池上彰と考える!ビジネスパーソンの「国際貢献」入門 池上彰がスーダンを見る!聞く!歩く!「復興支援の問題」ゲスト:JICAスーダン事務所長 宍戸健一氏

南部のジュバにて。職業訓練支援センターが除隊兵士たちを
対象に開いた「オープンデイ」イベント。200人以上が集まった

池上「復興支援」の具体的な内容にについて教えてください。

宍戸長い間戦争ばかりしていた人たちを、除隊兵士として自分の生まれ故郷に戻し、職業訓練や教育を受けさせ、平時の仕事に就き、お金を稼げるようにしてあげる。そこからはじめなければなりません。
 南部のジュバでは、除隊兵士たちを対象とした職業訓練センターを援助しています。池上さんにも取材いただきましたが、2009年8月20日には、職業訓練センターで「オープンデイ」を開催しました。除隊兵士や職のない方々に向けて、職業訓練について知ってもらい、実際に体験してもらうイベントです。200人以上が参加してくれました。
「オープンデイ」には、国連機関や政府関係機関が協力しており、日本からも大使館、JICA、現地NGOのスタッフが参加しました。自動車整備や配管といった工業・建設関係の訓練から、洋裁や飲食店経営といったサービス業の訓練まで、野外のブースで実際に訓練・作業の模様を見せながら、職業訓練について知ってもらいました。ここでコースを選んでもらい、9月から本格的に職業訓練に入り、3ヵ月ほどで基礎技術を習得する仕組みです。

池上実に多くの人たちが参加していましたね。日本のブースでは、大使館の方が折り紙を折ったり、JICAのスタッフが和装でお茶のお手前を披露して、人気を博していました。

宍戸紛争が終わり、平和になってよかったと感じてもらえればいいですね。職業訓練の応募広告を見て参加できることも南部に住む人たちには大きな変化だと思います。
 南部では20年も学校が閉まっていて、まともに教育を受けることすらままならなかった。こうしたイベントなどを通じて、平和な社会で職業訓練を受け、仕事をしてお金を稼ぐチャンスがやっと来たんだということをまずはみんなに知ってもらうわけです。
 ただし、職業訓練以前に、いまの南部スーダンでは、あまりにいろいろなものが欠けています。飲み水もままならない。食料も安定的に手に入らない。当然、生活水準の向上など望めない。こうした状態が長く続くと、人々の不満はたまっていきます。
 また、スーダンの場合、特定の人だけに富が集中してしまったり、部族ごとの貧富の差があったりしたことが、紛争の一因となってきました。ですから、援助していく中で、地方に対する配慮、弱者に対する配慮というのは怠らないようにしていかないといけません。

池上スーダンの、とりわけ南部では、実際に取材をして現場を見ますと、ありとあらゆるものがない、ない、ないないづくしですね。道路も一部しか舗装されていない。学校も病院も満足にない。いったいどこから手をつけていいのだろう、と考えると実に難しい問題に直面しているように思えます。

宍戸おっしゃる通りです。足りないものが多すぎる。けれども、現実問題としては、スーダンの国と人々が欲するたくさんのニーズの中から、優先順位をつけてできることから始めるしかないわけです。

「保健」と「水」と「教育」から始めよう 人々の生活に緊急に必要な社会インフラの整備を

北部の首都ハルツーム郊外にて
豊富な帯水層から水を汲む

池上スーダンでは、「復興支援」の援助を入り口に、国際協力のあらゆる実務を取材させていただきました。北部の首都ハルツームでは、1983年に日本が援助してできたイブン・シーナ病院の現状、日本の専門家を招いての水道技術者への技術訓練、北部のセンナール州の農村部では母子保健プロジェクト、南部のジュバでは、農業支援に、ナイル川に設置した河川港の整備事業、そして紛争処理後の職業訓練と学校教育の再開。こうした多様な国際協力の中で、あえて優先順位をつけると、何と何になるのですか?

宍戸それぞれ関連もあり、悩ましいのですが、保健(医療・健康)、水、教育(職業訓練を含む)の3つです。
 南部政府の関係者も、そう明言しています。人々の健康が保障され、安全な水が供給され、大人は職業訓練を、子供は学校教育を受けられるようになってはじめて、紛争後の平和な社会の基礎ができたといえます。こうした基礎生活分野のインフラがそろわないと、経済面での援助も功を奏しませんから。私たちも、南部での復興支援では、まずこの3分野に力を入れています。

池上なるほど、復興支援のやり方にも順番があるわけですか。スーダンのように紛争で疲弊しきった国の場合、まずは社会インフラをちゃんと立て直し、平和な仕事を就くことが、新たな紛争の勃発を予防することになるのですね。

宍戸ええ。国際協力や海外援助、と聞くと、どうしても対処療法的な、たとえば食料や医薬品、毛布を無償で配るという「人道援助」がまず頭に浮かぶと思います。もちろん、こうした対処療法は即効性がありますから、必要なときはすぐに実行すべきです。でも、社会的なインフラを中長期的な視点で段階的に整備していかないと、せっかくの援助もその場しのぎで終わってしまうおそれがありますし、どうやって人道援助から卒業するかも考えなければなりません。
 地域のバランスも考えながら、社会のインフラをまずは整えよう。私たちもそのお手伝いをしています。

池上保健、水、教育は、復興支援の「三種の神器」なんですね。逆にいうと、この3つがちゃんとしていないと、人間は豊かな現代生活を営むことができない。それに気づかされました。

宍戸そうですね。まず人々が健康に暮らせることが近代国家の最低条件だとして、国連が「ミレニアム開発目標」として掲げています。また、この連載の第一弾で沖大幹先生がたっぷり解説くださっているように、水のインフラが整っていないと、人々の健康も、経済も、教育もままなりません。
 そして、これはあらゆる国際援助機関に従事している人の共通意見だと思うのですが、教育がちゃんと施されている、というのは本当に重要なのです。読み書きそろばんができなければ、さまざまなノウハウを人に伝えたり、事業を経営することも不可能です。教育というのは、社会を支えるもっとも重要なインフラなんだ、ということは、スーダンに来て私も気づかされた事実でした。
 一つの例ですが、今の南部スーダンのジュバでは各国の復興支援事業が押し寄せ、復興景気に湧いていますが、建設労働者、ホテルの従業員や運転手に到るまで、ケニア人やウガンダ人の出稼ぎ労働者が働いています。皮肉な話ですが、スーダン人でこれらの仕事ができる人材が極めて限られているからなのです。復興事業も、まだまだスーダン人の雇用機会を増やすことができていないのです。

ランドクルーザーは最強の日本大使 スーダンと日本は、遠いようで近い国です

アフリカの国際協力の現場では、日本車が大活躍

池上アフリカで国際協力にかかわってきた宍戸さんに質問です。一般の日本人にとって、アフリカは非常に遠い存在です。日本が援助するならば、関係の深いアジアだけで十分じゃないか。アフリカまで援助する必要はあるのだろうか。そんな疑問を持つ方もいらっしゃると思います。いかがでしょう?

宍戸実は、スーダンはみなさんが思っているよりもずっと日本と近い国です。スーダンに来て2年になりますが、それを実感しています。たとえば自動車。スーダンでの生活に車は必須ですが、北部のハルツームにおいても南部のジュバにおいても、走っている車の多くが日本製です。道の悪いスーダンでは、オフロードの走破性が高い4WD車は必須ですが、圧倒的に人気があるのは日本車です。使いやすく壊れにくい、という評価が定着しているんです。

池上たしかにそうですね。私たちも取材で、北部でも南部でも、日本の4WD車のお世話になりました。

宍戸スーダン国内で、日本人に会うことはめったにありませんが、日本車は圧倒的に人気が高く、たくさん走っています。ある上司がこんな冗談を飛ばしていました。アフリカで一番優秀な大使は、トヨタの4WD車、ランドクルーザーだ、と(笑)。
 自動車だけじゃありません。家電製品なども日本ブランドはたくさん流通しています。

池上スーダンから日本に輸出されているものは?

宍戸まずは石油。スーダンの油田は主に中国資本が開発しているのですが、日本にもずいぶんスーダン産の石油が入ってきています。それから、ゴマ。日本で食されるゴマの大半は、スーダンから輸入しているんですよ。
 スーダンは、日本にとって今も、そして将来を見据えると、もっと深い関係が築ける存在です。消費市場としても、資源の輸入元としても。スーダンの安定は、日本にとっても利害が一致するのです。

池上スーダンと日本がよりよい関係を結べるようになるために必要なものはなんでしょう?

宍戸継続的な協力だと思います。スーダンは、ダルフール紛争などで多くの国民が亡くなり、その結果、アメリカはテロ国家に指定して経済制裁を行い、長い間国際協力も止まっていました。スーダンの負の側面ですね。
 けれども、大半のスーダン人は、こうした紛争や国土の荒廃で被害をこうむった被害者です。国際社会がスーダンに対し、経済制裁を行ったり、援助を止めたりすると、最初に困窮するのは普通の市民です。
 今こそスーダンの困っている一般市民に手をさしのべるときです。
 9つの国と国境を接し、ナイル川流域の大半を占め、水資源や石油資源、鉱物資源にも恵まれているスーダンの国情が安定すれば、アフリカ大陸全体の平和と成長に大きく寄与するはずです。

池上そこで日本ができる国際協力の特徴とはなんでしょう?

宍戸スーダンに今必要なのは、彼らをすばやく救う援助とともに、中長期的な視点に立った「人づくり」を中心とした国際協力です。そのためには、現地に多くの専門家やボランティアが入り、現場主義で現地の人たちといっしょに、現状を変えていかねばなりません。
 それだけではありません。
 日本の戦後復興の話は、スーダンの人たちをとても勇気づけます。
 戦後、日本は何もかも失った状態から、先進国の仲間入りをした。資源もなければ、国土も狭い。それでも「人」を育てることで、ちゃんと成長できた。スーダンは国土も広いし、ナイル川を有しているし、石油だって豊富に出る。戦後の日本よりよっぽど恵まれている。だから、ちょっと頑張れば、かならず国は発展するはずだ、と。こう話すと、スーダンの人たちはとても元気になります。
 国際協力の現場で接するスーダンの人たちからの、日本からもっと学びたい、日本の経験を教えてほしい、という要望はとても大きいですね。