ミャンマーで「創る!」 課題編 ワインにコーヒーにお茶にフルーツ 隠れた農業大国の未来に投資のチャンスあり?

ミャンマーが、日本を含む外国企業の進出先として注目されてからまだ数年しかたっていません。社会インフラの整備は遅れています。

住友商事の梁井さんの話でも、しょっちゅう停電する、とのことで、電力の供給ひとつをとっても、本格的な経済発展をするためには及第点をあげられるレベルではないらしいのです。私がミャンマーを訪問したときも停電に悩まされました。

道路などの整備もこれからで、ヤンゴンの中心街からたった20kmしか離れていないティラワ工業団地に自動車で移動するのに1時間以上かかりました。途中、道路の舗装状態が悪かったり、幹線道路が片側1車線だったり川に架かった橋が1車線交互交通で大渋滞をしたり、という具合です。

輸送インフラが貧弱だと、通勤や物流に大きな支障を生じます。南部経済回廊のような巨大幹線のみならず、こうした毛細血管のような道路や鉄道インフラの充実も、経済成長には欠かせません。

市場の潜在価値はあるものの、インフラをはじめとして、まだまだ経済発展の基礎要因が固まっていないミャンマー。日本企業が進出するうえで、何がポイントとなるのか? 現状は、そして未来はどうなり得るのか?

ミャンマーの国家計画経済開発省・投資企業管理局の“ジャパンデスク”のアドバイザーとして奮闘するJICA専門家、本間徹さんに伺いました。

本間さんの服装は、ロンジーをまといミャンマーの男性のそれそのもの。これまでも郷に入っては郷に従う精神で、海外での仕事をしてきたそうです。本間さんのいる“ジャパンデスク”は、ミャンマーに進出したい日本企業の支援をするのが仕事。投資や会社設立に関する情報を提供し、個別の相談に乗るほか、日本でのセミナー開催や、ミャンマーでの講演もしています。最近は、日本の地方からの来訪者も多く、各地商工会議所や地方銀行による視察訪問団の受け入れも多く行っています。ほかの国もミャンマー政府の中にこういった“デスク”を持っているかというと、さにあらず。日本は特別ということのようです。

「ミャンマー政府は外国からの投資を得たいと考えていますが、雇用創出や技術移転、品質向上、環境配慮などの面で国民にメリットのある『質の高い投資』を求めています。日本の行っている投資はそのニーズと合致しています」

進出企業にとってミャンマーの魅力はなんでしょうか?

「1つは人件費の安さです。ミャンマーの最低賃金は1日当たり3600チャット、およそ3ドル弱。電力や道路などのインフラが整備途上で、法制度も改善が進んできているもののまだまだ複雑で、ミャンマー進出は手間がかかります。それでもミャンマーへ進出したい企業がたくさんいるのは、人件費が安いことにメリットを感じるからです」

ミャンマーに進出している日系工場は、アパレルの縫製工場の他に医療用の注射針製造などがあるそうです。本間さんが「手先が器用でまじめ」「今までさまざまな国で勤務しましたが、こんなに働く同僚たちを見たことがない」というミャンマーの人にうってつけの仕事ばかりですが、原料はすべて輸入に頼っている状況。輸送にかかる費用や時間を考えても、ミャンマーでつくる方が安いのだそうです。

「その一方で」と、本間さんはくぎを刺します。

「ミャンマーの『人件費が安い』という優位性は、20年はもたないと思います」

途上国は貧しいがゆえに人件費が安い。人件費が安いから外国から工場が進出する。その結果、経済が発展して国民が豊かになると、人件費が上がる。すると人件費が安い、というミャンマーの優位性は失われる————。どんな国でも経済発展すると必ずぶつかる「壁」です。仮にミャンマーが、この「壁」にぶつかったとき、何を糧にすればいいのでしょう?

本間さんに聞くと、意外な答えが返ってきました。

「1つあり得るのが農業であり、またそれを生かした農産物加工です。ミャンマーは東南アジア屈指の農業大国になり得ます。地図を見てください。ミャンマーは南北に長い。2000kmを超えます。熱帯、亜熱帯、温帯の地域にまたがっており、北部の高所は雪も積もります。地形も巨大河川のデルタ地帯があり、海岸には湿地帯があり、丘陵地があり、低山があり、高山があります。気候の幅があり、地形の多様性もあるので、多様な作物を栽培することができます。熱帯の緯度でも標高の高い地域があるため、コーヒーのように一年中安定した気温でしか育たない高付加価値の商業作物の栽培にも向いています。米のようなメジャーな作物はもちろんですが、現在はお茶やワイン=ぶどうの新たな生産地として注目を集めているんです」

ミャンマーは、世界で一番お茶の葉を“食べる”国でもあるそうです。

可能性といえば、延伸する南部経済回廊の終着点であるミャンマー南部の都市、経済特区として注目を浴びるダウェーの可能性も気になります。

「ダウェーには大きな可能性も、それに匹敵するくらいのリスクもあると思います。メリットは立地です。ダウェーはベンガル湾に面しており、ミャンマーのみならず、インドシナ半島各国にとって、インドやアフリカ、ヨーロッパ向けの優れた輸出拠点になる可能性があります。タイなどが面しているシャム湾からだと、長大なマレー半島の先を迂回しなければインド洋には入れませんが、ダウェーからだと、いきなりベンガル湾からインド洋へ出て西方向に簡単に抜けることができます。現在のミャンマーの中心地はヤンゴンですが、メコン地域全体で見たときにはバンコクにも近いダウェーが今後の物流の拠点となることは十分に考えられます。そして、ダウェーを含めたミャンマーは、ASEANだけでなく、インドや中国との接点にもなる可能性を秘めています」

では、リスクはなんでしょうか?

「まだまだインフラが整備されていないことです。ダウェーの魅力を引き出すには、まず南部経済回廊がつながること。ヤンゴンなどミャンマーの主要都市との幹線道路も整備されること。なにより国際港としての機能をもりこんだ港湾が整備されること。すでに開発されているヤンゴン近郊のティラワ工業団地のように、外国の製造業が進出できる環境を各地で整えることができるかどうか。このあたりのインフラ整備が遅れますと、経済成長のスピードは遅くなってしまうでしょう」

このシリーズで、アフリカでも南アジアでも突き付けられた「インフラ整備が経済成長のカギ」という法則がミャンマーでも成り立ちそうです。