交通インフラがパキスタンを変える

答えは「アボダバードの街から、車やロバで運んできた」。

実際、パキスタンの街を走ると、いまだにロバで荷物を
運んでいる姿をたくさん見かけます。
アボダバードの浄水場でも、自動車のみならず、
ロバが物流手段として活躍したそうです。

逆にいえば、パキスタンには、
近代化を果す上で重要なインフラがまだまだ未整備です。
それは交通のインフラです。

電力、水道と並んで必要な社会インフラ、
それは移動や物流に欠かせない交通インフラです。
人やモノが自由に移動できなければ、経済も社会も動かないからです。

パキスタンの場合、交通インフラの主人公は道路と自動車になります。
理由は、鉄道網が未発達で、どうしても自動車に移動や物流を
頼らざるを得ないからです。多くの途上国と同様ですね。

パキスタンの道路網はまだまだ発展途上です。
そこで国際協力によって、パキスタンの道路事情を改善しようという
動きが各所で起きています。

たとえば、首都イスラマバードの西に位置し、
アフガニスタンとの国境とほど近い、山に囲まれた古都ペシャワールと、
インド洋に面したパキスタン最大の都市カラチを結ぶ
1200キロに及ぶ国道55号線は、交通量も多く、
パキスタンの物流の要となっていました。

日本は、1200キロ中、約1000キロの
拡幅・改良を円借款で支援しています。
しかし、国道55号線にはまだ難所がありました。

ペシャワールの近くにある山を抜けるコハット峠です。

最大8%の急勾配の坂で、最小半径12メートルの急カーブがいくつもあり、幅員はたった6m。通行する車は速度を落とさざるを得ません。
当然のことながら、追突事故や横転事故が多発しており、
そのたびに交通が麻痺する始末でした。

パキスタンの南部はインダス川に沿った巨大な扇状地。
延々と平野が広がっています。西部や北部は急峻な山岳地帯。
こうした交通の難所がいくつもあります。
私もイスラマバードからアボダバードへは、
急勾配の峠を車で抜けましたが、切り立った崖が道路脇に迫り、
少々ひやりとすることが何度かありました。

また、パキスタンの物流を担うトラックは、
とにかくいっぺんに大量の荷物を運ぼうとするため、常に過積載状態です。坂道では当然事故の恐れが倍増します。
取材途中で過積載のトラックが横転した様を見かけることもありました。

日本は、約126億円の円借款で、先にあげた国道55号線の
コハット峠の代替ルートを開発し、自動車が安心安全に
交通できるようトンネルの建設を1996年に始めました。
完成は2003年。
山岳地帯の多いパキスタンにとって初めての大型トンネルです。
全長は1885m、幅員は7.3mです。

トンネルの効果は絶大でした。

コハットトンネルの完成により、1996年には1日あたり約5,500台だった
交通量は、2005年には約6,800台を超えるまでになりました。

北部の農村部から、南部の都市部へ、
野菜や果物などの生鮮食料品を新鮮なまま届けられるようになりました。
交通網の整備が、貧困層の多い農村部と都市とを結ぶことで、
農村部に貨幣経済をもたらすわけです。

また、交通網が充実することで、教育に対する効果も現れます。

スクールバスの便が良くなることで、
それまで子どもを学校に通わせることができなかった貧困層の家庭でも、
通わせることができるようになりました。
道路事情が悪かったときは、先生がしばしば遅刻したり欠勤せざるを
得なかったりしたときもありましたが、
そういったアクシデントも減りました。

また、これまでは病院が遠くて治療を受けられなかった地方の人々も、
道路事情の改善で、病院に通うことができるようになりました。

交通網の整備は、ただ車がスムーズに動くようになるだけではありません。
経済効果から教育効果、医療効果までがあがるのです。

さらにパキスタンの都市部では、すでに慢性的な渋滞に悩まさ
れているため、自動車に頼らない新たな交通網の整備が
進められようとしています。

東部の中心都市ラホールでは、高架の専用レーンをバスが走り、
街のなかを渋滞にわずらわされることなく移動できるのです。

日本ならばさしずめ新交通システムを導入するところでしょうが、
パキスタンでは普通のバスが走るだけ。低コストの交通システムです。

パキスタン最大の都市であるカラチ市内では、
鉄道網の整備計画が進んでいます。
山手線のような環状鉄道網を建設しようという動きがあるのです。
カラチの交通渋滞は世界でも屈指といわれていますが、
都市鉄道が整備されれば、現在の経済成長のボトルネックとなっている
交通麻痺を改善する一助になることでしょう。

とはいうものの、パキスタンにおいて人々の移動も
物流もおそらく9割がたは自動車が担っています。
トラックであり、バスであり、さまざまな作業車両です。
そして、前回の連載でも触れましたが、
パキスタンで利用されている車の95%は日本車です。

ただし、こうした「働く自動車」には、
パキスタンならではの大きな特徴があります。

それは、トラックもバスもトラクターのような作業車両も、
ほぼすべて「お化粧」をしていることです。 

70年代の日本で「トラック野郎」という映画がブームになりました。
菅原文太さんが主演となり、文字通りトラック野郎が活躍するのですが、
あわせてブームになったのが、
満艦飾のライトやパーツをおごった「デコトラ」です。
みなさんも見覚えがあるでしょう。



パキスタンでは、あの日本のデコトラをはるか上回るさまざまな
装飾を施したトラックやバス、はてはトラクターが走り回っています。
装飾していない「働く車」を見つけるが困難なほどです。

パキスタンのひとたちにとって、こうした「働く車」は一大財産であり、
同時にお金を稼いでくれる大切な存在です。
その感謝をこめて、自分の愛車を
デコレーションしているのかもしれません。

自動車が生命線となるパキスタンの文化の一端を、
派手な装飾をほどこしたトラックやバスにかいま見ることができます。

洪水から国を守れ

Pakistan Business

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