池上彰と考える!ビジネスパーソンの「国際貢献」入門 命、教育、経済までも左右する「水の問題」ゲスト:東京大学生産技術研究所教授 沖 大幹 氏

カンボジアのプノンペンでは、
日本の技術で水道の水を飲めるようになった
PHOTO BY其田 益成/JICA

池上 途上国支援というと、私たちはついつい農村の風景を思い浮かべてしまいますが、実際には都市部への支援もあるわけですね。

 もちろんです。途上国の水問題は、むしろ人口が過密した都市部こそ深刻ですから。カンボジア・プノンペンの水道整備事業は、都市の水対策として非常に成功した例です。実は、プノンペンでは蛇口から汲んだ水をそのまま飲むことができます。日本では当たり前ですが、東南アジアを旅行したことのある人なら、「水道の水がそのまま直接飲める」ことがいかに画期的なことかおわかりでしょう。日本(JICA)の支援が入ったことで、従来は70%以上もあった無収水率(漏水や盗水で失われる水の割合)も8%にまで激減しました。無収水率が低下したことで水道事業体の経営もよくなり、サービスに還元することができました。そうなると水道を設置したいという住民が増え、どんどん普及が進み、それに伴いさらに品質が向上するという好循環が生まれているといいます。

池上 カンボジアで蛇口から出る水を飲めるというのはすごいですね。

 現地の人も誇りを持っています。事業が始まったのは90年代ですが、ハード、ソフト両面からの支援を行った結果、いまだに水道の品質は高いまま保たれています。

気候変動で怖いのは水に関連する災害です 水循環の変化に備えよう

気候変動で水の循環パターンが変わる
PHOTO BY其田 益成/JICA

池上 地球の未来を考えた時、必ず話題になるのが気候変動の問題です。水の問題と気候変動の問題の関係について教えていただけますか?

 気候変動というと温暖化で気温が上がることばかりが気になりますが、社会への影響としては、気温上昇に加えて、雨の降り方、風の吹き方など、気候のパターンが従来と変わってしまうことが大きな問題をもたらします。

池上 気候のパターンが変わると、どんな問題が起きるんですか?

 水の問題に即していいますと、まず降雨のパターンが変わる。これまでの経験をはるかに越える大量の雨が短時間で降ったり、雨季の時期がずれたり、あるいは半乾燥地で今までは少ない雨でもなんとか工夫して暮らしていた地域にまったく雨が降らなくなったり、といった事態が起きるかもしれません。気候変動で、水の循環のパターンが変わってしまうわけです。そうなると、これまでの防災基準では対応できないほどの雨が降ってしまい、洪水対策が後手にまわるかもしれない。これまで栽培してきた農作物が、天候の変動により、育たなくなってしまうかもしれない。そんな実害が出てくるわけです。
 それでも先進国ならば、建築物の補強、堤防をより高くするなど、変化に対して何らかの手を打つことができるかもしれません。けれども、迅速に対応することができない国や地域は大きな被害をこうむることになります。

池上 気候変動は、水循環のパターンを変え、その結果、治水対策も変更せざるを得なくなるというわけですか。

 温暖化対策というとみんなCO2の削減を第一に考えます。それは温室効果ガスの排出量を減らして温暖化の進行を遅くしようという緩和策です。気候変動対策には緩和策のほか、気候が変化しても災害増加にできるだけ結びつかないようにしていこうという適応策が一方で必要なのです。今述べた水循環の変化に伴うさまざまな治水対策、水資源対策が、適応策の例です。ただ、緩和策には排出権やCDM(先進国が途上国と協力して途上国で温室効果ガス削減プロジェクトを行い、それによる削減量を先進国の削減分とみなすことができる仕組み)といった目新しい施策や、太陽電池パネル、エコカーなど夢のある新技術がいろいろありますが、適応策は既存の防災対策や社会開発方策の延長線上にあるのでなかなか注目を浴びません。しかし、例え2000年レベルに大気中の温室効果ガス濃度を固定できたとしても今後しばらく数百年は温暖化が進行すると想定されていますし、変化による悪影響の軽減にすぐに役立つのは、むしろ適応策です。省エネという観点から緩和策も極めて大切ですが、適応策にももっと目を向けるべきです。

科学技術外交でタイの気候変動を共同研究 日本にも役立つ国際貢献のありかた

池上 では、気候変動に伴う水問題について、日本が行っている国際協力にはどのようなものがあるのでしょうか?

 実は今、JICAと一緒に、タイと共同で気候変動に対する水分野の適応策立案を行っています。これは私が直接かかわっているプロジェクトで、「科学技術外交」という新しい枠組みで行っている研究です。この「科学技術外交」では、日本の科学技術を外交に生かすと同時に、外交を科学技術に生かすという双方向のメリットが期待されています。現地の人々にとっては日本の技術を利用することで、気候変動の影響がどのくらいあるかをアセスメントすることができ、その変化に対して具体的に何をすべきかという政策立案の意思決定に役立てることができます。日本にとっては、例えば温暖化の進行に伴って日本でも激しい雨が頻繁に降るようになったときはどんなふうに水循環が変わるのか、どういう対策が有効であると考えられるのか、すでに今でも激しい雨が降っているタイで研究して自国での対策の参考になるという利点があります。

池上 一方的な援助ではなく、国際協力を通じて日本が生き延びていく方法を学べるということですね。

 そうです。それに、途上国で水問題を研究していると、コストと技術のバランスの大切さも身にしみてわかります。日本も人口減や財政難に直面しているわけですから、従来のような「高品質だが、値段も高い」というやり方だけではなく、適正なコストで適切な技術を導入するという発想があってもいいはずです。国際協力というと“与える”ばかりのイメージがあるかもしれませんが、我々が国際協力から学べることも多いのです。

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池上彰よりINDEX「水の問題」(前編)「水の問題」(後編)
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