女性の学びはみんながハッピーになる

パキスタン中を駆け巡り、ひとつひとつ手作りで
カリキュラムを実現してきた大橋さんは、
総勢40万人のパキスタンの女性たちに学びの場を提供してきました。

「パキスタンで女性に教育の機会を提供するには、
彼女の家族を『お嬢さんに教育を受けさせた方がお得ですよ』
と説得するのが一番です。
農業の手伝いをさせたりするよりも、娘が文字を読めるようになれば、
請求書の中身がちゃんとわかったりするし、
さまざまな節約術も学べるし、もっと割のいい仕事にありつけたりする。
女性が学校に通って勉強すると、みんながハッピーになる、
ということを具体的に教えていく。
女子向けのノンフォーマル教育はまず、
コミュニティの長である男性たちを説得し、長たちが家族を説得する、
というところから始まるのです」

州政府の識字局から派遣された識字普及員の仕事は、
とにかく地域の長たちの意識改革を行うこと。
女性に教育を受けさせた方がみんな幸せになる、
という未来を示してあげて、
女子教育に対するオーナーシップを植えつける。
すると、長たちは女子の家族たちを説得して、
教育を受けるよう促してくれるようになる、ということです。

最初のハードルを乗り越え、実際に女性が学校で勉強するようになると、
ああ学校に行かせてよかった!
と親や地域の男性たちも意識が変化するそうです。

「それからノンフォーマル教育の場を用意すると、
大きな変化が2つあるんです」

まず1つは女性の変化。
パキスタンでは女性同士が集まる場所がこれまであまりなかったそうです。
基本的に女性の外出はよしとされないこともあり、
社交の場はもっぱら男性だけがたむろすることになります。
コーランを唱える宗教施設でも目立つのは男性ばかりでした。

「それが、女性向けノンフォーマル教育の場をつくると、
小さい女の子からティーンエージャーからお母さんからおばあちゃんまで、
あらゆる世代の地域の女性が集まります。
すると、お互い情報交換をし合うようになるわけですね。
どこが買い物のときに得だとか、お互いの亭主の悪口だとか(笑)。
そうするとウーマンパワーが強くなっていくんです」

なるほど、井戸端会議の場所になる、というわけです。
しかもそれがパキスタンの女性の社会参画に繋がるというのです。

もう1つは、男性の意識の変化。

女性たちが集まって文字を覚え、さまざまな実技を習得すると、
家計が管理できるようになり、節約ができるようになり、
家のご飯がおいしくなり、
収入の高い仕事に就くことができるようになります。

教育はすべてを改善するんだ、ということが実利的にわかるわけですね。

教育の力は、伝統的な因習を変え、人々の経済事情を変えてしまうのです。

大橋さんは、日本でユネスコなどの仕事を経て、
国際援助の現場に飛び込みました。
アジアの文化の多様性に興味はあったものの、
いわゆる教育の仕事とは縁がなかったそうです。
さぞや苦労をされたのではないですか、と水を向けると、

「まったく文化の異なる場所で、働く女性がほとんどいないので、
それを逆手にとって『私は外人女だから』と
あえて空気を読まないふりをして、
改革案をどんどん識字局の人たちにつきつけるようにしました」

と笑いました。

「村でも、女性の先生が登場して、みんなを教育するようになる。
1人でも女性が働き出したらしめたものです。
彼女をロールモデルにしようという女の子たちが次々と現れますから」

教育は人を変えます。人が変われば、国も変わります。
パキスタンを変えていくのは、教育の力なのです。

Pakistan Business

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