新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を契機として、国際政治学において、「より効果的にパンデミックに対応できるのは権威主義と民主主義のどちらによる統治か」という二項対立的な議論が起こりました。
本論文では、民間調査機関であるEconomic Intelligence Unitによって権威主義国に分類されているベトナム政府が、①垂直的および水平的な政治制度やネットワーク、ソーシャルメディアプラットフォームの活用、②リスクコミュニケーションと科学的に信頼できる情報の提供を通じた説明責任と透明性の向上、③ベトナム共産党(Communist Party of Vietnam: CPV)の傘下にある関連組織など多様なステークホルダーの動員により、少なくとも2021年までは効果的にCOVID-19のパンデミックに対応したことを提示しています。その過程で、こうした社会的試行として、市民がパンデミックに対する取り組みに参加できるようになり、国家と社会の関係に変化をもたらしたことを示しています。ただし、こうした、危機下での国家と社会関係の変化は、日常生活を取り戻す中で本質的改革にはつながらない可能性があると指摘して論を閉じています。