ミャンマーの「戦い!」 人身取引編その2 インドネシア漁船で強制労働させられる男性たち 売春婦となってHIVに感染して亡くなる女性たち

「インドネシア沖で、漁船での強制労働をさせられていた人たちが2013年あたりからミャンマーに戻ってきています。2015年春にも漁船での強制労働に数百人のミャンマー人が従事していたニュースが大きく報じられていました。漁船での強制労働に従事した人の中には、船に乗ることになるとは思わずにだまされて連れていかれた人もいますし、船に乗ることはわかっていても、無給や長時間の過酷な労働など思っていた条件とは違っていたが、逃げられなかったという人もいます。漁船の上で反抗した結果、外洋に投げ込まれて殺された人たちもいます。いちかばちかで船から飛び降り、自力で泳いで逃げ帰ってきた人たちもいます」

甲木さんたちの仕事は、人身取引の悲惨な現場からいろいろな形で生還した被害者の保護と生活を取り戻すための支援です。そのため、政府やNGOの支援者の能力向上や支援の仕組みづくりに取り組んでいます。

「政府は帰ってきた人たちを一時的に一時保護施設(シェルター)に泊めて、聞き取りをしたり家族の状況を確認したりして、家族の元に安全に帰そうとしています。すぐに帰せないのには理由があります。まず、家族がどこにいるかわからないことがあります。漁船から帰ってきた人の中には、20年近く働かされて40代になってようやく帰って来たものの、家族が元の場所にいないこともあります。また、家族に売られたケースや、家を出るときに多額の借金をしている場合などは、家族のところへは帰りたくないと本人が考えている場合もあります」

中には、ミャンマーに戻ってきてからずっとシェルターで暮らし、そのまま亡くなった人もいるそうです。

「その女性はHIVでした。売春目的で人身取引された女性たち、性的に搾取されていた女性の中には、帰国時にHIVや性病に感染している人たちもいます」

政府の被害者保護を担当している社会福祉局と連携して、被害者のための情報センターを設立しました。そこでは社会復帰を目指す人のために、就職の世話をしたり、ミシンを提供して手に職をつけてもらったりという活動も行っています。

甲木さんたちのもう1つの仕事に、被害者に支援を提供する人材の育成があります。シェルターに保護した人たちの多くは心身ともに傷ついています。心身ともに傷ついている被害者との対話は、スキルや経験がないとなかなかつらい仕事です。また信頼関係がつくれないと、被害者は本当のことを話してくれません。そのためにはまず支援する側が被害者に対する見方や態度を変えることが必要です。被害者の話を聴き、支援に結びつけていける支援者を増やすため、ミャンマーの人たちをトレーナーとして養成しています。

今、ミャンマーでは人身取引犯罪の逮捕者の半数以上は女性だそうです。彼女たちの罪状は、人身取引の口利き。手軽に稼げる仕事ということなのでしょうか。もちろん、彼女たちは組織の元締めではなく末端です。その組織ごと摘発するのは難しいのでしょうか。

「難しいですね。力のある人は裁判にかけられてもお金で解決することがありますから。元締めを検挙するのは困難です。この問題を解決するには、被害者保護に力を入れていくしかないのです。最初にお話ししたとおり、人身取引の全体像はなかなか見えませんから、長期的な対策が立てられません。被害者の中には政府と関わらないようにしている人もいますが、加害者のやり口を一番知っているのは被害者ですから、対策を立てるなら被害者の知見をフルに活用するしかありません。それから、被害者を見る目も変えていく必要があります。『被害者はお金が欲しいからやっている』『当人の問題だ』という意見もありますが、人身取引は社会の問題だ、という認識を広めないと、根本的な解決に向けて進むことはないと思っています」

市場開放されたばかりのミャンマーに潜む暗部である人身取引の全貌を解明し、被害者を救い出し、未然に防ぐ。遠大な目標ですが、その達成のためにも甲木さんらの仕事はもっともっと日本人が知るべきだ、と感じました。