2021年6月18日
「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム(JISR)」で修士課程を修了した研修員たちは、様々な道をそれぞれの力で歩んでいます。今回は、2020年に2年間の修士課程を修了したサラメ・イスカンダルさん(以下イスカンダルさん)の現在と、将来の目標についてご紹介します。
現在イスカンダルさんは、株式会社BonZuttnerにおいて最高技術責任者(Chief Technology Officer)として様々なプロジェクトを手掛ける一方、大学の博士課程に在籍しAIを研究しています。
同社で手掛けているプロジェクトに、オフショアでのシステム開発があります。これは人材を求めている日本のIT業界と求職中の海外のエンジニアをマッチングするものです。同社では、オフショア開発のほか、エンジニアたちが顧客の開発チームとオンライン上で協議しながら行う「ラボ型開発」と呼ばれるプロジェクトにおいても、シリア人ITエンジニアたちが活躍しています。これらのプロジェクトでは、イスカンダルさんがシリアのエンジニアと日本企業のマッチングを図り、困難な状況で厳しい生活を続けているシリアの人々に雇用の機会を提供しています。日本に来日してから3年にも満たない中で、ITの技術力を活かし、まさにJISRプログラムを体現し、日本とシリアの架け橋となっています。
2018年に来日する前、イスカンダルさんはレバノンで一時生活していました。それ以前シリアに住んでいた時から、コンピューターサイエンスやプログラミングを学んでおり、そのころからAIに興味を持っていました。留学先に日本を選んだのは、日本の高いAI技術力と独特な文化に強い関心を抱いていたためです。来日してからは、大学院の修士課程において2年間、AIの研究に打ち込みました。
一方で、学業以外にも、日本ならではのさまざまな楽しみや学びの機会に恵まれたそうです。神社や寺院に足を運び御朱印を集めるなど日本の伝統に触れたり、また広島における平和研修を通じて日本の戦後復興についての知見を得たりもしました。長い間紛争に悩まされる母国の状況もあり、復興についても学びたいと考えるようにもなったと話しています。
来日当初は、修士課程修了後は就職を考えていたイスカンダルさんですが、AIの研究を続け知識を深めながら実践的に社会に貢献したいと考え、博士課程に在籍しながら就職するという進路を選択しました。博士課程では、修士課程での研究を進化させ、機械学習・ディープラーニングによる音声変換技術の研究に取り組んでいます。現在は仕事にかける比重が大きいものの、「今後は仕事と研究のバランスを図りながら進めていきたい」とのことです。
JISRプログラムでは、日本での就職を見据える研修員は、修士課程在学中にインターンシップに参加することができます。イスカンダルさんは、現在の勤務先である株式会社BonZuttnerでインターンシップを経験した際に、同社の企業理念と自身が掲げる目標が合致すると感じ、入社を希望したそうです。目標とはすなわち、事業を通じ、支援を必要とする人々の教育や生活の向上に貢献することです。
イスカンダルさんは社内において様々な事業を手掛けていますが、ビジネスの場面での日本語にはまだ不安が残るため、主にシリアのエンジニアの窓口を担当し、日本側クライアント対応は日本人スタッフが担っています。事業を進めるにあたり必要な人材発掘は、これまでの経験からシリア及びレバノンに住む人材とのパイプが既にあるため、優秀なエンジニアを探し出すことができるそうです。「現状、マッチング対象はシリアのエンジニアに限られていますが、近い将来、中東全体にも対象を広げていきたい」と話してくれました。彼はまた、執行役員として社員の指導や会社の重大な決定を下す重責を担っているため、社のさらなる発展に貢献するために、マネジメントについても学びたい、と意欲的です。技術面においても、AI研究をさらに進め、実用化のための開発にも積極的に取り組んでいきたい、と考えています。
最後に、イスカンダルさんはこう語ってくれました。
「今後様々な取り組みを通じて支援を必要としている人たちに教育の機会を提供し、数学の知識やITの技術を会得した人々が仕事を得るきっかけを作っていきたいです。そして、将来的には母国に戻り、教育機関においてシリアの人々の教育および生活の向上のために働き、最終的にはSDGs達成に貢献したいと思っています。」
大学に籍を置いて研究を継続しながら、勤務先において精力的に事業を展開し、さらに将来に向けた明確な目標を抱き努力を続けているイスカンダルさん。今後ますますの活躍を期待しています。