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感染症危機の教訓と、国際秩序の変容 ー北岡理事長が熊本県立大学の白石隆理事長と対話-

2020年7月27日

北岡伸一JICA理事長は、7月27日、熊本県立大学の白石隆理事長とオンラインで対話を行いました。これは、JICAが立ち上げた「ポスト・コロナの世界における国際協力」研究の一環として、北岡理事長と国内外の有識者が、対話を通じて今後の世界と国際協力のあり方への考察を深める取り組みです。

冒頭、北岡理事長は、今回のパンデミックが国際政治に大きな影響を及ぼすだろうと指摘した上で、本研究会の主題である、コロナ危機の教訓は何か、「ポスト・コロナの世界」がどうなるのか、日本・JICAはより良き世界の構築のためにどう貢献すべきかについて、東南アジア地域について深い見識を有する白石理事長のご意見を伺いたいと述べました。

白石理事長はまず、感染症危機で国民の命(安全)が危険にさらされた結果、各国において、国家と国民の間の一種の合意である「黙示の契約」における「安全」と「豊かさ」と「自由」のバランスを再考する動きが進むだろうと指摘しました。そして、“unknown unknowns”(全く無自覚だった不測の事態)への備えができていなかったことが露呈したため、今後は資源の長期的・戦略的配分を行う必要があり、国家の能力を涵養する必要性が高まると主張しました。

次いで、白石理事長は、今後はグローバリズムの終焉や、地政学的対立の舞台が太平洋へ移動するといった秩序変容が起こり、米中関係やアジアの国際関係に影響を与えるだろうと指摘しました。ただし、これらを議論する際には、米中に大きな政治的変動が起きる時間の幅や、米中経済関係のデカップリングの動向、先進国と中国の援助の性質の違いに注目すべきだと述べました。最後に、アジア諸国の今後の課題は、「安全」と「豊かさ」の間でいかにバランスを取るかだと指摘しました。加えて、日本はこれらの国との間で構築してきた信頼を財産として対外政策を展開していくべきだと訴えました。

続いて、北岡理事長および研究会メンバーとの対談では、現在の国際秩序に対する国ごとの認識の差異、サプライチェーンの再編に伴うアジアの力関係の変化、今後の米中のバランスの変容について意見交換が行われました。

対談を通じて、白石理事長と北岡理事長は、アジア諸国と日本の間では、政府、民間などあらゆるレベルでの重層的な対話が重要であること、信頼関係を構築するためには本音で話せる環境の維持が不可欠であることについて認識を共有しました。また、感染症危機の教訓を生かし、よりよい国際社会を実現するために、日本がどうすべきかの検討が深められた対話となりました。