患者リフェラルシステムを整備するプロジェクトを実施し、地域医療の水準を底上げしています。
ホアビン省保健局人事部長のNguyen Van Quaさんは「このプロジェクトを進めるにあたり、仕事が難航したことはありました。しかし、JICAの関係者が懸命に責任を果たそうとする姿に、我々ベトナム人も最後は心を動かされました」と言います。また同省保健局長のQuach Dinh Thongさんも、組織間のコミュニケーションを密にする日本の方法で、様々な改善が見られたといいます。「DOHA部を中心に研修管理の強化やリファラルシステムの整備に取り組んだことで、省全体の医療サービスは着実に向上しています。このプロジェクトで得られた経験は、他の省と共有しベトナム全土へと伝えるのが目標です」と将来の夢を語ってくれました。
撮影/原稿作成協力:西貝寫眞館 西貝 雅人氏