
行政機関は概して、社会の中で非創造的な存在だと見なされがちですが、行政機関の革新的な能力は、国が発展する道筋を決める上で決定的な要因となります。これは特に、社会経済的な発展において重大な局面を迎えている東南アジア諸国と日本に言えることです。東南アジア諸国は「中所得国の罠」を回避しなければならず、日本はこれまでどの近代国家も経験したことのない高齢化と人口減少という課題に立ち向かっていかなければなりません。どちらのケースでも、課題を解決するためには行政機関によるイノベーションが必要なのです。
本書では、これまでほとんど探求されたことのない行政機関内部におけるイノベーションのダイナミクスを検証しています。革新的な課題解決能力に影響を及ぼすものは何か? それを見いだすべく、東南アジア諸国と日本の行政機関の事例を取り上げて検討し、その結果に基づいてイノベーションを創発する上で必要とされる行政機関の組織力を促進する具体的な手段について提言しています。
また、本書の特徴は、野中郁次郎一橋大学名誉教授が提唱した知識創造理論を公的セクターに応用したことです。同理論はナレッジ・マネジメントの中心的な枠組みとして民間セクターでは広く応用されていますが、公的セクターにおける試みは限られていました。本書は、組織的学習とイノベーションに焦点を当てた行政改革の新しいアプローチを切り開く可能性を示しています。
本書は、2013年3月から2015年9月にかけて、国際協力機構(JICA)、政策研究大学院大学(GRIPS)、一橋大学大学院国際企業戦略研究科 、並びにインドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムの主要政策研究機関が共同で行ったプロジェクト「東南アジア型組織経営モデル研究(Case Study and Modeling of Organization Management in Southeast Asia)」の成果物です。このプロジェクトに基づき、本書と同時にもう1冊の書籍『Knowledge Creation in Community Development: Institutional Change in Southeast Asia and Japan』も出版されています。