池上彰と考える!ビジネスパーソンの「国際貢献」入門 おコメがアフリカを救う!「食料の問題」ゲスト:ウガンダ在住 JICA専門家 坪井 達史 氏

池上そのほかの目標は?

坪井今度新しい稲研究・研修センターができる予定がありまして、まずはその立ち上げに尽力したいと思っています。将来的にはウガンダでの経験を生かして、今度は私の経験やネリカ米栽培について少しでも日本人の若い人たちに伝えたいと思っています。

池上ここウガンダで、お米を育てているお話を聞くと、どうしても日本の今を思ってしまいます。日本はお米をいくらでも作れる環境であるにもかかわらず、減反政策を取っています。国がこれ以上お米を作ってはいけません、と言っている。ところがその一方で、食料自給率が40%しかない、と騒いでいます。なんだかとてもちぐはぐな議論をしているような気がするのですが。日本の状況をアフリカからご覧になってどう思いますか?

坪井そうですねぇ、やはり贅沢だなあ、と思ってしまいます。アフリカと日本とを比較するのはあまり意味がないのですが。もったいない、と思います。

池上最後に、坪井さんはアフリカの人たちにとって米がどんな存在になれば理想的だと考えていますか?

ウガンダ郊外の市場で、
米をはじめさまざまな作物が売られている

坪井私の夢は、例えば50年後、100年後にアフリカの家族が、夕食にお米のご飯を食べていて、おじいさんとおばあさんが「昔、お米のご飯はなかなか食べられなかったけれど、今こうしてお米の飯を食べることができるのは、日本人がお米の作り方を教えてくれたからなんだよ」と昔話をしてくれるようになることです。ウガンダの歴史の教科書で、稲作は日本が教えてくれたものである、と書かれるような成果が出ると嬉しいですね。
 たとえば、エイズの問題や教育については、日本以外の先進国も支援していますが、稲作については日本のお家芸と言えるでしょう。100年後のアフリカの主食になるのはネリカ米なんだ、というくらいの大きな目標、大きなビジョンを、私たち国際協力に従事する日本人は掲げたほうがいいのでは、と思います。

池上それは、壮大な目標だ(笑)。まさに坪井さんはアフリカの歴史に残る仕事をされているわけですね。

坪井自然相手の農業ですから、ものすごく時間はかかりますけどね(笑)

池上彰のまとめ

 「食料の問題」編では、ウガンダで活躍する「ミスターネリカ」坪井さんに、日本の稲作技術でアフリカに米を普及するお話を聞きました。
 稲作の普及は、単に食料問題を改善するだけではない。貴重なお米を生産することで、農民たちが現金収入を手にし、病院までのバス代を出せるようになったり、子供たちを学校に行かせられるようになる――。人間が生きていくうえでのインフラである「食」の問題を解決することは、あらゆる問題の解決につながることを、坪井さんに教わりました。
 坪井さんの言葉で特に印象深かったのは、「今すぐに評価されなくてもいい。50年後100年後、アフリカのおじいちゃんおばあちゃんが孫たちに、私たちがおいしいお米を食べられるのは、その昔日本の人たちが育て方を教えてくれたからだよ、という会話が生まれたら嬉しいよね」とおっしゃっていたことです。国際協力の本質を教わった気がいたします。
 ウガンダで感動したもうひとつの出来事は、日本人のボランティアの活躍ぶりです。電気も水道もないところで笑顔で働く青年海外協力隊の若者たちの姿はとても頼もしく見えました。また長年培った専門技術を生かし、途上国の発展に尽くしている私とあまり年の変わらぬシニアボランティアの堂々たる仕事ぶりも新鮮でした。
 坪井さんにしろ、青年海外協力隊にしろ、シニアボランティアにしろ、共通するのは日本人が遠く離れたウガンダの地で、現地の人たちとタッグを組んで「アフリカの未来」を一緒に創ろうとしている点です。だから彼らはアフリカの人たちに心の底から信頼されている、必要とされている。取材をしていてとても嬉しく感じました。日本から訪れた私も自分のことのように思えたからです。
 スーダンとウガンダを回って、59歳の私は、自分が小学校に上がる前のころを思い出しました。戦争が終わって10年しか経っていないあの当時の日本といろいろな状況がそっくりなのです。そんなところから出発した日本はここまで発展しました。けれどもその裏には海外の援助があったのです。アフリカを取材して、ああ今度は私たちが援助をする番なんだな、と思いました。戦後、日本の未来は他の先進国が後押ししでできた。ならば、アフリカの未来は、日本が後押ししよう。それが次の日本の未来につながるのだ――ウガンダでの稲作は、私にそんな思いを起こさせました。

池上彰の「食料の問題」を理解するための3つのポイント POINT01 「ネリカ米」の普及は、アフリカの食料自給問題と経済問題を同時に解決する可能性を秘めている POINT02 世界銀行、国連開発計画からアフリカ開発会議(TICAD)まで、世界がアフリカの米生産に注目している POINT03 アフリカでの稲作普及には、日本人のノウハウと熱意が欠かせない