日本大使館の方が、
オリガミと漢字をスーダン人におしえる

池上スーダンを実際に取材して感じたのは、JICAを中心に、国連機関からNGO、ボランティアにいたるまで、さまざまな立場の人たちが、協力しながら援助を行っている、ということでした。

宍戸国連機関から我々のような各国の公的機関、そしてNGOやボランティアなど多様な人たちが、スーダンで国際協力活動に従事しており、さまざまな連携を行っています。
 なぜかというと、それだけスーダンの現状が劣悪で、解決しなければならない問題がたくさんあるからです。
 たとえば教育。南部スーダンの小学校の就学率は20〜30%と、世界でも最低水準です。小学校に通っている子供たちも、3分の2は校舎がなく、木の下で授業を受けています。その上紛争続きで、学校そのものがなくなってしまった地域も少なくありません。国民の健康状態も劣悪です。しかも国土が広い。人口800万人の南部スーダンだけでも日本の2倍の面積があります。
 スーダンのような国を早急に救うためには、さまざまな立場の機関が役割分担をしながら、協力体制を敷いて活動していく必要があります。JICAも、国連機関や日本のNGOなどと密に連絡をとり、成功も失敗もふくめて経験を共有しながら、国際協力を実施しています。現地の人たちとだけでなく、こうした援助機関同士の仲間意識もとても重要ですね。紛争が休止した、といっても、まだまだ決して安全な国とはいえませんし、ダルフールの紛争は今だに収まっていません。そんなところだからこそ、現地の人たちとも、援助機関同士でも、協力体制が重要なのです。

石油大国 農業大国 スーダンの未来を明るくするために

野菜市場は豊富な作物でいっぱい

池上スーダンは、紛争で疲弊した国であり、いわゆる開発途上国ではあるけれども、大変な発展の可能性を秘めた大国でもありますね。スーダンという国の将来について、お聞かせください。

宍戸スーダンは将来有望な国だと思います。たとえば資源、特に最近ですと中国資本で大々的に開発されている石油ばかりが目につきますけど、やはり一番大きいのは農業です。そもそもスーダンは「アラブのパンかご」と呼ばれるくらい、農業国として周囲から期待されているのです。

池上パンかご! それはすごい表現ですね。

宍戸スーダンは、南北を貫くナイル川がつくりあげた肥沃な土地を有しています。いくら広くても雨が少なく農業に不向きな国も多いアフリカで、豊富な水資源に恵まれている、というのはとてつもなく大きなアドバンテージだと思います。
 スーダンの人たちは、私たち日本人のように朝から晩まで働き続ける、ということをあまりしません。なぜですか、と聞いたところ、昼間はあまりに暑い、というのも理由のひとつとしてあったのですが、もうひとつはナイル川沿いでは農業がたやすく、食料も手に入りやすいから、あまりがつがつ仕事をしなくてもいい、という話を耳にしました。マンゴーの木陰でゆったり過ごしながら、みんなとお話をするのが楽しい、というのです。それだけ余裕がある、潜在的には豊かな国なのです。
 90年代以降、紛争問題が深刻化し、開発援助もストップしていたために、スーダン国内の農業はむしろ後退してしまいました。
 けれども最近になって、スーダン政府は、自分たちの国の支える柱は石油より農業だということに気づき始めました。北部でも稲作支援に大きな期待が寄せられていますし、南部のジュバ近郊でもJICAの専門家が現地農家の現場に張り付き、ゴマをはじめ、オクラ、トマト、スイカなどを栽培の支援を始めました。

池上農業の現場を取材させていただきましたが、まじめに取り組んでいましたね。

宍戸スーダンは基本的に勤勉でまじめな方が多いのです。北部の首都ハルツームのイブン・シーナ病院では、1983年に日本から寄贈された医療機器が今も現役で活躍していますが、それは病院に勤める医師やスタッフが、ちゃんとメンテナンスしながら大切に使ってくれたからです。彼らの勤勉振りを見るにつけ、スーダンは底力のある国だと、つくづく思います。日本が得意とする現場主義の国際協力を通じ、いっしょに仕事をしていくことで、スーダンの人たちに平和で豊かな国を築いてほしいですね。

池上日本から来て、こちらの人の生活ぶり、暮らしぶりを見ますと、日本人って働いて豊かになったけど、働き過ぎだなと思います。むしろ私たちが教えられる、学ぶところもずいぶんあるような気がしますね。

宍戸私はよく言うんですけれども、期限の決まった仕事を一緒にしなければ、スーダン人はとてもいい人だ、と(笑)。国際協力の現場である途上国で仕事をしていると、しばしば私たち日本人と時間の感覚や常識が異なることにとまどったり、いらだったりすることはあります。こちらも仕事ですから、締め切りもありますし、報告書も書かなければいけない。
 でも、いったん仕事を離れて、スーダンの人たちのゆったりした生活、あるいは家族や友達とか、友人を大事にする生活を見ていると、池上さんがおっしゃるように、ああ、人間として尊敬できるな、ある意味でうらやましいな、と思うこともたくさんあります。

「仕組みづくり」と「人づくり」 スーダンの現場に「経営感覚」を養おう

南部の首都ジュバ。ナイル川に日本の援助で設置した河川港施設
物流ビジネスをお金にできるようになるか

池上日本の国際協力において、これからのスーダンでの活動の目標は何でしょうか。

宍戸南北の紛争が終結したスーダンですが、ダルフール紛争など政治的なハードルはまだまだいくつもあります。2010年には総選挙がありますし、2011年には南北住民による住民投票があります。その投票で南北の住民が南部スーダンの独立、という選択肢を選べば、スーダンは2つの国に分かれます。
 考えるだけでも大変な政治的道のりを、スーダン国民は歩んでいかねばなりません。その間に、再び国情が不安になることは絶対に避けたい。日本政府も、2008年5月横浜で開催された第4回アフリカ開発会議(TICAD 4)において、4年間でアフリカに対する援助額を倍増していく、とコミットしています。
 でも、スーダンの政府関係者はよりスピーディーな援助を求めています。政治的なスケジュールを考えると当然ですね。総選挙や南部の独立を問う住民投票といった政治の節目を迎えるとなると、自分たちの利害をめぐってさまざまないざこざが起きるおそれは十分にあります。
 そこで紛争が起きないように、平和裏に政治の節目を迎え、新しい国づくりに国民が専念できるように、お手伝いするのが私たち先進国の援助機関の役割です。平和でよかった、紛争はもうごめんだ、とスーダンの人たちに思ってもらえるようにしなければなりません。

池上日本の国際協力は、南部のジュバでは農村地域のコミュニティの生計向上支援を行ったり、ナイル川上流の河川港の整備を行ったりする一方、北部のハルツームではイブン・シーナ病院のようにかつて援助した機関を継続的に維持管理したり、センナールでは母子保健プロジェクトを援助して助産師たちの育成プログラムを実施する、といった具合に実に多様な仕事をやっていますね。びっくりしました。

宍戸多くの分野を援助するのがいいかどうかについては、いろいろな意見があって、もう少し絞り込んで大きな事業に集中したほうがいいのではないか、という意見もあります。こればかりは簡単に答えが出る話ではないですね。
 ただ、日本の国際協力が得意とする仕事のやり方があります。
 それは、「仕組みづくり」と「人づくり」です。
 そして、このふたつは、スーダンがいま必要としていることでもあります。ですから、どの分野でも、ここに関しては積極的に力を注いでいきたいと思います。

池上「仕組みづくり」とは何ですか?

宍戸さきほどあげた、教育、保健、水、という社会のインフラ整備。これはハードをそろえるだけでは仕事になりません。さまざまな「仕組みづくり」が欠かせないのです。
 たとえば、教育、と聞くと、すぐに学校建設、と思われるでしょうが、建物だけでは学校も教育も成立しません。教員を養成する制度、授業のカリキュラム、テキスト、子供を学校に行かせるよう親の意識を変えることなど、さまざまな仕組みの整備が不可欠なのです。
 こうした「仕組みづくり」は、仕事内容は地味ですし、成果もすぐに目に見えるかたちでは出にくい。でもこれをやらないと、ただハコをつくっただけで終わってしまう。
 JICAが注力しているのは、たとえばこうした「仕組みづくり」のお手伝いですね。現場主義で、専門家を現地に派遣し、地元の人たちといっしょに仕事をする日本の援助スタイルがもっとも生かせる分野でもあります。
 こうした「仕組みづくり」を通して、地元の人たちを育てていく。次のリーダーとなるひとたちをつくっていく。これが私たちの仕事の重点分野である、と考えています。

池上なるほど、そこで「人づくり」につながるわけですね。

宍戸そうです。スーダンには今、世界各国からさまざまな援助機関が入ってきて、国の再生に力を貸しています。欧米の機関の得意とするのは、短期間でお金を投じ、成果を出す、というタイプの援助です。ただ、私自身は、やはりスーダンの人たちが自分たちの将来を自分たちで考えて、いい仕事をしていく人を自分たちで増やしていく、という自立的な国の再生プログラムをつくりあげていくこと大切だと思っています。
 援助の仕事はとてもデリケートで難しい。混迷状態の他人の国に入り込んで、その国の人々が望んでもない援助を勝手にやって自己満足だけで終わるケースも過去にはあったはずです。そうならないためには、現地の人たちが、自分たちのビジョンを持ち、そのビジョンを手助けするような援助を行い、最終的には現地の人たちが自立的に活動していくようにならなければなりません。そこまで現地の人たちをいざなえるかどうかが国際協力の仕事においては重要だと思いますね。

池上「人づくり」というと、いわゆる狭い意味での教育だと思いがちですが、本人たちが自立的に学び、主人公として活動するように、メンタルの面でも影響を与えることが重要なわけですね。

宍戸ええ。農村でのコミュニティづくりでも、いかに自分たちで知恵を使って農業をやっていこう、と人々の気持ちを切り替えられるか。あるいは河川港の整備でも、ただ設備を援助でつくってあげるだけでなく、港を積極的に利用されるようになれば、船から使用料を徴収でき、現金収入が手に入るようになる。それを国づくりの原資と生かせるようになるぞ、というところまで考えさせるようにする。

池上この場合の「人づくり」とは、現地の人たちの「経営感覚」を養う、ということでもありますね。

宍戸まさにそうなんです。ただし、この「経営感覚」というものを教えること自体がなかなか難しい。なぜならば、スーダンの一番大きな問題点は、組織を管理したり、運営したり、ものごとの計画を立てて、実行する、といった経験をほとんどの人たちが持っていない、ということなんです。でも、「経営感覚」を持ってもらわないと、いつまでたっても先進国の援助を受動的に待つだけになってしまい、さきほど申し上げたような自立的な国の再生というところまで、人々をいざなうのは夢のまた夢になってしまう。

池上どうすればいいんですか?

宍戸やはり、できることから一歩一歩、辛抱強く、現地の人たちと歩調を合わせながら改善していくしかないでしょう。小さな試みを成功させて、自信をつけてもらい、徐々に仕組みをつくって、発展させえていく。そんなプロセスをつくりあげていくのが私たちにできることだと考えています。

池上さまざまな分野の仕事も、一つ一つはこうしたプロセスの土台づくり、というわけですね。

宍戸そうです。とっても手間はかかりますが。

世界で今何が起きているの? 日本が今出来る事を見つけたい!! 世界で今起きているいろいろな問題、JICA現地スタッフや関係者からのコメント、取材を通してわかった国際貢献の現状。 詳しく見る