マルチセクトラルな取り組み

農村で効果を上げる ナイジェリア

保健、農業・食料

妊婦や2歳未満児とその母親の栄養不足が課題となっているナイジェリアで、農村部を対象に、多様な切り口による包括的な栄養改善プロジェクトが始まっている。

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調査対象の村で妊婦や2歳未満児の母親たちに集まってもらい、食事や保健衛生に関する問題についてグループ・ディスカッションを実施した。

さまざまな要因がからむ栄養不良

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プロジェクトの対象となった農村の畑。乾季にポンプ灌漑でウグ(カボチャの葉)と呼ばれる葉菜を栽培している。

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プロジェクトの合同調整委員会にナイジェリアの多様な機関の関係者が集まり、プロジェクトの計画を承認した。マイクを持って話しているのが園山さん。

ナイジェリアでは、慢性的な栄養不良にある5歳未満児の割合は43.6パーセント、急性の栄養不良状態にある子どもは10.8パーセント(2018年世界栄養報告(注))で、とくに地方の農村地帯での子どもたちの栄養改善が急がれている。ナイジェリア政府も国家食料栄養政策を掲げ、省庁横断的な食料・栄養委員会が設置されているが連携が難しく、なかなか実効性のある活動にはつながっていない。

そこで、これまでも食料増産や収入向上を目的に同国で稲作振興を進めてきたJICAはJINに委託し、それまでのつながりを生かして、農業分野だけでなく他分野の機関とも連携した栄養改善プロジェクトをスタートさせた。具体的には、栄養の知識を得て食材となる農作物を栽培することに加え、知識とともに食材が最終的に家庭に栄養として届くよう社会・文化的な側面に配慮した取り組みを実施している。JINの園山英毅さんは、プロジェクトが目指すゴールを「農業も含めた栄養改善の新しいアプローチを開発し、それを実施地域の連邦首都区に定着させていくことです」と語る。

実施地域は、連邦首都区の農村部にある三つの村(1村およそ1000人規模)で、妊婦や2歳未満の子どもとその母親を対象にしている。2019年8月に行った現地調査では、栄養不良・不足はメイズ(トウモロコシ)などの主食に偏った食生活のため、必要なタンパク質やビタミンなどの微量栄養素を含む食品の摂取が足りていないことが大きな原因と想定されることがわかった。

なぜそうなってしまうのか-一つは、多くの人に基本的な栄養の知識がないことが挙げられる。「そういう人たちには、知識を伝える研修が必要です」。

二つめは、知識があっても食材が不足している場合。「経済的な理由や必要な食材を栽培したいけれど方法がわからないケースがあるので、状況に応じて栽培する作物を村の人たちとともに選びます。さらに作付けから収穫までを学べるモデル展示圃場(ほじょう)を作ることを考えています」。

三つめは、知識や食料があっても栄養が不足する場合だ。「対象村の家庭のおよそ4分の3では、食事の内容の決定に男性が関わっています。しかし、男性に栄養の知識や女性と子どもたちへの配慮がなければ食事に反映されません。また収入があっても家計管理ができずに食料が不足してしまう家庭もあるので、男性も研修に参加できるようにしていきたいです」。

JINコンサルタント 園山英毅(そのやま・ひでき)さん

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園山英毅さん

開発協力や途上国支援に対するコンサルティングサービスを提供する会社、JINに所属。農村開発、社会開発が専門。「当社がウガンダで行っている市場志向型農業振興アプローチのプロジェクトでも栄養改善に取り組んでいます。その経験を生かしつつ、ナイジェリアの状況に合わせた活動に取り組んでいきます」。

多くの知見を持ち寄り包括的に課題を解決

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ナイジェリアの一般的な食事。メイズ(トウモロコシ)の粉を練った主食(写真上)と、ナスをメインに甘唐辛子と干し魚を加えたソース(写真下)。

栄養不足にはさまざまな要因がからみあっていて、一つの対応では解決できないことが園山さんの話から浮かび上がってくる。今回のプロジェクトのおもな相手機関は、農業局で生産と女性の生活改善に取り組んでいる農業女性班、同じく農業局で作物栽培の指導・改善を担っている農業普及班、そして保健・衛生の観点から指導・改善を行っているプライマリヘルスケア局だ。たとえば、プライマリヘルスケア局が栄養指導を通してこんな作物を育てて食べるのがよいとアドバイスを行い、農業普及班ではその作物の栽培指導を行い、農業女性班ではその作物の調理や加工を教える-そんな連携が考えられる。

さらに、より効果的な対応を目指し、農業や保健だけでなく教育、水、公衆衛生などの分野の関係者も参加したワーキンググループが発足。プロジェクトの方針や実践方法などを話し合う場を設け、さまざまな課題に対応した包括的な研修の実施を計画している。農業女性班の職員、アイシャ・アブバカルさんも「私たち自身も多様な知識やスキルを身につけ、農村の女性や子どもたちの栄養改善を実現したい」と意欲的だ。

最後に園山さんもプロジェクトへの思いをこう語る。「活動はこれからが本番です。関係者が多いので調整には時間がかかりますが、今は日本側が調整役を果たし、最終的には自主的な取り組みができることを目指しています。研修などを通してナイジェリアの人たちが抱える問題の複雑さを知り、それに的確に応えられる支援のあり方をつねに考えながらプロジェクトを進めています」。

栄養状態の調査

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栄養状態を把握するため、聞き取り調査と同時に身体測定を実施。

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2歳未満児の母親に食事の摂取状況や衛生、生計などについて聞き取りを行った。農業局とプライマリヘルスケア局の職員が調査員として共同で実施。

農業局 農業女性班 アイシャ・アブバカルさん

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アイシャ・アブバカルさん

多くの人が関わっているプロジェクトなので、成功させるためには全員の結束と努力が必要です。しかし、このプロジェクトがサクセスストーリーとなることを信じています。

ナイジェリア

【画像】国名:ナイジェリア連邦共和国
通貨:ナイラ
人口:1億9,587万人(2018年、世界銀行)
公用語:英語

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首都:アブジャ

アフリカ大陸最大規模の人口とGDPを有し、石油や天然ガスの埋蔵量も豊富なアフリカ有数の大国。一方で国内の所得格差が大きく、社会インフラの整備も十分ではないため、国民生活の向上や企業投資促進といった課題がある。