客人を大切にする、おもてなしの文化があるタジキスタン。
ただ、そこには健康面での課題があった。
JICAの枠を超えて集まり、その解決に挑んだ合同チームのアイデアとは?
ある3か月間、見知らぬ者同士でチームを組み、行ったこともないタジキスタンの食文化を一気に調べ上げ、そこにある課題とその解決策を考えた人たち。そして今、日本で一番タジキスタンへ行きたがっている人たち。そう言い切ってもよさそうなのが、国際協力の新しいアイデアを生み出すプログラム「JICA Innovation Quest(通称・ジャイクエ)」において、「タジク式映(ば)え皿」を提案したチーム・タジキスターズのメンバーたちだ。
メンバーの小原瑠夏さんはこう語る。「どこか遠い国というイメージであったタジキスタンですが、日本にも共通するおもてなし文化や生活を知るにつれて、思いを馳せる近い国となりました。調査中に聞き取りをしたタジキスタンの方々は、こちらの問いかけに対して100倍くらいの情熱を持って答えてくれる、本当に情に厚い方々でした。実際に現地に行って彼らに会い、一緒に課題解決をしていきたいと強く思っています」。
ジャイクエとはJICAの若手職員が発案し、JICA組織内の新規事業アイデア公募において採択されて2019年度に始まったプログラムだ。さまざまなバックグラウンドを持つ参加者とJICAスタッフがチームを結成、多様な知恵を結集することで途上国の課題解決をめざす。
そのジャイクエに参加し、2019年11月に初めて顔を合わせ、タジキスタンの食に関する課題解決というテーマを与えられたのが、後にタジキスターズとなった6人だった。JICAの職員が2人、あとの4人は一般の会社員などで、うちタジキスタンへ行ったことがあるのは一人だけだった。
まずは留学生など在日のタジキスタン人と、そしてオンラインでつながったタジキスタン人15人ほどから、暮らしぶりや食文化などを聞き取っていった。そして浮かび上がってきたのが、次のようなことだった。
「客人へのおもてなしの心を持ち、家族を大切にする」「みんなで集まり、にぎやかに楽しむのが大好きなパーティピープル="パリピ"でもある」「パーティのごちそうとして欠かせないのがプロフという食べ物。日本のチャーハンに近いが、油が大量に使われる」…。
客人は神様の使いだからと、ごちそうでもてなす。客人もそれを平らげるのが礼儀だ。
ただ、その料理が盛りすぎであったり、油が使われすぎたりするため、肥満や高血圧の人が多く、生活習慣病が増えているという現実が見えてきた。
おもてなしの文化は尊重したまま、健康的な食事を実現できないか-そして考えたのが「タジク式映え皿」だった。タジキスタンの伝統的な模様を施した大皿だが、中央が盛り上がり、上げ底状態になっている。その皿に料理を盛りつければ、量を少なくしても山盛りの見栄えは保ち、上げ底の下の部分に油がたまることで、油の摂取量も減らすことができる。
2020年2月に行われたファイナル・プレゼンテーションでは、現地の文化に寄り添ったアイデアが評価され、参加5チームのうちの最優秀賞と、さらにオーディエンス賞も受賞した。本来は、最優秀賞をとったことで、その後タジキスタンへ調査に行き、アイデアの実現に向けた次のステップに進む予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で渡航はまだ叶わないままだ。
メンバーの江本州陽(くにあき)さんは「コロナが収束したら、チームのみんなで現地へ行き、このアイデアに賛同してくれる陶器メーカーやレストランなどを見つけ、普及への実現に結びつけていきたい。まずはみんなで本場のプロフを食べ、油の量を確認してみたいです」と話していた。
JICAの職員であり、チームの中で唯一タジキスタンへ行ったことがある。現在はブータン事務所の所員としてブータンに駐在。
「チームのみんなが、タジキスタンを大好きになりました!」
研究開発型のベンチャー企業への投資を行うリアルテックファンドに勤務。地球や人類の課題解決に資する科学技術を社会に広め、生かしていくことに情熱を燃やす。
日立製作所に勤務し、新規事業開発やIT開発の取りまとめを担当。社外でも社会課題に対する新しいアイデアを創出するイベントなどの企画や開催を行う。
戦略コンサルティング会社に勤務。人々の価値観や社会との関係性、そこに隠れた変化の萌芽を探求。
「やさしさの価値を備えた新たなアイデアを世の中に届けたい」
「日本の技術とモノで人々の生活に貢献したい」という思いで、積水化学工業に入社。ジャイクエがきっかけで、現在は共創を軸にした新規事業開発に携わる。
JICA職員でジェンダー平等と貧困削減推進に従事中。
「ジャイクエで、JICA内外メンバーによる共創で新しい国際協力を創り出す可能性を感じました」