
世界の主要な穀物生産国の一つであり、2011年には世界最大の大豆輸出国にもなったブラジルはかつて、穀物の輸入国でした。1980年代、日本も協力した大規模な農業開発により、かつて不毛の地だった広大な熱帯サバンナ地域「セラード」が世界で最も生産性の高い農業地帯の一つへと生まれ変わり、状況が一変したのです。それは、熱帯地域で初めての近代的穀物農業の実現であり、「セラードの奇跡」とも呼ばれています。
本書は、セラード開発を、「持続可能な農業」の発展プロセスとしてとらえ、その過程と成功の背景を明らかにしようとしています。
本書の編者は、細野昭雄JICA研究所シニア・リサーチ・アドバイザー(SRA)、Carlos Magno Campos da Rocha元ブラジル農業研究公社(EMBRAPA)総裁、本郷豊・元JICA国際協力専門員の3人が務めました。
セラード開発は、広範で多様な農業と関連産業からなるバリューチェーンを発展させ、高い付加価値と競争力を持った食肉などの輸出品を生み出しました。その結果、雇用機会と地域開発にも貢献しました。また、技術・制度面のイノベーションにより、環境に配慮した持続的生産の拡大を実現しました。
3人の編者は前書きの中で、次のように指摘します。
「食料問題を解決し、バリューチェーンと雇用を創出し、インクルーシブな(包摂的な)成長と持続可能な開発を目指して苦闘する開発途上国にとって、セラード開発は貴重なモデルである」
細野SRAと本郷元専門員が執筆した第1部「Development of Cerrado Agriculture(セラード農業の発展)」では、まず、セラードでの農業がいかにして可能となったのかを説明しています。続いて、セラード農業によってもたらされたインクルーシブな開発の進展を分析し、最後に、セラード地域の農業について、持続可能な開発という視点から論じています。
第2部「Technological and Institutional Innovations that Enabled Sustainable Cerrado Agriculture(持続可能なセラード農業を可能にした技術面・制度面のイノベーション)」の各章は、Carlos Magnoをはじめとするブラジルの研究者や実務者によって書かれ、セラード農業発展に寄与したのブラジルの主要機関の役割について論じています。
本書には、田中明彦・元JICA理事長と、Alysson Paulinelli元ブラジル農業大臣が序文を寄せています。