スズキは日本同様ディーラーで大サービス

パキスタンでは日本と同様、自動車は左側通行です。
普通の乗用車のほか、派手に飾られたトラックやバス、
バイクの後ろに荷台をつけた乗り合いタクシー、小型のバイク、
ロバの引く荷車が目立ちます。
よく見てみると、走っているのはすべて日本車。

JETROのカラチ事務所に勤務する白石薫所長によれば、
パキスタンは、トヨタのカローラ販売台数がタイに次いで第2位、
2011年には世界で5位にランクされたのだそうです。
2012年、トヨタ系のインダス・モーターのパキスタン国内での
累計生産台数は工場設立から19年目に50万台を超えたそうです。

パキスタンの日本自動車市場を開拓したのはスズキでした。

スズキは、1958年と他メーカーに先駆けてパキスタンに進出しました。
すでにパキスタン国内の工場での生産台数は四輪・二輪合わせて
100万台を超えています。新車販売のシェアのうち、55%はスズキ車です。

街には、スズキのカルタスの姿が目立ちます。
また、バイクにひかせる荷台の部分にも、
大きなSUZUKIのロゴがよく見られます。
これはパキスタンの人が自ら書いたもので、
SUZUKIブランドに寄せる信頼の大きさが伺えます。

パキスタン最大の都市カラチにある
スズキの自動車販売店を訪ねてみました。

店の前には小さな渋滞ができていて、店内も大にぎわいです。
会場には家族連れが大勢。ドリンクや軽食が用意されていて、
ステージには司会者がマイクを持って
何やらにこやかにお客さんに話しかけています。

いったい何が催されているのでしょうか。
スズキの現地法人であるパキスタン・スズキ・モーターズの
鈴木信隆さんにうかがってみましょう。

池上「大変な賑わいですね。今日は何をしているのでしょうか」

鈴木「無料で点検を行っています。こちらには娯楽が少ないので、ただの無料点検サービスではさびしいので、CARnibalと銘打って、お祭り的なイベントにしているんですよ」

池上「顧客サービスなんですね。車とカーニバルをかけているわけですか」

店内に据えられた大型テレビにはゲーム機が接続され、
お客さんたちは日本でもおなじみのカーレースゲームに興じています。
その間にも、無料点検を希望するユーザーの車が次から次へと
ディーラーの駐車場にやってきて、胸にSUZUKIのロゴをつけた
現地のエンジニアがひとりひとり対応しています。

日本車のシェアが100%近いのであれば、
放っておいてもクルマが売れそうなものです。

なぜこれほどまでにアフターサービスに手間とお金をかけるのか。
理由はパキスタン政府の中古車輸入政策にありました。

パキスタン政府は中古車販売に関する政策を二転三転させています。
中古車の輸入制限が緩やかになれば、
安価な中古車が海外からなだれ込み、
新車の生産と販売を行っている日本自動車産業勢は大きな痛手を被ります。

スズキのディーラーが顧客に対して行っているこのCARnibalは、
中古車の流入を見越しての丁寧なアフターサポートであり、
新車への買い替え需要喚起でもある、というわけです。

パキスタンではどんなクルマを売っているのか。
聞いてみましょう。

池上「これはなんという車ですか?」

鈴木「メヘランです。カラチのあるシンド州周辺の旧名をつけました。日本で言えば、アルトとか、フロンテクラスの車です」

池上「ここで販売している車は、すべてパキスタン国内で生産しているのですか?」

鈴木「国内で生産しているのは6車種で、2車種は輸入しています。そのうちの1車種であるジムニーは、日本から輸入しています」

池上「スズキは1981年にインドに進出していますね。隣り合ったパキスタンとインドとで、共通の販売戦略はあるのでしょうか」

鈴木「パキスタンで経験を積んだ人物がインドへ行くなど、人事交流を行っています。ビザさえ取れれば、パキスタンの公用語のウルドゥー語と、インドの公用語のヒンディー語ではコミュニケーションもしやすいようです」

パキスタンのビジネスで育った人材が周辺国で活躍する、
というわけですね。

JETROパキスタン事務所の白石さんによれば、
「イスラム金融を手がけるオリックスグループでも
同じような戦略をとっている」とのこと。

「リース事業を手がけるオリックスは、
中東やアフリカなどでイスラム圏でのビジネスを得意としています。
そのオリックスはまずパキスタンに進出して、イスラム金融の世界で
リース事業を認知させ、ノウハウを獲得したうえで、
中東やアフリカに人材を投入していているのです」

スズキの話に戻りましょう。

池上「今、パキスタン国内にはいくつの販売店があるのでしょうか」

鈴木「81カ所あります」

池上「フランチャイズですか」

鈴木「そうです。やはり、地元のことを知っている人に売ってもらうのが、一番ですから」

パキスタンは、日本の自動車産業の独壇場です。
中古車輸入によるシェア縮小の恐れはあるものの、
現時点で日本企業を脅かす存在は見当たりません。
日本同様の右ハンドル市場であるため、主に左ハンドル車を
生産している中国や韓国も参入しにくいからです。

ただし、内憂があります。

それは、自動車産業を支える各種部品産業の技術力に
不安があるということです。

自動車は膨大な部品の組み合わせでできています。
自動車メーカーのみならずさまざまな部品産業の力が、
産業の発展には不可欠です。

メーカーからすれば、部品の現地調達が可能ならば、
コストを抑えることができます。ところがパキスタンの部品産業は
日本メーカーの水準を満たせる企業が少なく、
部品の現地調達比率はいまだに50%以下です。

そこで日本は、現在パキスタンの部品産業を育てるために
さまざまな技術指導を行っています。
パキスタンの部品産業が発展すれば、同国で日本の力を借りながら
「国民車」を生産する時代が訪れるのも夢ではなくなります。

官民あわせて、日本はパキスタンの自動車市場の要となっている。

この目で見て、実感しました。

総合商社が狙うBtoBtoC巨大マーケット

Pakistan Business

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