本研究はマイクロクレジット (小規模無担保融資)が稲作技術の採用および生産性に与える影響をタンザニアで行われたランダム化比較実験のデータを用いて検証する。
世界的なマイクロクレジット機関であるBRACと共同で農業向けのマイクロクレジットをランダムに選択された農家に提供し、intention-to-treatment effect (ITT) およびlocal average treatment effect (LATE) の推計を行った。その結果、マイクロクレジットは化学肥料投入量、単位面積当たりの収量および収益に統計的に有意な影響を与えないことが分かった。さらに、比較的よく整備された灌漑地区とそうでない灌漑地区を比べた結果、比較的よく整備された灌漑施設では、もともとある程度肥料投入量が多く、農家はクレジットを用いても施肥量を増やさないことが明らかになった。また、灌漑の整備が十分でない地区では、近代品種の普及が進んでおらず、肥料反応性が低いため、クレジットによって施肥量は増えるが、それが生産性の大幅な向上にはつながっていないことが示された。実験以前に農業研修を受けたことがある農家とそうでない農家の比較においても、同様の結果が確認された。
キーワード:マイクロクレジット、技術普及、農業、タンザニア、アフリカ