パキスタンの電力のカギは水力発電が握る

電力は社会の血液であり、電力のない社会というのは
世界中どこへいってもほぼ存在していません。

それだけ社会にとって不可欠な電力ですが、
ここパキスタンではいまだに電力が足りていません。

パキスタン国内での電力需要は2005年ごろから急増しています。
ところが、供給は追いついておらず、
2013年夏時点での需給ギャップは最大で6300メガワットにも達しました。国全体の電力供給率は67%台にとどまっています。

パキスタン最大の都市1260万人の人口を抱えるカラチや、
各国の大使館が並ぶ首都にして政治都市イスラマバードでも、
1日平均で8〜12時間の停電が発生しています。

なぜ、必要不可欠な社会インフラである電力の供給が遅れているのか。

理由のひとつはパキスタンが資源輸入国である、という現実です。
天然ガスは西部のスイ(Sui)ガス田で一部産出しますが、
石油や石炭などは輸入に頼っています。
パキスタンの街頭でガソリンスタンドを眺めると、
ガソリンの価格は絶対額で日本よりも割高です。

そんなパキスタンにとって大きなエネルギー源となり得るのが、
インダス川流域の豊富な水資源を活用した水力発電です。

なかでも、首都イスラマバードから西に70キロほど走った
パンジャブ州バロータにある、ガジ・バロータ水力発電所は、
パキスタン屈指の巨大電力源です。

この発電所は日本の国際協力で完成しました。
約349億円の円借款で1994年に着工、2005年から稼働しています。

2005年といえば、パキスタンで電力需要が急増した時期です。
当時、1450メガワットと、パキスタン国内で2番目の発電能力を持つ
この発電所が建設されていなければ、より深刻な電力不足が発生し、
都市部では1日あたり15時間近く停電した計算になったそうです。

日本による国際協力が、パキスタンの電力危機を最小限に
食い止めたといえるでしょう。

ガジ・バロータ水力発電所を目指して、首都イスラマバードから
トヨタ・ランドクルーザーに乗り、延々走り続けました。

ちなみに途上国での取材では、
どこの国でもほぼ100%トヨタ・ランドクルーザーの後部座席に
座って移動しています。
頑丈で故障が少ないため、どこの国でも絶大なる信頼を得ているのです。
海外で実感する日本の隠れたキラーコンテンツですね。

イスラマバードの街中を抜けると、幹線道路は、
周囲は青々と実った麦畑と、黄色の花が鮮やかな菜の花畑に囲まれます。
パキスタンが農業国であることを実感させる風景です。

1時間半ほど走ると、幅数十メートルの巨大な水路を渡り、
今度はこの水路沿いを走ることになります。
この水路こそが、これから訪れるカジ・バロータ水力発電所の
「エネルギーのもと」です。
インダス川から取水し、長さ52キロ。幅は58.4メートル。
車を降りて水面を眺めるとものすごい量の水がかなりの勢いで
ダムの方向に流れ続けています。
うっかり落ちたらあっというまに流されてしまいそうです。

さらにこの水路沿いを30分ほど走ります。
ところどころで交差点がありますが、
必ず警備の警官が小銃を持って立っています。
発電所の重要性が伺える光景です。

道が上り坂になり、一気に駆け上がると、
道はいくつもの巨大な貯水池に囲まれました。
発電所の入り口です。
さきほどの水路で運ばれてきた水はこちらの貯水池に貯められ、
そのあと67mの高さから発電所の中を一気に流れ落ちます。
そのエネルギーで発電タービンが回転し発電されるわけです。

貯水池の間を抜けて、発電所のてっぺんにたどりつきました。

眼下には巨大な発電施設と配電施設とが目に入ります。
流れ落ちる水はコンクリートの下の水路を通るため見えません。

こうした光景、実は私自身が子どもの時分に小学校や中学校で
社会科見学や遠足で見慣れたものです。

戦後の日本では、数々の水力発電所が巨大ダムとセットで、できました。
黒四ダムや佐久間ダムなど、日本各地で完成した水力発電所が、
戦後の日本の電力需要を満たしていた時代があったのです。
小中学校の社会科見学や遠足には、
こうした水力発電所用のダムが必ずといっていいほど
コースとして組み込まれていました。
ドキュメンタリー映画などでもダム建設は
題材としてよく取り上げられていたものです。
私も東京近郊の小河内ダムを見学したことをよく覚えています。

新興国のインフラ整備の取材は、
いつも私に戦後から高度成長期にかけての
「昭和の日本」を思い出させます。
逆にいえば、まさにパキスタンも今、
高度成長期の入り口に立っているわけですね。

今度はエレベータに乗って水力発電所の設備の中に入ります。
これまで立っていた発電設備の頂上の足下、
67メートルの落差の中腹あたりに入口はありました。

スタッフに案内されて、発電所の心臓部を見学します。

巨大タービンが目の前で回転しています。

タービンは5つあり、需要に応じて運転するタービンの数を変えています。タービンの先にある発電機は、日本の東芝製。
タービンを回し、役目を終えた水は、
再びインダス川へと戻っていくそうです。

発電所のメイン制御室におじゃましました。
普段はたった3人でこの巨大設備をこちらの制御室から
監視しているそうです。
設備の大きさと、制御する人間の数の少なさの落差に、
当たり前ながらちょっと驚きを感じますね。

パキスタン国内での水力発電への期待は大きいものがあります。

それは発電コストが安いからです。
水力発電による1キロワット時あたりの発電コストは
1ルピー(約1円)程度。
火力発電などを含めた現在の平均値である1キロワット時当たり
約14ルピーを大きく下回っています。

なお、電力コストが14ルピーであるのに対して、
電力料金は9ルピーです。
この金額は、政府が見通しに応じて国民に対して約束したもので、
見通しを上回ったからといって値上げができるものではありません。
このギャップを政府は補助金で補填しており、
それが政府の財政を苦しめています。

なぜ水力発電のコストが低いのでしょうか。

それは、パキスタンには山岳地帯が広がっていて高低差を活かした
水力発電が可能だからです。
北部にはカラコラム山脈やヒンドゥークシュ山脈など、
8000メートル級の山々が連なっています。

ちなみにパキスタン最大の水力発電所は、
ガジ・バロータ水力発電所のさらに上流部にあります。
上流で発電に使われた水が下流でもう一度、
発電に使われるというわけです

せっかく水力発電に活用できる豊富な水源があるにもかかわらず、
現在のパキスタンは、地の利を活かしきれていません。

電力供給の63%を火力発電に依存しており、
水力発電は3割に留まっています。
火力発電に必要な原料である石油や石炭は冒頭で記したように、
国内ではほとんど採掘していません。
天然ガスはあるものの採掘は遅れています。
結果、パキスタンはエネルギー輸入国となっています。

なぜ、水力発電所がなかなか普及しないのでしょうか。

水力発電所は設備が巨大なために初期投資が大きいこと、
そして設置に大変時間がかかるからです。
ガジ・バロータ水力発電所も着工から完成までに10年近くかかりました。

一方、火力発電所は水力発電所に比べると場所を選ばないうえに、
初期投資が比較的小さく、完成までの時間も短縮できます。
このため、水力発電所は、パキスタンにおいて
潜在的に魅力があるにもかかわらず、なかなか増設されないのでした。

とはいうものの、ガジ・バロータ水力発電所のように、
自然エネルギーを利用した発電所を設置できる候補地は
国内にいくつもあるそうです。
電力インフラのさらなる整備をすすめるためには、
次なる水力発電の開発がカギを握っている、といえそうです。

電力が普及すれば冷房や暖房を普通の人が利用できるようになります。
テレビを見て、パソコンを使って、という近代生活が
誰でもできるようになります。
途上国において、市民の社会生活の向上は、
そのまま社会への不満を低減させ、
治安の維持や社会の安定を実現する一助になります。

電力普及を水力で。
今後も日本をはじめ世界の国際協力が必要な分野です。

石炭火力の開発で、電力需給ギャップを埋める

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