タイを「運ぶ!」 運輸編  都市鉄道がバンコクを変える日

国境の街から、私たちを乗せた車は、首都バンコクに向けてひた走りました。タイの南部経済回廊=幹線道路は実に立派です。片側2車線は当たり前。バンコクに近づくと片道4車線に広がります。舗装もしっかりしていて、ロングドライブも快適です。日本の高速道路より立派です。

日本通運のロゴやヤマト運輸のクロネコマークがついたトラックが走っているのに何度も出くわします。日本の物流産業が確実にタイの市場に進出している様が見てとれます。

国際空港の脇を抜け、走っている高速道路が高架になると、目の前に高層ビル群がそびえ立ちます。バンコク市街です。いきなり車のスピードが落ち始めました。バンコク恒例の渋滞が始まっているのです。時刻は16時。いま乗っている車の運転手の話では、朝夕の通勤時間帯はさらにひどく、車がまったく動かなくなるのが当たり前だそうです。

都市の慢性的な交通渋滞は、程度の差はあっても、バンコクのみならずインドシナ半島各国の大都市にとって共通の悩みの種です。ベトナムのホーチミンも、カンボジアのプノンペンも、ミャンマーのヤンゴンも、どこも都市部の交通は朝晩に限らず慢性的にマヒ状態です。

日本はどうでしょうか。東京や大阪も朝夕は交通渋滞がありますが、東南アジアの大都市ほどではありません。公共交通機関、とりわけ電車網が発達しているからです。市街地を地下鉄が網羅し、地下鉄と接続した私鉄やJR各線が郊外に伸びる。日本の都市通勤者のほとんどは、自動車やバイクを使わず、電車を利用します。

インドシナ半島の大都市で鉄道網が発達している街はまだほとんどありません。この連載でも触れましたが、ベトナム・ホーチミンでも、日本の国際協力でようやく中心部と郊外を結ぶ鉄道の工事が始まったばかりです。

そんな中、タイ・バンコクでは、20世紀終わりから都市交通としての鉄道網の整備が本格化し、現在も急ピッチで進んでいます。

1999年には、バンコク市街地を高架で走るスカイトレインが開業しました。

1997年からは、日本の円借款で、地下鉄バンコクメトロの建設が始まりました。巨大河川チャオプラヤ川のほとりにあるバンコクは低湿地帯が多く、地下鉄の工事は困難を極めましたが、日本のゼネコンの尽力もあり、2004年にブルーラインが開業しました。全長20.8km。

2010年には、タイ国有鉄道の手により、バンコクの新しいスワンナプーム国際空港と中心部を結ぶエアポート・レール・リンクが開業。タイ国鉄は、郊外に伸びるダークレッドラインとライトレッドラインの建設を始めました。

矢継ぎ早の鉄道建設により、「バンコクの渋滞はずいぶんと改善された」と地元の方たちは話します。

「バンコクの朝夕は渋滞で車が動かなくなる」と記しましたが、それでも都市鉄道ができたことで渋滞はずいぶん緩和されました。鉄道を利用すれば、計画的に移動できるようになったからです。

これはものすごい進歩です。ビジネスパーソンも通学者も旅行者も、これまで時間が読めなかった市街地での移動時間が読めるようになりました。とりわけ飛行機を利用するのが気軽になりました。市街地と空港の移動時間がわかるからです。計画的に時間通りに移動ができる。経済と社会の発展にとって欠かせないポイントです。

都市での人の移動や物流を自動車のみに頼っていると、どこかで輸送システムはパンクします。一定限度を超えると、モノが運びにくくなり、ヒトが移動しにくくなる。人の流れとモノの流れが目詰まりを起こす。そうなると、経済成長もそこで止まってしまいます。

これまで日本は、タイ・バンコクの都市鉄道の開発にさまざまな国際協力をしてきました。資金面では円借款を行い、日本の建設会社が鉄道インフラの建設にあたりました。ただし、鉄道車両については、ドイツのシーメンンス社が供給してきました。

しかし今、日本製の車両が走る新しい路線が、日本の協力で建設中です。2016年に開業する予定のバンコクメトロ社のパープルラインです。

バンコクで4路線目の都市鉄道で、バンコク市内のタオプン駅から北西部方向に伸び、バンコク郊外のノンタブリ県バンヤイ地区のクロンバンパイ駅までの23キロを結びます。始発のタオプン駅ではブルーラインと接続予定とのこと。現在、日本の円借款を利用して鉄道インフラが建設され、JRが丸紅、東芝と一緒に車両とシステムの開発を進めています。パープルラインを走るのは、JR東日本グループの総合車両製作所(J-TREC)の新しいステンレス製車両です。この車両、次世代の山手線車両と類似のものだそう。

2015年9月、横浜の大黒ふ頭からこの新型車両を載せた船が出航し、9月21日には車両引き渡しのイベントが開催されました。

では、オールジャパンがつくっている新しい鉄道、パープルラインの車両基地の建設現場を訪れることにしましょう。