洪水から国を守れ

電力、水道、交通。これまでのインフラ整備は、
社会と経済を積極的に発展させるためのものでした。

しかし、パキスタンにはもうひとつ、
国を守るために必要なインフラがまだまだ未整備です。

それは防災のインフラです。具体的には洪水対策です。

パキスタンは巨大河川のインダス川の扇状地に国の大半が位置しています。
この地の繁栄は、インダス文明勃興の3500年前から
インダス川の恩恵によるものでした。
けれども、インダス川がもたらしたのは肥沃な土地と
豊富な水資源だけではありません。

洪水という災厄を同時に、常にもたらしてきたのです。

2010年には、7月の雨期に北部の山岳地帯で豪雨が発生、
その結果、山岳の下流部が洪水に呑み込まれました。
なんと国土の数分の1が洪水の被害に遭い、
1500人以上の方々が亡くなり、数千万人が家を失いました。

このときはパキスタン政府の要請を受け、
国連が数億ドル単位の援助を行い、日本からは自衛隊が現地に
派遣され救援活動に従事しました。
JICAもテントや浄水器など緊急支援物資を供与しました。

パキスタンにとって、洪水問題は
今後ますます深刻化する可能性があります。
地球温暖化問題が裏に控えているからです。
パキスタンの北部はカラコラム山脈など氷河が存在する
8000m級の山岳地帯です。
しかし温暖化の進行で、いま世界各地では氷河が次々と消失しています。

溶けた氷河の水は当然下流部へと流れ出ます。
パキスタンはまさに温暖化の進行に伴い、
洪水被害が拡大し得る地理的条件を備えているのです。

パキスタンでは、こうした状況を受け、
洪水対策を根本から変えようとしています。
これまでは、堤防などインフラを整備して洪水を
防御しようというのが主流の考え方でした。
けれども各所で洪水被害が増えるとインフラを
いくら整備してもおいつきません。

そこで、「洪水が起こる」ことを前提として、
被害を最小限に食い止めるための「適応策」をつくっていこう、
というのがパキスタンの防災対策の中心になりつつあります。

日本からは、2013年にパキスタンではじめて策定された
国家防災管理計画を基に、JICAが主要なプロジェクトに参加しています。
国家防災管理計画についてもJICAが技術協力でサポートしています。

これまで起きた水害では、被害が拡大してからあわてて対応するという
順番だったのですが、今度は事前に被害を最小限にとどめるため、
警報システムを整備し、早期の避難誘導を可能にしました。

さらにどこで洪水が起き得るのか、より正確に予測できるよう、
各地に気象レーダーを設置するべく、調査も進められています。

洪水に加えて、パキスタンは地震が多い国でもあります。

近年では、2005年、2011年、2013年と、
マグニチュード7以上の地震が発生しています。
なかでも2005年の地震では7万人以上が死亡したとも言われています。
大規模な被害を引き起こした一因は、
レンガを積んだだけの脆弱な建物です。
このときは、JICAの専門家とその家族も犠牲になりました。

地震対策は、日本がインフラ整備もソフト面での対応策でも
世界トップクラスの知見があります。
パキスタンでは、今後、地震関連の防災体制を日本の主導で
整備することが期待されています。

ここまで、パキスタンのインフラの整備状況についてまとめました。
ここで取り上げたインフラは、どれも主に「ハード」の話です。
発電所であり、水道設備であり、道路交通網です。

しかし、社会と国は、ハードだけでは動きません。
動かすのは常に「ひと」です。
「ひと」を育てるには「ソフト」のインフラ整備が欠かせません。

具体的には教育インフラの充実が、その国の未来を決めます。

次回は、日本の国際協力で進められている、
パキスタンの教育改革の現場を取材します。
なんとあの「タリバン」も登場します。

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