大量に排出される資源ごみへの対応がなかなか進まないラオスの首都ビエンチャン市。
回収への市民の意識はあるが、仕組みが追いつかないのだ。
そこに名乗りを上げたのが地球環境センター(GEC)と京都市。日本での経験をラオスで生かした。
文:久島玲子(編集部)
ラオスの首都、ビエンチャン市。人口約80万人(2015年)のこの街では、毎日およそ350トンから650トンのごみが発生しているといわれている。そのほとんどが埋め立て処分されるが、近年はペットボトルなどのプラスチック容器や製品、アルミ缶などの金属類といった自然に分解されないごみが増え、問題となっている。とくに大量に発生するのがペットボトルだ。ラオスの水道水はそのままでは飲用に適さず、ほとんどの人がペットボトルの水を買って飲むため、その量はごみ全体の重さの1パーセントを超えるともいわれている。
2015年、そんなビエンチャン市のごみ問題に対して、大阪市の地球環境センター(GEC)と、環境先進都市としてごみ問題に対してさまざまな取り組みを行ってきた京都市が共同で行う草の根技術協力事業「首都ビエンチャン市における市民協働型廃棄物有効利用システム構築支援」が始まった。
「ビエンチャン市では、資源ごみはまったく分別されていませんでしたから、はじめの5か月は、それらをどう分別し、どう回収するか、その方法を検討しました」とプロジェクトの始まりを語るGECの田中真一さん。
資源ごみの回収には三つの方法が考えられる。日本で一般的な「行政による収集」、店舗などに回収ボックスを設置する「拠点回収」、そして京都市が実践している「京都モデル」と呼ばれる、市民の協力を得て地域で取り組む「コミュニティ回収」だ。ビエンチャン市内で四つのモデル地区を定め、三つの回収方法を試してみたところ、定期的な回収日を決めてその日に資源ごみを持ち寄ってもらうコミュニティ回収は、仕組みが簡単でコストもかからず、住民の協力がいちばん得られた方法だった。
京都市でのコミュニティ回収実践の経験を持って事業に参加した瀬川道信さんによれば、「ビエンチャンの人たちは、3Rという言葉もペットボトルやアルミ缶がお金になることも知っていましたが、これまでは個人で回収業者に引き取ってもらっていました。住民の中にきちんとした仕組みがほしい、という要望がありました」という。
こうして2016年からモデル地区でのコミュニティ回収が始まった。「いちばん心がけたのは〝わかりやすさ〟です。ローテクで、できるだけ低コストの方法を選ぶことで、私たちの支援が終わった後もラオスの人たち自身が仕組みを続けることができます」と田中さん。そのため、回収はペットボトルとアルミ缶の2種類から始めた。さらに、信頼できる回収業者を選ぶことで引き取り価格を安定させた。資源ごみを決まった日に決まった場所に持っていけば、その場で信頼できる価格で買ってもらえる。シンプルな仕組みだからこそ、住民に定着していった。「続けていく中で、ほかの資源ごみも回収したいと住民から声が上がり、段ボールやプラスチックの回収が始まった地区もあります」と、着実に成果が上がっていることを田中さんは笑顔で説明する。
もうひとつ、この支援で力を入れたのが〝環境教育〟だった。
子どもたちに向けて、ごみ分別をわかりやすく説明した絵本を製作したのだ。「タイトルは『ごみの旅』。モデル地区の小学校の先生と一緒に、わかりやすい表現にしました」と田中さん。手引書やモデル授業のDVDも作成し、市内300校に配布し、子どもたちがごみの分別を考え、実践するきっかけ作りとした。
さらに、ごみ分別を推進するキャラクターを小学生から募集。「混ぜればごみ、分ければ資源」という標語とキャラクターを使ったチラシやキャンペーン用の透明なごみ袋を作ったりして、子どもたちも含めて住民の人たちの意識を喚起していった。「子どもたちへの教育は、子どもだけでなく親にも広がっていくので効果が大きい」と語る田中さん。理屈だけでなく、楽しみながらごみのことを考えた子どもたちが大人になる頃には、ラオスでもごみの分別は当たり前になっているのかもしれない。
「ごみに対する意識は日本とさほど変わらなかったので、どう回収の仕組みを作り、継続していくかが大きなポイントでした。計画から実行まで、日本側がすべてをお膳立てするのではなく、ラオスの人たちが自分たちで考え、生み出す苦労をしないと継続できません。まず日本側がやってみせて、一緒にやり、自分たちなりに工夫していく形ができれば、今後につながっていくと思います」と言うのは瀬川さん。
田中さんは「よくここまで形になったと思います」と感慨深げだ。「ごみだと思ったものが収入になり、おもしろみが出てくるんでしょうか。口コミで広がっていますし、なによりコミュニティ回収に集まる人たちの顔が明るく楽しんでやってくれています。行政・住民・回収業者の3者が密にコミュニケーションをとることで、もっと広がっていくと思います」と期待を込める。
ビエンチャン市は、今後3年間でモデル地区を増やす計画を発表している。ラオスでの今後の取り組みの広がりが楽しみだ。
ラオスの首都。メコン川沿いに広がる街で、川の向こうはタイ。近年、市民の生活水準の向上や様式変化でごみの種類が複雑化し、埋め立てだけでは対応しきれなくなっている。また市民にも、3Rの推進やリサイクルへの期待が高まっている。
1992年、「国際花と緑の博覧会」をきっかけに設立。大阪市に蓄積された環境保全の知識や経験を、国際連合環境計画国際環境技術センターへの活動支援や地球温暖化対策、開発途上国への技術支援などに活用している。
京都市では、ごみの発生抑制・再使用や分別・リサイクルでごみの大幅な削減を目指し、2004年にコミュニティ回収制度を創設。地域の住民による自主的なごみ減量・リサイクルの取り組みを支援し、古紙類、古着類、缶類、びん類などが回収されている。