SHEPのコンセプトは、経済学と心理学のハイブリット。「ビジネスとしての農業の推進」、「人が育ち、人が動くためのデザインと仕掛け」の2つの要素から成っています。
JICAはケニア農業省と協力し、ケニアで2006年から3年間、平均0.5ヘクタールほどを耕す小規模農家が市場に対応した栽培や営農、輸送の課題に自ら取り組めるように能力強化を図り、小規模園芸農家の所得の向上を支援することを目指して事業を行いました。事業名は「小規模園芸農民組織強化計画プロジェクト/Smallholder Horticulture Empowerment Project(SHEP)」略称は事業の英語名の頭文字をとった「SHEP(シェップ)」です。その結果、わずか2年で支援対象農家約2500名の平均所得が2倍になるといった成果が見られました。この事業から生まれたのが、事業の名前を冠した「SHEPアプローチ」です。
農家と市場関係者が有しているお互いの情報を共有することでWin-Winの関係を築くこと。農家を中心としたプロジェクト関係者がモチベーションを高める仕掛け。この二つが満たされた活動が、SHEPのオリジナリティーです。例えば、農家による市場調査とその後の作物選定は、農家と市場関係者との情報の非対称性を緩和するとともに、自分たちで市場調査が出来たというコンピテンス欲求と自分たちで対象作物を決めたという自律性の欲求が満たされます。SHEP案件、あるいはSHEP活用案件といった場合、こうした二つを満たした活動が、「意図的に」実施された案件のことを指します。モチベーションに関しては、SHEPのみならずこれまでの技術協力の中で考慮されてきました。
経済学に「情報の非対称性」という理論があります。生産者から消費者に至る市場流通のアクターそれぞれが持っている情報をお互いに知ること、つまり情報の非対称性を緩和することによって商取引が効果的になされるようになります。これを農産物の流通にあてはめると、生産者が持っている生産物に関する情報と、その買い手となるアクターのニーズに関する情報、つまり「誰が」、「どんな種類の作物を」、「どんな品質で」、「いつ」、「どのくらい」、「いくらで」売りたいか、もしくは買いたいかをマッチングさせることで、取引が成立することになります。また、農家の立場から言えば、買い手となるアクターのニーズを事前に知ることができれば、自分が生産者としてできることと比較しながら、より儲けを生み出す栽培計画を立てることができるのです。
心理学に「自己決定理論」という裏付けされた考え方があります。人間には生来持っている3つの心理学的欲求(自立性、コンピテンス/有能感、関係性)があり、誰かから与えられた報酬よりも、自立性や有能感など自分自身の心、つまり内から発せられるものによってこそ、モチベーションを高めて自ら行動を起こしていくという理論です。
SHEPでは、活動を行う時に、この3つの欲求に注意を払い、農家が自発的に考えて課題に取り組むように仕向けたり、その結果得られる達成感や「自分でも出来るのだ」という有能感を積み重ねていく過程を大事にしたり、農民組織内でのつながりやプロジェクト関係者との関わりの中で、押しつけではない内発的な動機が生まれ、やる気が引き出されてくるのです。
「人が育ち、人が動くためのデザインと仕掛け」についてもっと知りたい方は、「現場の声からひもとく国際協力の心理学」という冊子が発刊されています。