教育だより第32号(2021年6月発行)より
2020年3月の保育士研修終了式を境にプロジェクトの活動はすべて見合わせとなり、私自身も4月には日本に退避一時帰国、エジプトの保育園も休園を余儀なくされました。あれから1年以上が経ちますが、子ども達は日々成長しています。様々な制約の中でも根付き始めた「遊びから学ぶ」保育の実践を続けるため、子ども達の成長・笑顔のための保育環境を守る取り組みを紹介します。
エジプト政府は2020年8月に保育園再開の指針を決定、感染予防対策研修の受講や、非接触型体温計による検温など衛生対策・換気の徹底を求める通知を出しました。しかしながら、受け入れる子どもの人数を大幅に減らし経営環境が大変厳しい保育園にとって、子ども達の安全を確保するための感染症対策を実施するのは大きな課題となっています。
2020年11月以降、プロジェクトでは300の保育園を対象に緊急支援として1)子どもの心理や行動を踏まえた感染症対策の在り方を伝える感染症対策研修、2)感染予防キットや扇風機等の供与をしてきました。また、感染症対策は保育園だけでは難しいため、手洗いポスターを保護者・地域社会に配布し啓発活動にも力を入れています。
子ども達の成長を支える保育士たち。まだまだ専門職として認知されない保育士の能力向上とエンパワーメントに力を入れてきました。給料が安く離職する保育士も少なくない中、コロナ禍でやる気をなくしてしまうことがあってはなりません。感染症対策研修受講者には社会連帯省とJICAプロジェクトから修了証を渡すことにこだわりました。修了証を渡すことを通じて、保護者、地域社会から子どもの安全・成長を支える専門知識をもった人として認知されるようになってほしいとの思いを伝えてきました。「この厳しい状況だからこそ、子どもの安全を守りきりましょう」という私の訴えに多くの保育士が頷いてくれました。
一連の活動を通して社会連帯省大臣、各県支局長にもこの危機を乗り越えるための保育士支援、保育士のエンパワーメントの重要性を伝え支持を得ることができました。
今後も、保育士とともに保育環境整備、「遊びを通した学び」の更なる普及に向けた取り組みを続けていきます。
(執筆:就学前教育・保育の質向上プロジェクト 神谷哲郎)