緒方理事長インタビュー

2007年10月1日

10月1日、緒方貞子理事長はJICA理事長として2期目の開始にあたり、これまでのJICAでの取り組み、今後の展望について次のように語りました。

  1. 私がJICA理事長に就任したのはもう随分前のような気がしています。当初から特定のアイデアや計画があってJICAに来たわけではありませんでした。しかし、国連難民高等弁務官(UNHCR)の経験もありましたので、人道援助機関と開発援助機関は機能の仕方が大きく違うことを知り、また、多くのことを学びました。数ヵ月間、事業の実施の仕方を学んでいくと、本部と在外事務所の人員の比率が7:3で、本部主導、供給サイド主導である印象を受けました。少なくても同程度にするべきと思いました。それが現場主義を進めるきっかけとなり、組織はそれに応えてくれたことを嬉しく思っています。JICA職員も現場で効果的に働きたいと願っていたのです。
    私たちは3つの目的を実行してきています。ひとつはこの現場主義。2つ目は「人間の安全保障」の視点の導入。これは我が国のODAの原則としても既に取り入れられています。しかし、どのように実際に実行していくか。「人間の安全保障」案件の選定など、最初の2年は調査や試行錯誤の段階でしたが、職員はよく応えてくれました、「人間の安全保障」の視点の導入は、JICAにとって現地の人々やそのコミュニティ作りの視点まで目線を下げることでした。これはまだ完全に達成されてはおりません。次の大きなステップは、コミュニティに根ざした分野横断的なプロジェクトの実施であり、まさに現在JICAが取り組んでいるものです。公式な政府と政府の間の協力を超えて、私たちスタッフが、一層コミュニティに入り込み、現地の人々と対話をしていくことです。そして本当にコミュニティのためになり、人々のニーズに応えていくことです。日本がすべての答えを持っており開発途上国に答えを与えられるという仮定は成り立ちません。そこが「人間の安全保障」という所以なのです。
    3つ目の大きな柱は効果と効率性の追求です。プロジェクトがどのように効果的なのか、また、いかに効率的に運営されているかという問いに私たちは常に答えていかなくてはなりません。
  2. これからの2期目の4年間を見通すことはとても難しいことです。しかし、これまでの4年間は、どちらかと言えばJICAそのもの、つまり、プロジェクトや運営管理に視点を当てたものでした。これからの4年間は、国際協力銀行(JBIC)が実施してきた円借款との統合も視野に入れる必要があります。JICAが実施してきた技術協力、外務省が実施してきた無償資金協力を含め、新JICAが一体的に実施に当たることとなります。したがって、これからの課題は、これらの援助手法をもって、いかに新たなニーズと期待に応えていくかが試されることになるでしょう。それは大きな挑戦と考えています。日本にとって開発援助を別々にではなく全体として運営することはよいことだと思います。しかし、同時に、もし全体の効果が向上しなければ多くの批判を招くことにもなります。国内的にも大きな挑戦であるとともに、日本は何ができるのか何を提供できるのかを示し、国際的な援助社会、政府機関との間でも一層対話を進めていかなくてはなりません。
  3. 日本のODAはこの10年で4割近くも減少しています。しかし、私はこの傾向を4割増は難しくても、反転させることは可能と考えています。財政改革は政府の大きな目標であり、改革は実施すべきです。しかし、全体予算に占めるODAの割合は1.6%程度であり、その中で大きな削減が行われてきているのです。合理的な考え方とともに海外援助の重要性に関する一層の広報が必要です。開発途上国のみならず、すべての国の繁栄のために、世界中の貧困に苦しむ人々に対し日本がインパクトを与えることができるでしょう。これは日本の安全と経済にとっても重要ですが、国民的理解を図ることは簡単ではありません。
  4. 2008年10月に、JICAはJBICの経済協力部門と統合しますが、技術協力による途上国の人々の技術力向上と彼ら自身による自立的な運営と同時に、資金協力により経済の全体的な状況の改善にも貢献できる可能性があり、よりよい結果を得ることが可能となるでしょう。これまでの考え方、やり方がある中で簡単ではありませんが、統合前から様々なプログラムを検討していく予定です。
  5. 来年5月には横浜で第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)が開催されます。今回の会議には特別な意味があります。同じ日本で行われるG8サミットの前に開催され、TICAD IVで議論されることは7月のサミットに引き継がれることとなり、その意味で今回のTICAD IVは特別な役割を果たすと考えています。会議には大国だけでなくアフリカ諸国も招待され、私たちはアフリカの状況を直接的に、また、全体的に把握することになります。私たちは国際機関など国際社会ともっと協力・調整していく必要があります。今回のTICAD IVはアフリカの開発ニーズと、どのように成長を加速できるのかを見極めるきっかけになることを期待しています。
  6. アフリカの、例えば国内的な困難から脱したコンゴ民主共和国では、JICAは事務所を設置し、西部地域で給水やコミュニティ再建に取り組んでいます。さらに、早い段階から国際機関を通じて東部地域への支援を模索しています。スーダンにも職員を派遣し、南部で道路や河川港の整備を行うなど、最も困難な地域での活動を始めています。ダルフールに隣接するチャドでも早い段階で現地に入り、水や植林を通じたコミュニティ支援に取り組んできました。紛争により退避せざるを得ませんでしたが、ダルフールへの国連の平和維持活動が拡大し、コミュニティ再建が始まれば、私たちは再びチャドに戻り、ダルフールにも入れるかもしれません。TICAD IVには3つの柱があります。アフリカのコミュニティ開発に向けた「人間の安全保障」、「経済成長の加速」、「環境問題」です。成長の加速の面では、日本はアジアで沢山のインフラ整備の経験があり、アフリカ諸国のリーダーも期待しています。例えばコミュニティ開発に沿ったインフラ整備として、主要な高速道路だけでなく、それに繋がる支線の整備も経済成長のためには重要と思います。TICAD IVがアフリカのリーダーと議論し固有の要望について知る機会になることを期待しています。
  7. 私は「人間の安全保障」の概念を発展させることに長年携わってきました。UNHCRでは90年代から議論されてきています。というのは国内的な紛争はほとんどが民族紛争であり、そこにおいては人々の安全は政府により保障されないからです。人々はお互いの安全のために備えることを学ばなくてはなりません。紛争は続いており、開発援助を通じてどのように紛争後の復興を図るかに注意が払われてきています。紛争の影響を改善するために迅速に開発援助を実施していくこともJICAの任務と考えます。その意味で「人間の安全保障」は、私が考えた以上に実行に移されてきています。
  8. 開発援助において日本だけができるというものがあるとは思いません。日本の開発援助は技術移転、技術協力を重視してきました。道路建設から村落開発、IT分野など、沢山のスペシャリストやボランティアを現場に投入してきました。アフリカでは800人のボランティアが活躍しています。アフリカ諸国の中には独自のボランティアを育成しようという国もあります。JICAはそのようなことにも協力できると思います。
  9. 中国はアフリカにおける影響力を強めています。しかし、競争という捉え方は間違っていると思います。より多くの援助を与えるという意味での競争であれば別ですが。中国は長い間アフリカで活動してきています。大事なことは、アフリカへの最適な援助のために、お互いが対話し、情報を共有することだと思います。
  10. 日本は戦後、60年代、70年代を通じ豊かになりました。日本が貧しい時にはそれを憂慮し、国を再建しなければならない時にはそれに関心を向けてきました。しかし、経済的に豊かになるにしたがって、より内向きになってきていると思われます。相互依存が深まる中、その限界も感じ始めていると思います。70年代にはエネルギー問題が大きな脅威となりました。日本はエネルギー節約のためにあらゆることを行いました。70年代80年代には環境問題が深刻化しましたが、私たちはそれを克服してきました。深刻な問題を抱えたときに、日本人はいつもそれに立ち向かい克服してきました。しかし、相互依存の中にあって、日本だけを見ていてすべてのことを克服していくことはできません。最近、その豊かさの中にある脆さに気づき始めていると思います。経済発展にもかかわらず都市部と地方の格差や所得格差などの不安定要因、社会保障や年金の問題が日本人にとって内向きとなる要因となっています。グローバリゼーションは日本人も含む、全ての人々に影響を及ぼします。こうした相互依存に気がついて日本人が外向きになることを望んでいます。