2011年2月24日
緒方貞子JICA理事長は2月22日、パキスタンのアーシフ・アリー・ザルダリ大統領と都内のホテルで会談し、パキスタンの経済改革や、アフガニスタンを含む周辺地域の安定の重要性について意見を交換した。
パキスタンの開発課題などについて意見を交わす緒方理事長(左)とザルダリ大統領
パキスタン政府は、政策目標として、製造業など国際競争力のある産業の育成を通じて実質GDP成長率を年平均で7パーセント確保し、2030年までに一人当たりのGDPを4,000ドルにすることを掲げている。しかし、パキスタンは2008年に経済危機に直面。国際通貨基金(IMF)の支援で経済安定化プログラムを進めているが、2010年に発生した未曽有の洪水災害の影響もあり、経済成長の減速、インフレ圧力の増大、財政収支・国際収支の悪化が懸念されている。一方、2010年度から2011年度の輸出は、繊維製品などを中心に順調に推移するなど明るい材料もある。
こうした背景の下、JICAは、パキスタンの輸出振興や同国に対する投資促進を目標に、専門家派遣などを通じた技術協力を実施している。ザルダリ大統領は、緒方理事長との会談で、「世界経済全体が拡大する中で、パキスタンが先進各国に最も期待するのは経済、貿易関係の強化だ。世界経済をけん引してきた日本企業のパキスタンに対する投資が、さらに促進されることを期待している」と述べた。これに対し、緒方理事長は「一朝一夕に産業発展を達成できる近道はない。パキスタンが地道な努力を重ね、経済改革に取り組むことを期待する」と答えた。
また、アフガニスタンを含む周辺地域の安定化にも話が及んだ。緒方理事長は「JICAは、パキスタン、アフガニスタン両国への支援を重視している。国境地域の安定化は困難な問題だが、国際社会が継続的に考えていくべき重要な課題だ」と述べた。さらに、「国連難民高等弁務官時代のことだが、パキスタンとイランには400万人のアフガニスタン難民を受け入れてもらい、感謝している。今では、多くの難民がアフガニスタンに帰還し、社会生活への復帰に向けてさまざまな取り組みが行われている」と話した。
これについて、ザルダリ大統領は「国境地域の課題解決のためには、今回供与される円借款(注)で洪水からの復興事業が進められるパキスタン側のハイバル・パフトゥンハー州の貧困削減と開発が欠かせない」と強調。緒方理事長は「地域の安定化のアプローチはいろいろとあるが、治安面、経済面など、段階を経て取り組んでいく必要がある」と答え、パキスタン、アフガニスタン周辺地域の安定化に向けて、JICAが引き続き支援していく意志を示した。
(注)会談後、緒方理事長は、菅総理とザルダリ大統領の立ち会いの下、パキスタン経済・統計省のシブテン・ファザル・ハリーム次官との間で「ハイバル・パフトゥンハー州緊急農村道路復興事業(洪水災害対策)」に対する円借款貸付契約(147億円)に調印した。