2023年4月11日
JICAはグローバル・アジェンダ(開発途上国の課題に取り組むJICAの20の事業戦略)の1つ、ジェンダー平等と女性のエンパワメントにおいて、性別にとらわれず誰もが能力を発揮できる社会に向けて、女性や女児のエンパワメントを推進し、人々の意識・行動を変えることで、ジェンダー平等で公正な社会の実現を目指しています(注1)。世界のどの国においても、ジェンダー平等の達成は困難な課題であり、ジェンダー平等と女性のエンパワメントの推進は、先進諸国を含む世界共通の目標です。
JISR研修員の出身国シリアでは、女性が男性と同じように社会に出て就職することは日本より難しく、また大学に進学できたとしても専攻において特に理系分野に進むことは珍しいようです。そのような中、大学で理系を専攻した3名の女性研修員がJISRプログラムを通じて日本に留学し、現在大学院で学んでいます。それぞれがこのチャンスをつかむまでの道のりや、女性に向けてのメッセージを聞いてみました。
Q1:なぜ理系を専攻するようになりましたか?これまでに頑張ったこと、大変だったことはありますか?
Q2:理系を専攻するかどうか迷っている女性へ伝えたいことは何ですか?
Q3:JISRへ応募を考えている女性へ伝えたいことは何ですか?
A1:現在は、広島大学大学院で輸送工学を研究しています。ITのスキルを活かして、輸送システムの開発に貢献できる、モバイルアプリを使用したデータ収集方法の研究を行っています。
シリアの文化はとても伝統的・閉鎖的で、女性は男性と関わりを持ってはいけないと考えられており、私の家族は私に男性と関わりを持たずに働ける教師か薬剤師になってほしいと思っていました。私も当初その考え方に疑問を持っていませんでした。シリア危機のため家族で移住したレバノンは自由な雰囲気で、多様な人々が住む社会において多様な考え方に触れ、私はこれまでシリアで普通と思っていたことが必ずしも正しいわけではないことに気づきました。
レバノンの高校の科学コンクールで賞を取ったことをきっかけに、私は家族の考えとは異なる道を進んでみようと思うようになり、ベイルート・アメリカン大学の奨学金を獲得して情報工学を専攻しました。私はこの時、人生で初めて「自分の選択」をしました。家族は反対しました。でも、兄はトルコで好きなことを仕事にしているので、そうであれば私も好きな道に進んでいいのではないか、と両親を説得しました。その結果、両親は私が奨学金を取得したという事実も踏まえて、徐々に考え方を変えていき、最終的には認めてくれました。
アメリカン大学の情報工学専攻の19人の学生のうち、私以外は全員男性でした。大学ではプログラミングを学びました。コードを書くとその結果が目に見える形で反映されるため、技術で物をコントロールする力があると感じることができて、とても魅力的な分野だと思い一生懸命勉強しました。
実はJISRの選考に合格した時、海外に行くことを両親が心配し、説得するのに5カ月もかかりました。しかし今は私のことを誇りに思ってくれています。二人の妹も、私のように自らの道を進み始めています。一人はビジネスを専攻して勉強に励んでおり、もう一人はまだ高校生ですが、工学に興味を持っていて、大学では工学を専攻すると言っています。
A2:女性は理系脳がない、などといったネガティブなステレオタイプ(偏見)があり、女性が理系の道を進むことを阻害しているように思います。でも、男女どちらがどちらに優れているということはありません。他の人が言うことではなく、自分の心の声にもっと耳を傾けてください。そしてその決意を大切にし、自分の思う道を選択してください。
A3:JISRは人生の道を変えてくれます。選択肢が増え、自分の人生を生きる力を与えてくれます。JISRに参加できなければ実現不可能であったことも実現することができます。そのチャンスを逃さず、後悔しないように、ぜひトライしてみてください。
A1:科学の世界は「未知のことを発見できる」という点が魅力的で興味を持ちました。また、数学の問題を解くのが好きで楽しんでいました。シリアの高校では理系コースに通っていましたが、理系を選択する女子生徒は3割程度でした。その後シリア危機のためヨルダンに移住して入学した女子高校でも理系コースに入りました。文系と理系の比率はおおよそ5対2で、文系選択者の方が多かったです。私はシリアからヨルダンへ移る際に1年間勉強できない時期があり、1歳下の妹と同じ学年で学ぶことになりました。妹と一緒に勉強したことや家族の支えもあり、私は主席、妹は3位で卒業しました。
私の父親はエンジニアとして勤務し、母親は高校で文学を学び現在は専業主婦という、典型的なシリア人家庭です。二人とも、私が理系に進み大学で薬学を専攻することを応援してくれました。大学で受けた奨学金の受給要件としてNGOでボランティア活動を行う必要があったため、私はあるNGOでロボット工学のトレーナーになるための研修を受け、女子学生向けのメンター/STEM(科学・技術・工学・数学)トレーナーとして働きました。そこでは、ロボットの作り方を指導したり、シリアからヨルダンへ移住した女子学生が高校を卒業し大学へ入学するまでのサポートをしたりしました。具体的には女子学生が自分で道を進み切り拓く手段として、オンライン言語学習サイトや大学・奨学金への応募に関する情報やその見つけ方を生徒に教えました。自分の経験を活かして若い生徒を指導することで、「私は自分が役に立っている」と感じることができました。私がメンターとして指導した生徒のうち4割がその後大学に進学し、理系科目を専攻しているのを嬉しく思います。
大学で薬学を勉強するにつれ、薬学を科学の側面だけでなくビジネスの面から見るようになり、医薬品事業への興味が沸きあがってきました。私の国では医薬品事業における問題が多く、国の成長と発展を妨げています。そのため、もっとビジネス自体について学び、どうすればこの問題を解決することができるかを探りたいと思い、JISRに参加して修士課程でビジネスを勉強しています。
A2:理系の勉強は簡単ではないですが、一度理解できると予想以上に新しい世界が広がり、常に新しいことを学べる楽しみがあります。社会科学は人が行ったことを学ぶこと、自然科学は自然から理論を発見することです。もし迷っているのであれば、理系を選ぶことを勧めます。社会科学は後からでも学べるからです。現に私も薬学を学んだ後、現在ビジネスを学んでいます。もし理系に興味を持っているのであれば、ぜひ自分の進みたい道を選んでください。社会・文化的なプレッシャーに負けず、自信をもって選んでください。
A3:あなたの現状が「ありたい自分」からほど遠いと感じても、夢に向かって前進するのは無理だとあきらめないでください。私も2年前は、まさか日本の大学院で勉強するとは想像もしていませんでした。今のあなたはあくまで現在のあなたであって、強い信念を持って前進すれば、将来それを変えて夢をかなえることは可能です。
A1:私は子どもの時から医者になりたいと思っていました。私の姉妹はみな文学を専攻していたこともあり、両親は私には医者になってほしかったようです。7歳の時、初めてPCを買ってもらい、それを使ってPink Pantherのゲームをしてよく遊びました。細部がとても美しいゲームで、最初はゲームに夢中でしたが、次第にこれはどうやって作られているのだろう、作った人はどういう人なのだろう、と知りたい気持ちが沸きあがってきました。高校では医者になるために医学や薬学系の単位をたくさん取っていましたが、コンピューターの魅力に気づいたため、大学入学試験を1年延期し、情報工学(IT)を大学で専攻しました。高校の女子生徒30名のうち、大学でITを専攻したのは2名のみで、英文学や英語教育を専攻した人が最も多く、次いで生物学専攻が1/4程度を占めていました。生物学は記憶する部分が多く、それに比べ数学やコンピューター科学はコンセプトの理解やその適用を考える学問なので少し難しいと感じた人が多かったのかもしれません。
私にとっては、情報工学の中でもプログラミングは知れば知るほど興味深いもので、よく勉強しました。両親の期待に反することでしたが、自分の意思を貫きたかったので頑張りました。大学でITの勉強を始めると、両親も次第に私をサポートしてくれるようになりました。大学生の間に、様々なIT関連の活動に携わる機会を得ることができました。
例えば、レバノンのピザ宅配チェーンのウェブサイトのフロントページを含め、様々な会社のウェブページのデザインの作成を行いました。
女性としての障壁は特になかったです。大学を卒業後、レバノンの会社で働きました。技術職に求められるレベルが高く、とてもよい刺激を受けました。シリア人はレバノンで働くには政府の就労許可が必要だったのですが、大学の指導教員が会社に私を推薦してくれたため、私は無事働くことができていました。レバノンでは宗教の派閥に基づく差別が多少ありましたが、ジェンダーに基づく差別はあまり感じませんでした。
A2:理系の勉強やキャリアは結婚生活と両立しないのでは、と心配されていますが、私は夫と子どもを伴って留学しており、結婚生活と理系分野の勉強は両立できることを私自身が証明していると思っています。もちろん、そのためにはパートナーを賢く選ぶ必要があります。自分の進みたい方向は、他人に決められたり与えられたりするものではなく、自分の意思で決めるべきだと思います。
A3:日本でITを学ぶのは素晴らしいことです。JISRに応募して正しい選択をしたと思っています。日本の文化や言語はレバノンやシリアのものとは異なりますが、私はそれらを学ぶことで視野が広がり、自分の想像力や思考を深めることができています。日本でも修士課程は英語で学ぶことができる点も魅力的です。レバノンでは純粋に「研究者」であることが難しいため、日本で心置きなく研究者として研究できる機会をいただいたことに感謝しています。少しでも興味を持っている方がいましたら、ぜひ応募をお勧めします。
今回、JISR研修員3名のこれまでの経験を聞き、背景には三者三様のドラマがあることが分かりました。印象的だったのは、皆専門分野の研究が好きということ、そして家族の支えがあったということ。当初は反対されていたが、研修員の頑張る姿を見て応援してもらえるようになったというエピソードもありました。ジェンダーが理由で自分のやりたい勉強を続けることができない人がまだ世界にはたくさんいます。女性の活躍が謳われる日本でさえも、まだ女性管理職の割合や理系分野の女性の割合は低く、ジェンダーギャップ指数は146か国中116位(2022年)です(注2)。一人でも多くの女性がこの3名のように社会的なプレッシャーに負けず自分の意思を貫くことができるよう祈っています。