セルビア向け初の円借款で環境対策を支援-緒方理事長がタディッチ大統領と会談-

2011年3月11日

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会談では、今後のインフラ整備におけるJICAの支援についても話題に上った。左から山田JICA中東・欧州部長、緒方理事長、タディッチ大統領、ボジダル・ジェーリッチ副首相

緒方貞子JICA理事長は3月9日、セルビアのボリス・タディッチ大統領と東京・元赤坂の迎賓館で会談し、セルビアの経済開発や難民問題解決に関して意見を交換した。

旧ユーゴスラビア解体に伴う紛争や各国による経済制裁が続いた1990年代を経て、日本は2001年に同国(当時はユーゴスラビア連邦共和国)への支援を再開。中でも2003年に無償資金協力により供与した、首都ベオグラードを走る100台近いバスは「日本バス」と呼ばれて市民に親しまれ、日本の支援を象徴する存在となっている。

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黄色い車体が目印の「日本バス」。他のバスをやり過ごしわざわざこのバスを待って乗る人もいるほど、清潔で乗り心地がよいと人気

JICAも、中小企業メンター(注1)制度構築支援や、省エネルギー政策実施に向けたエネルギー管理制度導入など、日本の経験を生かした協力のほか、日本語教育などに携わるシニア海外ボランティアも派遣するなど、人を介した多様な協力を実施してきた。

菅首相が初の円借款供与を表明

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セルビアの発電量の25パーセントを賄うニコラ・テスラ火力発電所

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セルビアにはすでに2社の日本企業が進出。これに続く日本の投資誘致にもさらに力を入れたいと述べたタディッチ大統領

これらに加え、3月8日には、タディッチ大統領と会談した菅直人首相から、セルビアに対する初の円借款供与(282億円)が表明された。今回の円借款の供与対象となったのは、ベオグラード近郊にある同国最大の発電所ニコラ・テスラ火力発電所に排煙脱硫装置4基を設置する事業。現在、EU加盟を最優先課題とするセルビアだが、加盟に向け、発電所の大気汚染物質排出量をEUの環境基準を満たすレベルまで抑制することが義務付けられている。にもかかわらず、装置が設置されてないため、現在はその基準から程遠い状況にある(注2)。

「この円借款事業は特に緊急で重要な案件。早急に借款契約を結び事業を開始したい」と述べたタディッチ大統領に対し、緒方理事長は「希望に沿えるよう迅速化に努力したい」と答えた。同席した山田順一JICA中東・欧州部長は「今回の円借款に関しては、この先、日本人専門家の派遣、研修員の受け入れにより、日本の技術の移転も行っていきたい」と、技術協力による支援も予定していることを伝えた。

観光振興による民間セクター開発も

【画像】1990年代に国連難民高等弁務官として旧ユーゴスラビアでの人道支援に尽くした緒方理事長に対し、タディッチ大統領は「セルビアにとどまるクロアチアからの難民がまだ帰還できていない」と、難民問題に言及。理事長は「JICAは民族和解の努力も支援している」と、隣国ボスニア・ヘルツェゴビナのモスタル高校での事例(注3)などを紹介した。

「日本企業の投資を呼び込むことも今回の訪日の大きな目的」と述べたタディッチ大統領に、緒方理事長は「隣国のクロアチアは観光に力を入れて日本人観光客が増えているようだ。セルビアも同様に観光振興が課題となるのでは」と応じた。セルビアには中世の修道院など、クロアチアと同様、複数の世界遺産が存在する。タディッチ大統領は「観光は重要な分野だ。今後の日本との交流の進展とJICAからの支援に期待する」と会談を結んだ。

JICAは今後も環境対策の拡充、民間セクター開発、経済・社会インフラ整備を通じて、セルビアの開発を支援していく。

(注1)メンターは日本の商工会などの経営指導員に類似したもので、中小企業の経営・業務への助言や指導を行う人材。

(注2)たとえば二酸化硫黄(SO2)に関しては、EU基準、セルビア国内基準ともに400mg/Nm3(2016年からは200mg/Nm3)だが、ニコラ・テスラ火力発電所の排出量は1,400〜1,900mg/Nm3(2009年)と、基準を大幅に超えている。

(注3)ボスニアック系、クロアチア系、セルビア系という、三つの民族ごとに異なるカリキュラムで学んでいる高校に、ITの授業で共通のカリキュラムを導入。合同授業を行い、民族同士の融和を図るプロジェクトを実施している。