世界とつながる教室 ザンビアの食から世界に視野を広げる 大田区立馬込第三小学校(東京都)

東京都大田区立馬込第三小学校教諭の堀江理砂さんは、2017年の夏休み、「JICA教師海外研修」でアフリカ南部のザンビア共和国を訪れた。
現地で学んできたのはザンビアの食文化とフードロスについて。
帰国後は、ザンビアでの経験や知識をもとに授業を組み立て、子どもたちは食を通して国際理解を深めている。

文:久島玲子(編集部)

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村人たちと一緒にンシマを作る堀江さん(右)。長時間練らなければならないので、かなり力がいる

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ザンビア ルサカ

「JICA教師海外研修」でザンビアを訪れた堀江理砂さんが、現地での研修のメインに据えたのは「食」だった。「家庭科で国際理解を教えるには、子どもたちに身近な〝食〟をテーマにすることがいいと思いました」。しかし、事前に日本で調べてもなかなか情報がない。「もう現地で調べるしかない、と腹をくくりました」。ザンビアに行って、現地の人たちの食べ物のレシピをもらい、作り方を学び、日本でも作れるようにすることというミッションを掲げ、堀江さんは2017年8月6日、ザンビアに旅立った。

ザンビアの食文化と食の現状を現地で学ぶ

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ンシマ

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自撮り棒で写真を撮るザンビアでの堀江さん。子どもたちが周りに集まってきた

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ともにザンビアで研修した仲間たちと。11日間の研修で、都市部、スラム、村など4か所の小学校、病院や給水所、銅の採鉱場なども見学した

初めて訪れたザンビア。首都ルサカは思った以上に大きな都市だったが、市街地を抜けたとたんに景色はのどかになり、電気・ガス・水道のない村々が現れる。そんな村で学んだのがザンビアの主食「ンシマ」だ。これは乾燥させた白いトウモロコシを粉にし、水を加えてひたすら練り、最後に蒸すもので、もちもちした蒸しパンのようなもの。ザンビアでは、各家庭で毎食手作りしている。「ンシマ棒という練る道具があって、かなり力がいります。日本のお餅つきをイメージすると近いかもしれません。女性は、これが作れないとお嫁にいけない、そういう食べ物です」。

おかずは野菜や川魚、イモムシ(貴重なタンパク源)などで、鶏肉を食べるのは月に2回ほど。農村部ではほぼ自給自足で、電気がなく冷蔵庫が普及していない地域が多いため、保存が難しく、意外にフードロスが多い。ザンビア全体の食料自給率は86パーセントと高いが、ルサカのマーケットに並ぶ多種多様な食品のほとんどが南アフリカ産。ザンビアでの農業や食品加工産業が未成熟なことがわかる。

「人々は1日2食か3食でトウモロコシがメイン。スラムの子どもたちは1日1食しか食べていないこともあります。食料の自給率は日本よりも高いのですが、栄養が足りず、偏りもあります。こうしたザンビアの食の現状を伝えながら、フードロスや食の平等などについて、子どもたちと考えたいと思いました」

多彩な授業で国際理解を深める

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リンダさんとンシマを作る日本の子どもたち

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給食も一緒に食べた

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食料とそれを廃棄するもったいない鬼に分かれ、生産から消費までの過程を追う「もったいない鬼ごっこ」。遊びながら食料廃棄を学ぶ

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「貿易ゲーム」では、不平等な条件で貿易格差が広がる仕組みを体験

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パワーポイントに画像や動画を入れ、子どもたちの興味を喚起する授業

帰国後、堀江さんはザンビアでの研修の成果をふまえて、6年生の家庭科の単元「共に生きる」の11時限分の授業を組み立てた。

前半は、ザンビアからのJICA長期研修員リンダ・ムススさんを迎えた出前授業と調理実習が行われた。「ンシマ」に興味津々の子どもたちは、リンダさんと一緒にトウモロコシの粉を力いっぱい練る。「子どもたちには慣れない味でしたが、リンダさんがいたからか『まずい』と言う子はいなくて、『ちょっと口に合わない』という表現をしていました。相手が大切にしているものを理解し、尊重する気持ちが自然に生まれていてうれしかった」と堀江さん。

後半は、より広い視点で日本と世界の関係を食から学んだ。両国の食料自給率や栄養バランスを比べ、日本で食料輸入が止まったらどうなるのか、世界全体では食料は足りているのに、食べられない人がいるのはなぜなのかをザンビアでの写真を織り交ぜながら、みんなで考えた。

さらに、学んだことを「もったいない鬼ごっこ」と「貿易ゲーム」で体感した。NGOハンガー・フリー・ワールドとハウス食品グループが共同で開発した「もったいない鬼ごっこ」は、生産される食料の3分の1がフードロスになることを自然に学ぶことができる。先進国と途上国に分かれて行う「貿易ゲーム」では、持っている国と持たざる国の格差がなかなか縮まらずけんかになる場面もあったそうで、「これって、現実の世界ならどうなる?」と想像することができた。

ザンビアの食文化の学習から始まった授業の後、子どもたちはフードロスや食料問題だけでなく、より広く世界を捉える視点を得たのではないだろうか。

「フードロスや食料の偏在は難しいテーマなので、調理実習や体を動かすゲームなどを取り入れ、子どもたちが飽きないようにしました。貿易ゲームは直接フードロスには関係ないのですが、これを取り入れたことで、資源や技術がないことが不平等を生むということに子どもたちは気づいてくれ、世界の課題に対する理解がより深まったと思います」と、堀江さんは授業の成果を実感している。実際、授業の前は外国への興味が「ある」「少しある」と答えた児童は19パーセントだったのが、授業の後には65パーセントに増え、自分の生活と世界の課題がつながっていると感じられる児童も29パーセトから87パーセントに増えている。

「フードロスを知らない人に教えたい、食のことを大切にしたい、国際協力がしたい、ほかの国と仲良くしたいなどの感想があり、よく理解してくれたなと思いました。さらには、『これって平和が大切という勉強だね』と感じた子どももいて、食の問題だけではなく、他国を尊重し、相手を思いやり、紛争ではなく話し合いが大切ということを実感したようです」。子どもたちは、ザンビアという国と食文化を通して、日本と世界のつながりをしっかりと感じていた。