学校に子どもたちの居場所をつくる ヨルダン

故郷を追われ、不安定な生活を送る難民の子どもたちは、学ぶ機会を得ても、さまざまな理由で退学してしまうことが多い。
そのような状況を改善するために、JICAは難民受け入れ国であるヨルダンと協力し、プロジェクトを行っている。

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日直に任命された児童たち。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の資料によれば、難民の子どもたちのおよそ半数が学校に通っていない。

国外への避難が長期化すると、難民の多くは地域コミュニティで暮らすようになり、子どもたちは地域の学校に通う。しかし、地域内で急激に難民の数が増え、またその滞在が長期化すれば、ホストコミュニティの受け入れ能力を超えてしまう。その結果、教育環境が悪化し、子どもたちは十分な教育を受け続けることが難しくなる。

こうした状況は、パキスタンやバングラデシュ、レバノンなど多くの難民を受け入れている国々で大きな課題となっている。ヨルダンもそうした国の一つだ。

日本の"特別活動"を取り入れる

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日直の目的や内容について学ぶ児童たち。

パレスチナやイラク、シリアなどから膨大な数の難民を受け入れてきた同国は、「(難民であるか否かにかかわらず)すべての子どもたちに教育を受ける平等な機会を提供する」とし、寛大な政策をとっている。急増する児童に対応するために二部制(午前と午後に分けて授業を行うこと)の実施を拡大したり、学校を増設したりしているが、教員や設備、教材などの不足、授業数の減少などにより教育の質が低下し、ホストコミュニティにとっても課題は多い。「学校生活を通して、協調性や社会性を学ぶことも必要でした」と話すのは、2018年からJICAの協力を得てヨルダンの学校現場で事業を行ってきた国境なき子どもたち(KnK)の松永晴子さんだ。

「日本の学校で取り入れられている日直や学級会、クラブ活動、行事などの"特別活動(特活)"を通して子どもたちは協調性や社会性を育み、さらに学校に行って楽しい、自分の居場所があると感じることができます」

首都アンマンにある8施設、12の学校では、KnKが協力して日直、縦割班(異なる学年の子どもたちで班をつくり遊ぶことなど)、学級会の三つのプログラムを2019年から導入している。

「先生たちは、特活の目的をしっかりと理解して、自分たち自身の学級運営の経験を取り入れ、試行錯誤しながら進めています。『日直や学級会の様子を通して、子どもたちの知らなかった面に気づいた』という声が聞かれました」

日直の当番を楽しみに学校に行く子どももいるそうで、特活の効果が少しずつ表れていると松永さんは感じている。

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学級会を輪になって行い、子どもたちが発言しやすい雰囲気をつくる。

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縦割班活動として上級生が1年生とともに遊ぶ。

特定非営利活動法人 国境なき子どもたち(KnK) 現地事業統括 松永晴子(まつなが・はるこ)さん

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松永晴子さん

KnKは、2007年からストリートチルドレンや難民の子どもたちの教育や職業訓練を支援してきた。松永さんは2014年からKnKに所属し、シリア難民支援を中心に教育分野で活動している。

「学ぶだけでない学校の楽しさを感じてほしい」

中途退学を減らすために

ヨルダンでは、難民の子どもたちにも学習の機会が比較的与えられているものの、約3割が学校に通っていないという現実もある。学年が進むにつれて、退学してしまう子どもたちが少なくない。JICAヨルダン事務所の一志(いちし)理沙さんは、「家族のために働きたい、早く結婚しなければ、と考える子どもたちも多いのです」と、その背景を説明する。

ヨルダン側もこうした状況を改善するため学びの質を向上させ、全人的な教育で学校に子どもの居場所をつくり、退学する子どもを減らしたいと考えていて、JICAもサポートしようと準備を進めている。

最近は、新型コロナウイルスの感染拡大で休校が続いたことも子どもたちの学びに大きな影響を与えている。同国ではテレビやインターネットなどを活用した遠隔教育が迅速に導入されているが、そこにアクセスできない難民の子どもたちも多い。「学びの格差への対応も必要になってくるでしょう」と一志さんは話す。

「今後さらに、元海外協力隊員など、JICAの事業を通してヨルダンの教育現場で活動してきた多くの方々の経験や知見も生かし、すべての子どもたちが教育によって未来に希望を抱くことができる社会づくりへの協力を続けたいと思います」

ヨルダン

【画像】国名:ヨルダン・ハシェミット王国
通貨:ヨルダン・ディナール
人口:995.6万人(2018年、世界銀行)
公用語:アラビア語(英語も通用)

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首都:アンマン

ヨルダンは、紛争や内戦で周辺諸国から逃れてきた人々を難民として受け入れ、各国や国際機関などの協力を受けながら、ヨルダン国民と同様の公共サービスを提供している。その一方で、受け入れ難民の数は増加の一途をたどり、財政の大きな負担になっている。