日本で働く外国人材はこの10年で約2.5倍の173万人に増加しました。その半数は開発途上国出身で、送金などを通じて母国の経済成長にも重要な役割を果たしています。JICA緒方研究所が2021年度に実施した「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究」では、日本の持続的な経済成長のためには今後20年で現在の4倍、約674万人の外国人労働者が必要と試算されました。国際的な人材獲得競争が激化するなか、日本での受入れには課題も多く、外国人材から「選ばれる国」になるためのアクションが急務です。JICAは来日前、日本滞在中、そして帰国後における外国人材の抱えるさまざまな課題に対し、JICAの強みを生かし、「4つの柱」を軸に取り組みを進めています。
2021年度、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、人口減少に直面する我が国の持続可能な開発目標(SDGs)の達成及びアジア諸国との共存・繁栄をゴールとして、外国人受入れと社会参加支援・共生の2つの面から現状分析と将来予測を行う調査研究を実施しました。同研究所は、外国人との共生社会の実現に向け、今回の調査・研究報告書に続き、今後、アジア各国の労働力がどの国に移動しているのか、労働移動の要因などについての研究も行う予定です。
外国人も日本人も活躍できる、安心安全で多様な機会が全ての人に与えられる「共創」社会の実現のため、JICAは様々な取り組みを進めています。
日本語学習、インターン、就労・生活環境支援等という、就職までの一連の流れにおいて、宮崎市・宮崎大学及び地域の企業が連携することで、高度外国人材導入を推進してきました。JICAの技術協力プロジェクトの一環として導入したバングラデシュ側での研修プログラム(B-JET:Bangladesh-Japan ICT Engineers' Training Program)は、2021年7月から宮崎大学及び現地の私立大学に継承され、バングラデシュ側での人材育成も継続しています。また、現在は、これまでに蓄積してきた知見・経験を基に戦略的な高度外国人材導入を日本国内の他地域でも推進することを目指し、宮崎大学とJICAで関心のある関係者向けの合同勉強会等を実施しています。
株式会社菅原工業(気仙沼)は、2015年、JICA「中小企業海外展開支援事業」(当時:現名称「中小企業・SDGsビジネス支援事業」)「案件化調査」を活用し、再生アスファルトを使用した省エネ・省資源道路舗装技術のインドネシアでの事業展開のための現地調査をし、現地での活動基盤を強化しました。別途並行し、インドネシアから技能実習生を受け入れ、実習終了後も同社の現地法人で職長として採用される可能性、将来的に再び日本本社で働くことも視野に入れた、日本とインドネシアの人材還流による企業活動の構想を実現する取り組みをしています。
南太平洋に浮かぶ人口10万人の島国、トンガ王国では国内の就労機会が十分でないため海外への出稼ぎが一般的です。株式会社成田空港ビジネスはトンガの若年層に対する教育スキーム構築のための調査を実施します。トンガでの教育スキームを終了した若者は、日本での就労経験を経てさらなる能力向上を図るとともに、長期的には母国へ帰国後、還流人材として空港関連業務を含む観光業界を中心に活躍し、トンガの経済成長に貢献することが期待されます。
農業分野の外国人材受入れ優良事例ドキュメンタリー等
JICAはカンボジア、ベトナム、ラオス、ミャンマー、モンゴル、キルギスに設置された日本人材開発センター(通称:日本センター)を通じ、日本での就労に関心を持つ方々に日本での生活やビジネス環境に関する正しい情報を提供し、就労に向けた準備を支援する取り組みを進めています。
このうち、モンゴル日本センターでは、茨城県外国人材支援センター、JICA筑波とともに、モンゴル人材の日本での就労に向けたイベントを開催しています。具体的には、日本企業に対するモンゴル人材の強みや特性の紹介、外国人材雇用のための啓発を目的としたウェビナー「モンゴル人材活用フォーラム」の他、日本での就労に関心をもつモンゴル人材に対し、日本で働くための基礎情報の提供、茨城県企業の紹介や茨城県のPRを目的とした「茨城県就職フェア」等を通じ、両国の関係者へ必要な情報を届けています。
また、日本に出発する前、帰国後人材に向けたキャリア形成支援にも着手しております。例えば、日本留学・就労経験をもつ方々を集めたトークイベントを開催し、キャリア形成について主体的に考える機会を提供しています。
釧路・根室管内の多様な「地方創生」の取り組みに、JICAが持つ多様な人材や事業を複合的に組み合わせて、管内の外国人材受入・多文化共生社会構築を支援するモデルです。
管内の地方自治体や札幌出入国在留管理局釧路港出張所とも連携し、地域で活躍しているJICA海外協力隊OBOGや地域おこし協力隊、外国人材と一緒に、JICAfe2.0イベントやリレー型オンラインサロンを実施し、地域の関係人口創出、外国人材を活用したインバウンド誘致、町の基幹産業を支える外国人材の活躍発信等に繋げています。
本事業は、日本国内の日系人集住都市に中南米から日系人をJICA研修員として受入れ、保育園、幼稚園、小中学校、自治体、NGO、企業などで研修を受けながら自らの専門性を磨くとともに、日本国内で課題を抱える在日日系人のために日本語/母国語サポーター、ソーシャルワーカー、相談役といった役割も果たし、在日日系人のサポート、日系人集住都市の多文化共生・地方創生に貢献する事業です。また、日系人自身の専門性強化を通じた帰国後の中南米地域の開発にも資することが期待されます。
JICA横浜
JICAペルー事務所
ムンド・デ・アレグリア学校:ラテンアメリカからの子どもたちのための日本語指導者養成研修(中部所管)
同校が開発した日本語・漢字指導法を日本語学習者として学んだのち、初期日本語クラスにて日本語指導の実践経験を積むとともに、生徒たちは中南米から来た日系サポーターから母語のスペイン語やポルトガル語で指導を受けることで学習理解の促進、モチベーション向上など様々な効果が生まれています。
特定非営利活動法人可児市国際交流協会:在日日系ブラジル人へのソーシャルワーク研修(中部所管)
同協会が実施する外国人生活相談業務、多文化ソーシャルワークや在日日系人子弟への日本語教育及び母語教育等を通じてソーシャルワークや多文化共生の取り組みへの理解を深めるとともに、ポルトガル語でブラジル日系人児童や公立高校などでの生徒への学習理解のためのサポートや、地域住民へのブラジル文化紹介により相互の文化理解を図る活動も行っています。JICA中部が実施する多文化共生関連のセミナーにおいても、自らの経験から日本国内の喫緊の課題である「外国に繋がる子どもの教育支援」について言及し、具体的に支援するための視点や母語継承、キャリア教育の必要性を伝えました。