池上彰と考える!ビジネスパーソンの「国際貢献」入門 おコメがアフリカを救う!「食料の問題」ゲスト:ウガンダ在住 JICA専門家 坪井 達史 氏

池上すごいスピードでネリカ米の市場は広がっているんですね。実際にどのようにネリカ米を普及されたのですか?

ネリカ米用のため池

坪井私がウガンダに来るまで、同地では稲作に関する専門的な研究はまったく行われておらず、稲作のノウハウを持った人も皆無といえる状況でした。となるとまず必要なのは、稲作経験のある人を増やすこと。そこで、ウガンダ人の稲の専門家を育てることから始めました。すでに3人のウガンダ人の専門家が育っています。
 同時に農民に稲作のノウハウをどんどん教えていきました。こちらの研究所では、実際にさまざまな品種の稲を育てており、試験場の水田もあります。この試験場では、稲作を実地訓練形式で農民たちに覚えてもらいます。さらに、ウガンダ国内各地に出張し、現地で農業指導も行います。
 これまでにこちらの研究所でのネリカ米研修は、38回1050人の農民と農業普及員に対して行い、出張ネリカ農民研修は62回7200人に対して行いました。
 一方、私たち専門家は、どの土地が具体的に稲作に適しているか、調査に赴いて、ネリカ米の耕作地を選定していきました。
 ネリカ米は乾燥に強い、というのが大きな特徴ですが、それでも稲の一種ですから基本的にはある程度の降雨量が必要です。そこで、きめの細かい雨量調査や土壌調査などを行い、実際に稲作が可能な土地を選んでいったのです。

池上日本からの青年海外協力隊の方たちもずいぶんお手伝いをしているそうですね。

青年海外協力員の面々も農業研修を受ける

坪井そうです。私たち専門家だけではネリカの普及に関して人数的に限界があるので、青年海外協力隊の隊員の方たちに稲作の知識を習得してもらい、彼らが自分たちが派遣されている村の農民たちに稲作を教えていく、という活動も行ってきたのです。幸い、ウガンダは協力隊員数が100人前後と豊富なので、彼ら彼女らの存在は大きな戦力になります。
 ただし、日本からいらした青年海外協力隊の方たちも、稲作については素人です。そこで地元の農民同様、まず研修センターで研修を受けてもらう。ネリカ米の栽培の知識を実地訓練を交えて習得してもらったら、ネリカの種と雨量計を渡して、自分の赴任先の村で地元農民たちを巻き込み、ネリカ米栽培を始めてもらうわけです。農家の人たちはもちろん、子供たちも参加していますよ。
 もちろんすぐにはうまくいきません。みなさん失敗の連続です。雨量など天候にも米の出来は左右されますし。でも、協力隊の方々はみんな目を輝かせて、取り組んでくれます。やはり自分たちが苦労して育てた作物が収穫できる、というのはなにものにも代えがたい喜びですから。

池上アフリカの人たちにとって、お米はどんな存在ですか?

坪井ウガンダをふくめ、アフリカの多くの地域では、お米は依然として高価な穀物です。と言うのはお米の消費の約半分が輸入米なんです。また、食材としてはまだまだメジャーではないですし、なかなか手に入りません。貧しい地域の人にとってはかなりのごちそうです。
 だからこそ、米の生産が軌道に乗れば、稲作はアフリカにとって大きな福音となるはずなのです。アフリカが抱える最大の問題のひとつは食料事情ですが、まずそれが大幅に改善される。それだけではありません。もうひとつの大きな問題である経済成長の一助にもなるのです。お米は農家にとって大きな現金収入になるからです。
 ネリカ米の場合、収穫までの期間が従来のアフリカ稲に比べて短く、そのうえ単位面積あたりの収量は数倍になります。ネリカ米の普及は、アフリカの農民にとっても、国民にとっても、政府にとっても、食料自給の側面、経済成長の側面、両面において、大きな力になるはずです。

ウガンダの小売店でお米が売られていた

池上ネリカ米の普及で現金収入が確保できれば、医療にもお金を使えるし、母子保健にも気を使うことができる。子供の教育にもお金を割けるようになりますね。国レベルだけでなく、農村レベル、家庭レベルでも、食料事情を改善できるだけでなく、経済的側面、社会的側面でも、人々の生活水準を上げられるようになる、というわけですね。

坪井そうです。アフリカの農家の人たちにとって、ネリカ米の普及は、単なる農業支援のみならず、非常に広範な国際協力につながるのです。

池上坪井さんのお米普及のやり方で、ひとつなるほどなと思ったことがあります。坪井さんは、農家の人たちにまず種籾を1キロだけ渡して、それを育ててたくさんの籾が収穫できたら、その一部を周囲の人たちにおすそ分けして、稲作をする人たちを増やしてください、と教えていらっしゃるそうですね。

坪井ただで物をあげるのは、本当の国際協力になりません。自分たちで育てるんだ、自給自足するんだ、という気になってもらわないと農業は普及できません。お米の場合、1キロ分の種を植えれば、それが50キロの籾として収穫できます。私は農家の人たちに、「倍返しということで、最初に籾を1キロあげるから、たくさん収穫できたら2キロ返してください、といいたいところですが、その分を、近隣の人や親族の人に差し上げて、稲作を広めてください」と伝えてきました。おかげで、ネリカ米はここ数年でウガンダ国内で確実に広まっています。

いざ農業試験場へ ネリカ米の栽培をこの目で見よう

池上それでは、実際にこちらのセンターを案内していただきましょう。どのくらいの規模があるんですか?

ハウス内では、ネリカ米の細かな研究が続けられている

坪井この試験場は1947年に綿の試験場としてオープンしました。今では、綿のほかに、とうもろこし、キャサバ、さつまいも、バナナなどの試験を1000haの規模でやっています。稲については2004年に私が赴任してからはじめ、網室を利用した屋内試験と戸外の圃場試験を行っています。戸外には10000平方メートルの畑と田んぼがあります。ネリカ米については、現在陸稲18品種と、水稲60品種を栽培しております。常駐スタッフは、日本人が私をふくめて3人、ウガンダ人の研究者が6人です

池上立派な規模ですね。丘陵地一面が農業試験場で、その規模にびっくりしました。また、陸稲だけじゃなく、一部水稲の研究も行っているんですね。

坪井こちらを見てください。これが収穫前のネリカの陸稲品種です。稲穂を狙っている鳥が多いので、稲穂がつき始めたら、防鳥ネットは必須です。

池上立派な稲穂! アフリカで収穫前の稲を見るのはなんだか不思議な感じですね。

坪井ウガンダは雨季と乾季はあるものの、気温は1年を通して平均20度前半と安定していますので、いろいろな成長度合いのネリカ米を同時に育てられます。こちらのハウス内では、さまざまな段階のネリカを育てています。

ハウス内でのネリカ米栽培、さまざまな段階の苗が育つ

池上なるほど。熱帯高地ならではですね。芽が出たばかりのイネから、収穫間近の稲穂までが、同時に育てられる。農業試験場としてはうってつけですね。そういえば、センター内では、他の作物もずいぶん育てています。実際、坪井さんは、農民の方々に対しても、ネリカ米の他に、キャッサバやとうもろこし、さつまいもなど、他に主食となりうる作物を育てることを推奨しているとお聞きして、なぜネリカ米栽培用の土地として使わないのか、大変驚いたのですが、どうしてですか?

坪井リスクヘッジです。米は他の作物に比べて水がたくさん必要です。ネリカの陸稲種にしても、他の作物に比べたら水がいる。このため、どうしても降雨量によって収穫量に大きな差が出てしまいます。アフリカでは雨が安定してに降るわけではないので、違う作物も作っておかないと、いざというとき米が収穫できず、食べ物がなくなってしまう恐れがあるわけです。その点、ネリカが陸稲である、というのが功を奏します。畑ですとネリカ米以外の作物もローテーションで作ることができますから。

池上なるほど。それで試験場の畑では、さつまいも畑の間にネリカ米を植えるという混合農業を実践しているんですね。試験場では、ずいぶんたくさんのウガンダの方々が活動していますね。若い方たちも多く見ます。

坪井試験場では、品種試験の生育調査をしたり、病害虫の発生調査をしたり、土壌水分の測定をやったりしてもらっています。ウガンダの人々に日本の農業技術をちゃんと伝えたいですね。たとえば、こちらでは、段々畑をつくっています。アフリカでは通常、丘陵地の畑は斜面にそのまま作物を植えてしまいます。段々畑は整地するまでが大変ですが、いざそこで栽培を始めると、降雨を溜めることができ、土壌水分が高くなり作物の生育が良くなり収量の増加になります、また土壌流亡も押さえることができます。そこで、こちらでは段々畑と丘陵地にそのままつくった畑とを隣に並べて、どれほど違いが生じてくるのか、実際に作業を通じて体験してもらうのです。