JISR:人生を変える機会を求めて日本へ

2022年3月17日

JISR(シリア平和への架け橋・人材育成プログラム)では、2017年以来、たくさんのシリアの若者が日本での就学機会を求め、根気のいる選考過程に挑戦しています。

彼らは一体どんな道のりを経て、シリアから遠く離れた日本にやってくるのでしょうか?

JISR候補者がシリアから逃れ生活するヨルダン、レバノンで実施されるJISR募集・選考の様子を、実際に来日を果たしたJISR研修員や、現地でサポートを行うUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、JDS(株式会社日本開発サービス)現地スタッフの声をもとに紹介します。

JISRの募集選考プロセス

JISR研修員となるためには、来日前の選考過程で英語や数学の試験をはじめ、面接など何段階もの審査を通過し合格する必要があります。レバノンとヨルダンのUNHCRの協力のもと現地では応募書類の審査が行われ、TOEFLや数学の試験、JICA面接を経て、日本の大学院の教授とのコンサルテーションや書類審査に進みます。最後に、大学の最終面接で合格を勝ち取ることができれば、晴れてJISR研修員となります。

このような奨学金の機会を求めて、どんな気持ちで愛する家族や祖国、ホスト国(レバノン・ヨルダン)を離れ来日したのか、そしてJISR合格に至るまでの過程について、シリア人研修員(第5期生)、UNHCRヨルダン事務所、JDSヨルダン事務所の関係者に話を聞いてみました。

JISR研修員の声:一生に一度のチャンスに出会えた

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生まれ育った故郷や家族から離れることには少し不安はありましたが、日本のような先進国で生活するのが非常に楽しみでした。

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最初は自分がJISR研修員としてふさわしいのか不安を感じていました。しかし、JISRの目的、目標、参加対象者などを再確認し、「一生に一度のチャンスに出会えた!」ととても誇らしく思いました。

JISR研修員の声:忘れかけていた夢を叶えたい

母国シリアを離れ、ホスト国であるヨルダンやレバノンで暮らしていた研修員たちは将来の夢を描くどころではありませんでした。JISRに参加したいという気持ちは、自分の視野を広げ、忘れかけていた自らの夢を叶える上で、非常に大きな役割を果たしました。

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ホスト国(レバノン/ヨルダン)で仕事を見つけるのは至難の業でした。専攻している分野の仕事に就ける機会はまずありません。生活費も非常に高く、海外で勉強したり働いたりする機会を得たいと、ずっと願っていました。

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大学で勉強してきたことを活かす仕事が見つからず、毎日夜の10時から朝の7時までレジ打ちをしていました。限られた給料で、家賃を払い、家族の世話もして日々の生活に追われていました。

JISR研修員の声:強い意志で選考を乗り越えた

JISRの募集選考は10ヶ月近く要します。参加者の中には、「選考期間が長くて大変だった」という声も聞かれました。しかし、慣れない日本での生活や大学院での研究活動を乗り越えられるかどうかを判断するために、重要な期間なのです。合格して来日した研修員は、この長い選考期間を強い意志と様々な工夫で乗り越え、厳しい現地の環境下でも最大限の努力をして臨んできました。

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新型コロナウイルスのパンデミックの影響で国内全体が封鎖されていたため、教授や元勤務先からの推薦状など、求められた書類を入手することは非常に困難でした。幸い、JISRの関係者が事情を理解して柔軟に対応してくれたので助かりました。

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レバノンでは常に停電しているため、オンラインミーティングやオンラインのテストを受験するのは大変でした。そのためインターネット通信が遮断された場合に備えて、ルーター用のバッテリーを借りるなどの対策をとりました。

UHNCR(ヨルダン事務所)の声:創意工夫で応募者の利便性を高めた

UNHCRはJISRの重要なパートナーであり、JICAとUNHCRの継続的な協力関係は、選考プロセスにおいて非常に重要なものでした。

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当初は応募書類をUNHCR事務所に持参し提出してもらっていましたが、ヨルダンでは、オンライン申請プラットフォームを作り、誰もが簡単に申請できるようにしました。オンライン申請プラットフォーム設置前も、UNHCRヨルダン事務所では、北部、アンマン、キャンプ内に提出箱を設置することで、応募者が申請書を提出しやすくなるよう工夫をしていました。

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JISRが要求する高いレベルの英語は、応募者にとって難しすぎるように感じましたが、応募者はみな熱意をもって取り組んでいました。

JDS(ヨルダン事務所)の声:努力を重ねる姿を応援

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選考の過程では、応募者と密に連絡を取り合うことができ、「日本で勉強したい」という彼らの熱意に直接触れることができました。参加者の渡航前の生活と、渡航後の日本での生活を見守ることができたのは、本当によかったと思います。

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ある研修員は、4年連続でJISRに応募し、毎年、前年の失敗を改善するために努力を重ね、最終的に合格を勝ち取りました。4回目の挑戦で、ようやく苦労が報われたことに私も心から感動し、一緒に喜び、まるで研修員の家族のような気持ちになりました。

日本で安心して生活していくための支援を

JISR研修員の母国であるシリアの情勢も依然落ち着きを見せず、母国への帰国の見通しを立てづらい状況が続いています。それでも、異国の地である日本で修士号の取得や就職を見据え、新しい挑戦に奮闘しています。私たちJICAは引き続きそんなたくましいJISR研修員たちを支援していきます。

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JISR募集選考のポスター。この美しい日本の景色を見て、日本に強い憧れを持ち応募してきた研修員が多くいた。

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レバノン(ベイルート)を飛び立ち、日本という“未知の惑星”(実際の研修員の発言)での生活へ踏み出す研修員たち。