2019年4月8日
ガーナの野口記念医学研究所(以下、野口研)で、日本の支援により建設が進められていた「先端感染症研究センター」が完成し、3月26日に式典が開催されました。JICAは、設立40周年を迎える野口研で、これまで感染症に関するさまざま研究プロジェクトを実施してきました。最新の設備を備えた新しいセンターの完成により、研究・検査機関としての役割に加え、教育機関としての機能が向上した野口研は、サブサハラの感染症研究・対策の拠点として、ますます重要な役割を果たすことが期待されます。
「アフリカでは病原体の異変や気候変動の影響による感染症流行地域の拡大などが懸念され、感染症への対策がさらに重要な課題」と言うのは、野口研のアブラハム・アナン所長です。
野口研は設立から40年が経過し、これまで設備の改修・整備を重ねてきましたが、研究実験施設の老朽化や研究スペースが手狭になるなどの問題がありました。新センターは、エボラ出血熱など感染力が高い病原体の検査が可能なBSL-3(バイオセーフティレベル3)(注)の実験室などが整備され、高度で先進的な研究を安全に行うことができ、感染症の早期発見や早期封じ込めを目指します。
(注)
バイオセーフティレベル:微生物や病原体などを取り扱う施設の格付け。1~4のレベルがあり、数字が大きいほどリスクの高い病原体を扱うことができる
これまで感染症対策に数多くの成果を挙げている野口研に新センターが完成したことは、「ガーナ、アフリカのみならず、世界的にも大きな意味を持つ」とアナン所長は述べます。
「感染症の予防には、地域間、組織間の連携と協力が欠かせません」と話すアナン所長。サブサハラ地域の拠点としての役割を担う野口研では、予防や対策に取り組む人材の育成も積極的に行っています。
今年1月~3月には、西アフリカ地域の感染症対策のため、検査技師を対象とした研修を初めて実施。今後、2021年までの3年間にわたり、西アフリカ4ヶ国(シエラレオネ、リベリア、ナイジェリア、ガーナ)の検査施設で寄生虫学・細菌学・ウイルス学検査に従事する検査技師が参加し、数回に分けて研修が開催される予定です。
今回の研修にナイジェリアから参加したエリザベス・オデさん(州立教育病院、シニアメディカルラボ科学者)は、「研修では、普段使うことのない機材や試薬を使って検査する機会を得た。正確な検査を行うため、人材育成や適切な機材の必要性を伝えることが大切だと気づいた。また、研修で学んだ知識は、帰国後ナイジェリア国内のネットワークを通じて共有したい」と話します。
また、シエラレオネから参加のサイドゥ・セフォイさん(中国友好病院、メディカルラボ技術者)は、「シエラレオネでは、専門性の高い人材の育成が最大の課題。また患者を救うには正確な検査結果を適切に医療チームに共有するチームワークが必須で、今回の研修では検査結果をどう伝え協力するかを学ぶことができた。帰国後は、会議やワークショップを通じて得た知識とチームワークの大切さを伝えていきたい」と情熱的に語ります。
野口研は、日本の協力で1979年に設立されました。黄熱病の研究中に自らも黄熱病に感染し、ガーナで生涯を閉じた野口英世博士との縁がきっかけです。JICAはこれまで多くの研究・疾病対策プロジェクトを野口研で実施するなか、プロジェクトの調整に10年以上携わり続けてきたのが、JICAガーナ事務所の丹みゆき在外専門調整員です。「野口研はさまざまな援助機関と連携してプロジェクトを実施していますが、設立以来、共に歩んできたJICAを高く評価してくれています」と言います。
丹調整員はこれまでの歩みを振り返り、「日本の技術の野口研への移転」から、「日本の大学と野口研が対等なパートナーとして共同研究を実施」する時代へと変化していると指摘します。2014年のエボラウイルス蔓延時に、ガーナ国内外から200件を超える検体が持ち込まれるまでになり、「野口研が基礎医学研究機関としてのみならず、アフリカをリードする感染症対策拠点に成長しました」と自信を深めています。
新センターの完成により「今年から始まった検査技師研修をはじめ、周辺国での新興感染症検査、人材育成の機能を持ち、感染症の流行を地域一体となって防止できるような能力強化の役割をも果たせることを期待している」と、丹調整員は野口研の今後を見据えます。
JICAは今後も、感染症の早期発見や早期封じ込めに向け、研究設備の整備といったハード面と人材育成などのソフト面の双方からサポートを続けていきます。