2010年9月7日
緒方貞子JICA理事長は、9月1日から4日にかけて、韓国・ソウルと中華人民共和国・上海を訪問した。JICAでは、この訪問の結果を踏まえ、今後韓国、中国と重層的に対話するメカニズムを作っていきたいと考えている。
韓国訪問では、これまで両国のODA実施機関同士で培ってきた協力関係を、よりフォーマルなパートナーシップへと発展させる可能性を探った。
キム行長(左)と緒方理事長。韓国は今年7月にODA基本法を施行し、2015年までにODAを年額で現在の3倍強に引き上げる予定
緒方理事長は、9月1日、韓国の有償資金協力を担う対外経済協力基金(Economic Development Cooperation Fund: EDCF)の母体である韓国輸出入銀行(The Export-Import Bank of Korea:EXIM)のキム・ドンス行長と会談した。
冒頭、キム行長は、初の日韓協調融資となるモザンビークの道路事業案件のEDCF側の借款契約締結が近々実現する見込みであることとともに、韓国の対アフリカ支援の枠組みであるKOAFEC(Korea Africa Economic Cooperation)に関する取り組みを紹介。緒方理事長は、「アフリカ諸国はアジアの経験を学ぶ機会を求めている。KOAFECのようなイニシアティブはアフリカ諸国に歓迎されるだろう」と応じた。
また行長は「EDCFは、JICAも融資を行っているベトナムの気候変動対策プログラムへの支援を検討しており、早い時期に参加したい」と、現在検討中の協調融資にも言及した。
11月に開催予定の「アジア開発協力会合」に、地域のドナーを広く集めたいと述べるキム行長(左)。右はJICA北野部長
これに対し、同席した北野尚宏JICA東・中央アジア部長は、「これまでの定期協議やベトナムの気候変動対策への融資を通じて、EDCFとの関係を今後も強化していきたい。また、10月末には、これまでJICAとEDCFの2機関で行ってきた定期協議に中国輸出入銀行を加え、三者協議として開催する予定であり、こうした機会を通じて、今後アジアの援助機関のネットワークをますます広げ、協力関係を深めていきたい」と述べた。緒方理事長も「JICAとEDCFは、共通の支援対象国が多い。今後ともアジアのドナーとしてパートナーシップを強化していきたい」と抱負を語った。
なお、1日に臨んだ韓国の各界有識者との意見交換(武藤正敏駐韓日本大使主催)やハン・スンス元首相との会談では、主にアジア情勢や日韓のODA実施体制について意見が交わされた。
パク総裁(右)は「援助の増額に必要な国民の理解を得るために、民間連携も重視していく」と述べた(写真提供:KOICA)
翌2日、緒方理事長は開発途上国への技術協力および無償資金協力を担う韓国国際協力団(Korea International Cooperation Agency:KOICA)のパク・デ・ウォン総裁と会談した。
JICAとKOICAは、これまで研修などを通じた人事交流、共同研究のほか、アフガニスタン支援における連携を行ってきている。まず、パク総裁から、「韓国は今年DAC加盟を果たした。今、韓国は、第2次世界大戦後の自身の経験に基づいてアフリカなどの途上国に開発援助を展開していくことを『国の責務』と感じている」との発言があった。緒方理事長は、「韓国の発展は他の途上国に同様の可能性を示した好例である。経験を生かした開発援助に期待している」と応じ、さらに「どのような支援がどのような開発効果に結びつくかをきちんと検討することが大切だ。現在JICA、KOICA、米国ブルッキングス研究所の三者が共同で行っている開発援助についての研究の成果を、国際社会に向けて広く提示していきたい」と語った。
パク総裁は「JICAと共同プロジェクトを実施したいと考えている。具体的なプロジェクトの形成を行うために年次定期協議を開催してはどうか」と提案。緒方理事長もこれに賛同したところ、パク総裁から「共同プロジェクトは、ラオス、カンボジアなどのアジア地域から検討したい」との発言があった。
地球村体験館の展示を熱心に視察する緒方理事長(左)
なお、パク総裁はODAに対する国民の理解を深める方策の一つとして、昨年2月に訪れたJICA地球ひろば(東京都渋谷区)を参考に、小中学生を対象とした「地球村体験館」を開設したことを紹介。さらに総裁は、こうした経験などを踏まえ、中国にも中国版KOICAをつくってはどうかと提案したことを披露した。
会談後「地球村体験館」を視察し、ちょうど展開中のモンゴルに関する展示についてKOICA職員から説明を受けた緒方理事長は「展示内容も充実している。JICA地球ひろばのアイデアが韓国でも広がり、ODAの必要性について韓国の国民の理解をいっそう促進することにつながれば」と期待を述べた。
講演後、1時間弱にわたり中国の国際貢献に関する聴衆との質疑応答が行われた
緒方理事長は同日中国上海に移動し、翌3日には、国際関係、安全保障、地域研究などの分野で中国有数のシンクタンクである上海国際問題研究院で、約70人の同院研究員および大学院生に対し「Asia in the Era of Globalization and Prospect for Japan-China Relations(グローバル化時代のアジアと日中関係の展望)」と題する講演を行った。
冒頭理事長は、上海を核とした長江デルタ地域が中国の経済成長を牽引していることに言及、1980年代から90年代にこの地域の開発計画に貢献した日本人やJICAの開発調査の存在を紹介した。次いで1980年代に日本のシンクタンク、総合研究開発機構理事として同院と交流したことなど、自身と中国の関係に触れた。さらにJICAが過去30年にわたり中国で行った協力と今後の重点分野について概観した後、同国商務部や中国輸出入銀行と行っている、アフリカなど他地域に対する援助における日中の情報交換・経験交流などの新しい取り組みを紹介した。そして同院とJICAとの今後の協力分野として、グローバル化時代の環境保全や格差是正など、大都市が抱える問題を提起して講演を締めくくった。
講演後の会場からは、中国はどのように日本の対外援助経験に学べるか、貧困削減に向けて日中の協調をどのように進めていけばよいか、難民問題に対して中国は国際社会と連携してどのような役割が担えるかなど、国際社会に対する貢献への意欲を反映した真摯な質問が相次いだ。