池上彰と考える!ビジネスパーソンの「国際貢献」入門 国際協力から自立への道へ「経済の問題」ゲスト:JICA 客員専門員 宮司 正毅 氏

 途上国の「経済」をどうやったら発展させることができるのか? これは国づくりの中でもっとも難しい問題のひとつかもしれません。
 途上国では、何よりもまずそこに住む人々が“生きる”ために、さまざまな社会インフラの整備が欠かせません。水のインフラ、食のインフラ、医療のインフラ、教育のインフラ……。国際協力は、まさにこうした社会インフラの整備を支援することであり、本連載ではその現場で奮闘してきた専門家の方々にお話をうかがってきました。
 ただし、途上国が真の意味で自立するには、「経済」面での自立が欠かせないのは自明です。そして、多くの途上国が、経済的自立の壁にぶつかっています。経済の問題は難しい。日本を含む先進国ですら、自国の経済の安定に四苦八苦しているくらいです。ましてや途上国に、これから先、経済的自立の道は開かれているのでしょうか?
 可能性は十分あります。なぜならば、途上国は先進国と異なり、経済分野においては、まだ「未開拓」だからです。生産地としても、消費地としても、秘めた力を持っているのです。
 途上国の経済面での潜在能力をどうやったら引き出せるのか。経済面での国際協力は、その答えを見つけることにあります。途上国の経済的自立を促すもっとも理想的な国際協力とはどんなものでしょう?
 JICA客員専門員であり、長年商社マンとしてアフリカでのビジネスに関わってきた、ビジネスの専門家、宮司正毅さんに伺います。

宮司正毅 氏

1943年福岡県生まれ。65年三菱商事株式会社に入社。南アフリカ・ヨハネスブルグ支店長、欧州三菱商事会社社長、本社常務執行役員などを経て、2004年より三菱商事顧問。国連の「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」支援委員会メンバー、南アフリカ、タンザニア、ナイジェリア、ガーナ各国の大統領投資諮問委員会メンバーなどを務める。07年よりJICA客員専門員を務める。

アフリカの「自立志向」は資源高騰と意識変化がきっかけ 90年代に日本の大きな協力が

池上宮司さんは現在、JICA客員専門員のほか、在北海道南アフリカ共和国名誉領事としてもご活躍ですが、もともとアフリカとの関わりは、商社マンとしてなんですね?

南アフリカのICCメンバーと記念撮影
上段左から2人目が宮司氏、下段中央がムベキ元大統領
※ICC=international Investment Council
(大統領投資諮問委員会)

宮司ええ。1965年に三菱商事に入社し、04年に常務執行役員を退任するまでに、鉱物資源担当(マンガン・クロム・鉄鉱石等)、ヨハネスブルグ支店長、業務部長、国際戦略研究所長、欧州支社長などを務めましたが、アフリカがもっとも深く、長く関わってきた場所でした。通算で12年間余、アフリカ大陸で暮らし、アフリカの人たちとビジネスをしてきました。

池上筋金入りのアフリカ通でいらっしゃいますね。そのご経験から、アフリカの国々が、どうやったら経済的に自立できるか、それに対して先進国がどう関わっていけるのかをぜひお聞かせください。かつてウォルト・ロストウが唱えた「経済発展段階説」にある言葉を引用すると、アフリカ各国のような途上国の経済が「テイクオフ=離陸」するためには、まず、どうしたらいいのでしょうか?

宮司途上国自身が、「経済的にも自立したい」という意識を持つことです。2000年頃まで、アフリカ各国の多くは、先進国に対して「無条件に援助してください」という姿勢でした。それが最近では「どうか投資してください」と変わってきています。

池上21世紀に入ってアフリカ各国に「自立志向」が生まれたわけですね。なぜ、そういった変化がおきたんでしょう。

宮司理由は二つあると思います。ひとつは、アフリカの国の主体性と自助努力を目指すNEPAD(New Partnership for Africa's Development;アフリカ開発のための新パートナーシップ )の誕生です。このNEPADの設立には、日本政府も大きな貢献をしているのです。もうひとつの要因は、資源が高騰したことです。アフリカ大陸には多くの鉱物・エネルギー資源があり、それら資源の高騰により、アフリカ大陸は2003年以降平均で年6%以上の経済成長を始めたのです。プラスの経済成長を経験することで更にNEPADの自立の意識が高まったと言えます。

池上NEPADとは01年に採択されたアフリカ開発のための仕組みですね。これに日本政府がどのように関わっているのでしょうか。

宮司NEPADが生まれたきっかけは、00年7月の第26回主要国首脳会議(通称/九州・沖縄サミット)です。南アフリカのムベキ大統領、ナイジェリアのオバサンジョ大統領、アルジェリアのブーテフリカ大統領の3人のアフリカの大統領が、初めてG7サミットに参加しました。3人の招待には、直前まで反対する国がありましたが、日本政府の強いイニシアティブで実現したのです。彼らは、ここで初めてアフリカは自立すべきだとの認識を確認し合い、それがNEPAD設立のスタートとなるのです。

池上日本がアフリカ各国の自立の意志を固める場となったのですね。いつごろから日本政府は、アフリカの問題に取り組んでいるのでしょうか。

宮司アフリカ諸国に対する援助という観点では、独立直後から日本は支援を続けてきました。ただし、アフリカの開発支援について政府として包括的な方針を打ち出したのは、まだ欧米諸国がアフリカにさほど注力していなかった90年代前半に、第一回目のTICAD(アフリカ開発会議)を開催した時と言えるのではないでしょうか。

池上80年代終わりに東西冷戦が終わり、「ポスト冷戦」と呼ばれ、主に東ヨーロッパで民族問題が多発し始めた時代ですね。欧米の関心はそちらに向いていた……。

宮司そうです。日本政府は1993年に、初めてのTICADを東京で開催しています。TICADはその後5年毎に開催しており、直近では2008年に横浜で開催されました。このTICADは、日本政府がアフリカ各国と一堂に会し直接対話できる場として、ある意味で、日本のアフリカ経済発展への貢献のスタートと言えるのではないでしょうか。1993年と言えば「東アジアの奇跡」と題する世銀のポリシー・リサーチ・レポートが発刊され、東アジアの経済発展が注目された時でもありました。アフリカ諸国が次々と独立した60年代にはアフリカよりも発展が遅れていたアジア諸国が、「たった30年間で奇跡的発展を遂げたのはなぜか」というアフリカ諸国の疑問をTICADでの対話を通じ紐解いていこうと日本政府は考えたのではないでしょうか。

植民地問題と奴隷問題が自立を妨げてきた アフリカと無縁だった日本だからできる「投資」とは

池上アフリカと日本とでは、地理的にも文化的にも距離が遠い。アフリカから見ると、日本はどんな国なんでしょう?

宮司たいへん期待をされている存在です。なぜならば日本は、植民地問題や奴隷問題とは無縁の先進国であり、愚痴を聞いてくれる兄貴分であり、かつ、お手本としたいアジアの経済発展は日本経済の恩恵を大きく受けていることをアフリカ諸国のトップの人たちは知っているからです。

池上アフリカの多くの国は、欧州各国の植民地でした。また、米国はアフリカの人々を奴隷として連れ出した歴史がある。かつてさんざん搾取されていたのだから、旧宗主国たる欧州や米国からは援助を受けて当然という考え方が、独立当初のアフリカ各国にはあったということでしょうか?

モザール社アルミ製錬所の近隣住民の生活。
母親が伝統的な手法でトウモロコシをすり潰し主食にする

宮司その通りです。逆にいうと、欧米諸国への被害者意識が皮肉にもアフリカの真の自立を拒んでいた面があります。アフリカの多くの国は、1960年代に欧州から独立しましたが、多くの国は自発的な独立ではなく、あくまで欧州の都合で独立させられたと言えるわけです。国境を引いたのも欧州であり、経済的自立を求められても無理との意識がアフリカ側にはあって、一方で宗主国もかつての植民地感覚から抜け出せなかったということではないでしょうか。それが、ここへきて自立しようという精神構造が生まれた。これは大きな転機です。

池上宮司さんは先ほどから『欧米』とおっしゃっていますが、アフリカの真の自立を妨げてきた先進国には、米国も含まれますか?

宮司世界銀行のトップは米国人であり、そしてIMF(国際通貨基金)のトップは常に欧州人であり、加えて米国財務省のアフリカ政策が、結果として、アフリカの経済成長の阻害要因となっていた部分が少なくないからです。アフリカの食糧問題がいい例ですね。いかにアメリカの穀物を多く売るかを優先させた結果、アフリカの農地は付加価値の高いコーヒーやカカオのような商業作物に転換させられ、自国に必要な穀物栽培が後回しになったケースもあり、結果として自立的成長が妨げられてきたのです。

池上アフリカへの援助が結果として自立を妨げる原因には、欧米先進国のうしろめたさもあったのではないですか?

宮司それもありますね。2015年までに世界から極度の貧困を無くすというビジョンを掲げている国連のミレニアム・ディベロップメント・ゴール(MDGs)では、その目的を達成するための戦略を策定するプロジェクト(国連ミレニアムプロジェクト)を立ち上げました。経済学者であり、このプロジェクトのディレクターを務めたジェフリー・サックス氏は盛んに「世界の貧困をなくすにはこれだけのお金が必要。さあ先進国さん、途上国への援助金をどれだけ増やせますか?GDPの何%までお願いします」と問いかけています。活動そのものは世界の目を貧困削減に向かせるプロパガンダとしては良いのですが、援助ばかりをして援助浸けにしたら、アフリカはいつまでたっても持続的な経済発展が図れませんし、真の自立はできないのです。

池上では、先進国は何をすべきでしょう。

宮司経済的に途上国が自立するための支援、お手伝いだと思います。橋をかけたり学校、病院を作る等、社会インフラ整備のための援助は人間の安全保障(※1)の観点から見てとても重要ですし、今後も続けていかねばなりません。しかしながら、一部のそうした社会インフラの整備の段階を卒業しつつある国に対しては、経済活性化のための支援、お手伝いに転換していくべきと思います。

※1「人間の安全保障」とは?
緒方貞子(現JICA理事長)、アマルティア・セン(現ハーバード大学教授)を共同議長とする「人間の安全保障委員会(注1)」が作成した最終報告書(2003年)Human Security Now (邦題 「安全保障の今日的課題」)では、「人間の安全保障」を「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること」と定義しています。(より詳しくはこちら

今日、国家による安全保障のみにより個々の人間の安全を守ることは困難になっています。紛争、地球温暖化、武器や薬物の拡散、感染症の拡大、これらの問題は国家の枠組みを容易に超え、人々の生命や生活を脅かしています。こうした現象から、ひとりひとりのいのちの尊厳や生活を守るために必要と考えられるのが「人間の安全保障」という概念です。中心に捉えるのは「人間」であり、人々が着実に力をつけ自立することを重視する考え方です。

(注1)人間の安全保障委員会:2000年の国連ミレニアムサミットにおける日本の呼びかけに応じ、2001年 1月に緒方貞子国連難民高等弁務官とアマルティア・セン・ケンブリッジ大学トリニティーカレッジ学長を共同議長として設立された。同委員会は国連・各国政府からは独立した委員会だが、その事業はUNHCRや国連開発計画、ロックフェラー財団等との密接な連携の下で進められた。

池上経済活性化のためのお手伝いとは、具体的にはどんなことですか?

宮司いわゆる「援助」だけではなく、「投資」や「融資」を通じてのプロジェクト形成、あるいは、ビジネス形成です。その国のプロジェクトやビジネスに対して、先進国の政府と企業が連携して投融資をし、経済発展に寄与する。そんな関係が、途上国の経済的発展と自立を促すのです。また、JICAのような開発援助機関は、民間企業が投資、あるいはプロジェクト形成をしやすくなるような援助の役割を担ってゆく必要があります。

池上なるほど。ただ、途上国のプロジェクトに参加したり、ビジネスを展開しようとなると、企業としては税制優遇措置などが整っているかどうかも気になるところです。

宮司もちろん途上国の大半は、税制を含めて社会の仕組み自体がまだ整っていません。ですから、こうした仕組み作りから一緒に始め、環境を整えながら、経済面での投資を行っていく、というプロセスが企業にとっても必要です。途上国政府の貿易投資制度の整備はJICAも取り組んでいることですから、途上国政府への働きかけはJICAと一緒に行うという手もあります。とはいえ、国家レベルで行うような仕組みの整備を待っていては、何年かかるか分かりません。では、どうすればいいのか。むしろ一つのプロジェクトを実現に結びつけるための仕組みづくりを求めることです。途上国政府に対し、優遇税制、為替管理、インセンティブ、等々、そのプロジェクトのための仕組みを作らせ、プロジェクトを実現可能にすることです。

池上プロジェクト単位で仕事をする、というのが、企業が途上国の経済的自立にかかわる場合のキーポイントですね。

宮司はい。私がモザンビークでプロジェクトを始めたときもそうでした。まずはひとつのプロジェクトに対して、税制、為替管理、インセンティブ等の政府の約束を取り付けました。すなわち、そのプロジェクトに対する政府の支援を取り付けることで、プロジェクトを実現可能なものにし、逆にそれが途上国側にとっても、その後の国の仕組み作りの勉強になるのです。

池上それはかつて中国で障ナ小平が進めた改革開放路線に似ていますね。まずは特区に外資を入れて、そこで中国が経済の勉強をした。

内戦終結後、急速な経済成長を遂げた
モザンビークの首都マプト

宮司そうです。中国は特区で学んだことを上海、北京と展開していきました。最初に限られたエリアや規模のプロジェクトに取り組むこと。一つがうまくいけば、その周辺には関連企業ができ、周辺産業が生まれます。この循環と成長が、国全体の経済活動を活性化します。ちなみに、特区を成功させるには、その特区にコアとなる大きな企業を誘致することがポイントとなります。

池上日本での工場誘致と同じですね。大企業の工場ができれば部品工場が近くにでき、周辺産業が潤う。人口が増えるから、小売業やサービス業、はたまた教育施設にも波及効果がある。

宮司その通りです。小規模な事業をただよせ集めても、効果はなかなか得られません。たとえば、ガーナは特区はつくったものの、海外の大企業を誘致できず、中々うまくいきませんでした。

池上なぜ誘致できなかったのですか?

宮司ガーナならではの魅力を海外企業に訴えきれなかったからではないでしょうか。「我が国にはこんな魅力があります。だから来てください」というアピールがちゃんとできず、また、プロジェクトを可能にする柔軟性のある条件を提示できず、ただひたすら「来てください」と繰り返しただけだったのではないでしょうか。これでは収益リスクをとらねばならない企業はやってきません。

池上では、宮司さんの手がけたプロジェクトの成功事例を教えてください。

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