池上彰と考える!ビジネスパーソンの「国際貢献」入門 すべての礎である「教育の問題」ゲスト:JICA 客員専門員(教育) 原 雅裕 氏

私が提案した「みんなの学校プロジェクト」は、住民が参加することによって学校運営を改善するというもので、ひとことで言えば「下からの改革」です。
 現場のニーズを無視してプロジェクトを実施しても根付きません。そこで、保護者、教員、住民が一体となって地域の学校を作っていく枠組みを提案したのです。みんなで学校の問題を考え、解決策を探り出し、自分たちでできることから少しずつ改善していこうというものです。

住民と学校、日本からの専門家を交え
学校づくりをみんなが考える

池上住民主導の組織を作ったわけですね。現地には、日本でいうPTAのようなものがもともとあったのですか?

私が活性化に取り組んだ組織は学校運営委員会といいますが、その組織ができる前からPTAのような保護者会は存在しました。ただ、住民と学校との間には心理的な距離がありました。学校は村の中の異物だったと言ってもいいでしょう。
 教員はろくな研修を受けていないので教え方がわからず、まともな授業ができません。待遇も悪いのでやる気もありません。住民からしてみれば、せっかく子供を学校に送っても、何も学んでこないという不満がつのります。校長が劣悪な学校の環境を改善しようと保護者会に援助を求めても、学校に不信感を持っている住民からはろくな援助をもらえません。

池上当初は、村と学校がバラバラだったんですね。学校施設、教科書、カリキュラム、教員の数と質など、教育のインフラ自体が不足しているなかで、どのようにみんなをまとめていったのでしょう?

まずは話し合う場を作り出し、次に、その話し合う場を維持するための透明性の高い組織を作っていきました。先にお話ししたとおり、保護者会自体はあったのですが、それがきちんと機能していなかった。なぜ機能しないかというと、組織の構成が固定化していたのが大きな原因です。具体的に言うと、村の長老や有力者が自動的に保護者会の役員になっていたケースが多かったのです。彼らはそれぞれの委員に求められる資質を持ち合わせていなかったり、やる気がなかったりして、組織を十分に動かすことができませんでした。
 こうした問題を排除するため、選挙制度を導入しました。村の教育に興味ある人はすべて選挙に参加できるようにして、風通しのよい組織を作り、やる気のある委員を選出しました。その組織を中心として、住民が学校改善のための計画を作り、その計画を自分たちで実現するよう促していきました。

池上地域のみんなで委員を選出したわけですね。選ばれた委員はどのような活動を行ったのですか?

ワラぶき教室と子供たち

まず住民総会で学校教育を巡るさまざまな課題を自由に出してもらい、次に解決法が出るまで話し合い、委員がその解決法を自分たちで実行可能な計画に落としこんでいきます。さらに、もう一度、住民総会を開き、計画の承認を得てから、計画の実施を促進し、最後に実行した計画を自分たちで評価します。
 このサイクルを通して、さまざまな活動が自発的に起こってきました。例えば、教室を新設しようというとき、コンクリート製の建物は費用がかかりすぎる。かといって自分たちで作るのは無理です。けれども、藁葺きの教室なら自分たちで作れます。同じように、井戸を掘り、トイレを作り、お金を出し合って教科書を買ったりするなど、自分たちのできる範囲で、学校の改善を住民たちが始めたのです。また、計画づくり、実施の過程で、みんなで話し合う機会が多くなることで、教員の置かれている立場に対する住民の理解が生まれました。

池上教員の質が低く、働かないのは、待遇が悪いから、きちんと養成を受けていないからだ、ということがわかると、「先生も大変なんだ。じゃあみんなで支援しよう」という動きも出てきそうですね。

その通りです。住民は食料を提供するというかたちで教員を支え、教員はそれに応えてよりよい学校教育を行う、という良い循環が生まれました。もともと助け合いの精神はあるので、お互いの溝が埋まれば大きな力になります。このように、学校と住民との心理的な距離がなくなることによって、住民は子供をより積極的に学校に送り出すようになったのです。

みんなの学校プロジェクト
日本の戦後と途上国の今はそっくり 重要な「校長の役割」と「住民の協調」

池上地域の力によって学校が活性化したということですね。
 今のお話を聞いていると、日本の戦後とちょっと似ている気がします。アメリカの勧告で設置された教育委員会は住民が委員を選ぶ公選制でした。そのころは、日本でも地域のみんながすごく教育に熱心だったのに、選挙がなくなり自治体の長や有力者が選ぶ仕組みなったとたんに関心が失われ、自分の子供が学校に行く時だけ教育問題を考えるようになりました。
 そのため、日本でも地域の教育力はどんどん落ちていったのです。これらの問題を改善しようと、ここ数年、文部科学省が地域の人たちで学校を応援する仕組みを推進しています。民間出身の藤原和博氏を校長に迎えて大規模な学校改革を実施、地域との結びつきも強めた東京・杉並区の和田中学校などは良い例だと思います。

学校と地域コミュニティーの距離を縮めさえすれば直ちに問題が解決するというわけではありませんが、確実に改善していくとは言えるでしょう。

お母さんたちも学校づくりに参加します

池上現在、日本での学校改革は和田中以外にもいたるところで行われていますが、成功するか否かは校長の力量次第。地域への呼びかけなど組織能力が問われます。そのあたりをうまく実行できない校長の下では順調に行かないようです。

ニジェールでも校長はキーパーソンです。最初に校長研修を行い、シミュレーションを通して何をすべきか具体的に学んでもらいます。ただし、校長の能力に力点を置きすぎると、住民の協調が得られず失敗するケースが多くなってくるので要注意です。
 これはニジェールでも日本でも同じだと思いますが、活動する人たちが、本当に地域の住民を代表していることが大切なのです。

成果を見せることが大事 目に見えることで自信が生まれる

池上プロジェクトを導入する時、住民がその利点を自覚できないと、なかなか浸透しないと思います。なにか工夫はなさったのでしょうか?

一つは事前の研修です。校長のほか、2名の学校運営委員にも研修を行い、彼らがさらに周囲に広げていくという仕組みにしました。話し合いの場では、まっとうな意見を言う人もいれば、とんでもないことを言い出す人もいる。そのような状況を具体的に設定してロールプレイングを行います。話し合いで住民と学校の関係が良くなることを、シミュレーションを通して体験していくのです。
 もう一つは成果を見せることです。「みんなの学校プロジェクト」は、まずは短期成果がいくつも出て、それを組み合わせることで長期成果が出るような戦略を組んでいました。ここでいう短期成果というのは、学校の塀ができたり、仮設教室が徐々に出来上がっていったりする様子のことです。成果が非常に見えやすいのです。

池上人は、目先に何か一つでも成果がないとやる気を失いますが、目に見える成果があると、やる気も出やすくなりますよね。

成果を実際に目にすれば、自信につながります。その自信がさらに新しい活動に向かわせるのです。

住民、学校、そして子供達が一緒に
学校をつくる輪がアフリカの大地に広がっていく

池上住民からの支援を受けた先生は頑張って教えるようになるでしょうから、長期的には、学校が教育の場としてきちんと機能していくことになりますね。

さまざまな相乗効果が起こり、地域、村としてまとまった学校となっていく。今度はそれを見た周辺の村々が「われわれも何とかしなければ」と思い始めます。そのような要望がスパイラル式にどんどん増え、プロジェクトも広がっていきました。
 一つひとつの学校の変化は小さくても、プロジェクトの対象校が増えていくと、州レベルでの就学率の改善や成績の改善に結びつきます。するとニジェール政府も注目するようになり、この枠組みをモデルケースにして全国に普及させることになったのです。

池上プロジェクトを始めてから軌道に乗るまでは、どのような道のりでしたか?

現場に降り立ってから全国に普及するまで3年です。最初の3カ月で20校に導入し、1年後には450校、2年目で1300校、3年目には2800校にまで増えました。

池上3年で100倍以上とはすごいですね。

20校からある程度の規模まで広げていくのは、プロジェクトの枠組みとして最初から考えられています。しかし大規模に普及するためには、行政の力が必要となります。そこで政府の人を現場に連れて行き、現地の人と話をしてもらうことにしました。
 政策を作る人や援助ドナーは、現場のニーズを知らないことがしばしばあります。
 途上国の教育開発というと「まずは教育の大切さを説くこと」から始めなければいけないと思うかもしれませんが、実はニジェールでは、教育に対するニーズはすでに非常に高かったのです。
 ニジェールの人々は高等教育を受ければ高給取りになることができる時代も見ていますし、字が読めなかったり、学問がなかったりすることで、騙されたり、まともな職業に就けなかったりすることを実体験から知っています。そういうことの積み重ねから、「教育は大切だ」と考える雰囲気はありました。
 ただ、「学校に行かせたいけれど、現状の学校に失望していた」のです。政府や援助ドナーには、そこに現地のニーズがあることを理解してもらうようにしました。

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