池上彰と考える!ビジネスパーソンの「国際貢献」入門 国際協力から自立への道へ「経済の問題」ゲスト:JICA 客員専門員 宮司 正毅 氏

宮司そうやって働く中で感じたのは、会社やプロジェクトを動かすのは、具体的な個々の顔の見える人間だということです。よく「人脈が大切」といいますが、途上国のビジネスでは、どんな人を知っているかですべてが変わります。

池上では、途上国とのプロジェクトで成否を決める「人」の問題は、具体的にどんな点に気をつければいいのでしょうか?

宮司まず、基本は現地の優秀な人材を取り込み、的確な情報を入手し、そして仕事を任せることです。失敗は、たいてい日本人が必要以上に自分たちだけでやろうとする場合ですから。次に、現地にいいパートナーを見つけることです。南アフリカ滞在中は、デクラーク大統領の学生時代の親友、それから、先ほどお話ししたジェンコールの元役員で、大統領府の経済顧問経験者に会社のアドバイザーをお願いしていました。大統領に会うのは、通常、結構難しいのですが、その親友のおかげでずいぶんと助かりました。

池上ほかにコミュニケーションで気をつけていたことはありますか。

宮司重要なのは交渉相手とのアイコンタクトです。眼を見て何度も話すうちに、信頼に値する相手なのか、そうでないのかがわかります。モザンビークでの事業を決めたのも、何度もモザンビークの大統領や他の閣僚、役人と会って、眼を見て話しているうちに、この人なら大丈夫という確信を得られたからです。もちろん逆に、何度も会っているうちに「これはダメだ」と思ったことも他の国でありました。
 これは余談ですが、国際ビジネスを展開していると正規ルートではない情報源の獲得が成否を分ける。国ごとの情報機関の能力が問われるんですね。英国の場合は、007映画でも有名なMI6(イギリス情報局秘密情報部)のOBが主体で作った会社があり、彼らが世界中に待機していて、情報収集に当たっています。日本の総合商社のネットワークもばかにしたものではないのですが、彼らの濃密なネットワークには舌を巻くばかりです。

池上アフリカでのビジネスは、やはりリスクが大きいと思います。進めるにあたって、社内の調整はどうされたのですか?

宮司アフリカ進出のプロジェクトを社内に提案しても、ほとんどの場合、NO(ノー)という判断が下ります。アフリカには電力や物流の基礎インフラが欠けているし、労働力も未成熟だから、というのがその理由です。例えばアフリカ人の労働力は中国人と比べると4分の1に換算しなければという企業人もいます。つまり、中国人労働者なら1000人雇用すればいいところを、アフリカでは4000人確保しなくてはならないということです。そうなるとどうしてもコストが上がってしまいます。このような、フィジビリティスタディ(FS:実現可能性の検討)をすると、アフリカのプロジェクトにはたいがいゴーサインは出ません。

池上それでも、宮司さんは、現役商社マン時代に7つものアフリカでのプロジェクトを立ち上げました。どうやって社内を説得したんですか?

宮司プロジェクトを進めるときに考えるべきは、いかにそのプロジェクトをフィージブル(実現可能)にするかです。FSの結果に頼るのではなく、まず「このプロジェクトを絶対に実現する」と決めて、その上であらゆる手をつくしていく。コスト割れしそうなら、優遇税制や輸出しやすくなる仕組みを作ってもらう、または従業員のトレーニング費用を負担してもらう等、現地政府と交渉し、製造コストの低減を図り、プロジェクトをフィージブルにする努力が求められます。また、JICAは途上国の開発に資する民間企業の海外での活動を支援するために、企業活動の周辺の電気や水道、道路などのインフラ整備や産業人材の育成、途上国の投資関連法制度整備などのビジネス環境整備にも取り組んでいますから、JICAにインフラの整備について相談するのもいい。あらゆる手を使ってフィージブルにしていく。FSの結果、うまくいくかどうかを見極める、という発想では、絶対に実現できません。

発想を変えれば、途上国は未開拓の巨大な市場 BOPに世界の未来はある?

池上近年、BOP(ボトム オブ ピラミッド)という言葉を聞きます。1人あたりの年間所得が3000ドル以下の途上国に住む40億人の人たちのことです。これまで援助対象でしかなかったこの層が実は新しい市場となる、というのですが、宮司さんはどう思われますか?

宮司まさにその通りです。彼らが経済発展すれば世の中は大きく変わります。貧困層の多さは、ポテンシャルの多さでもあります。この人たちが経済に本格参加してきたら、世界は大きく変わります。JICAでも、企業のBOPビジネス(※2)を促進するためにJICAが何を出来るか、検討を進めているところです。

※2 BOP(ボトム・オブ・ピラミッド)ビジネスとは?
ミシガン大学ビジネススクールのC.K.プラハラード教授が1997年に提唱。経済のピラミッドの最下層に位置づけられる貧困層は援助の対象ではなく、消費者であり、ビジネスを通じて所得や生活環境を向上させるべきだとした。どこまでを貧困層ととらえるか明確な基準はないが、世界資源研究所と国際金融公社は1人当たりの年間所得が購買力平価ベースで3000ドル以下の世帯と定義。対象は約40億人で、市場規模は5兆ドルと試算する。収益性と社会貢献が両立できるビジネスモデルとして、CSR(企業の社会的責任)の意識が高い欧米企業を中心に取り組みが広まりつつある。
引用:日経ビジネス 2009.12.21・28合併号 「特集 BRICsではもう遅い」より

池上日中の国交を正常化したときの田中角栄の話を思い出します。彼は「中国で一人に一本タオルを売れば、10億本売れる」と言った。同様にアフリカは巨大な市場でもあるんですね。

宮司そうです。アフリカでは現に、53の国のうち、20近くが経済的なテイクオフの段階に来ています。ただし、定量的な話になると、日本の公的機関の反応はまだ鈍い。モザール社設立に関しても、第一ステージでは資金調達先は外国の開発公社や銀行ばかりだったのです。日本の民間企業の反応と言えば、リスクを伴うだけに更に鈍いのが現実です。
 ただし、日本にもチャンスがあります。JBIC(国際協力銀行)の海外経済協力部門は、2008年にJICAと統合しました。アフリカにはJICAがもともと行ってきた人間の安全保障の実現を目指した貢献が必要な国はまだまだたくさんあります。当然、そこへはまだまだ、人道的な援助が必要です。しかし、経済的なテイクオフ前夜にある国にとっては、これまでJBICがアジアや南米で担ってきたような経済面での投資が欠かせません。社会インフラの整備から経済インフラの整備による経済的自立支援を一括してできる体制をJICAが持ったことは非常に心強い。

池上統合後のJICAは、人道的な援助も、経済的な投資も、スムーズに対応できるようなったわけですね。

宮司そうです。かつては、医療や教育など人づくりの支援はJICA、投資や融資はJBICと縦割りになっていましたが、これが一緒になったのは大きな意味があると思います。アフリカの経済的自立を支援することにつながると信じています。

池上改めて途上国の経済的自立を支援する上で、日本が求められていることは何でしょう。どんな投資をしていけばいいのでしょう。

宮司日本は大変な期待をされています。それにはかつての宗主国ではないということもありますが、アジアの成長の原動力となった実績があるからです。しかしだからといって、日本がアジアに対して行ってきたことと同じことをしていては、アフリカの経済的自立は達成できません。

池上なぜですか。

宮司1993年に世界銀行が「東アジアの奇跡(※3)」という報告書を書いています。30年前の時点では、アジア全体のGDPは、アフリカのそれより低かった。それなのになぜ成長できたのかを分析した報告書です。そこには、3つの理由が示されています。ひとつは、「優れた物的・人的資本によりもたらされた」。これはつまり、物的資本と言う点では民間国内投資が成長の原動力の役割を果たし、更に高い国内貯蓄が高水準の投資を支えたというものです。また、人的資本という点では、他の途上国よりも高い教育水準であったことが、初等教育の普及をもたらし、中等教育への広範なアクセスを可能にしたというものです。

※3「東アジアの奇跡」とは?
『東アジアの奇跡―経済成長と政府の役割』(EAST ASIA MIRACLE:Economic Growth and Public Policy 、A World Bank Research Report)は、1993年に世界銀行が発表したレポートです。このレポートでは、1965年から1990年代にかけて東南アジアを含む、東アジアの国々が急速な経済成長を遂げた現象が分析されています。

池上アフリカでも今、これは少しずつ進んでいますね。

宮司その通りです。報告書の二つ目には、「政府の選択的介入が成長に寄与した」と書かれています。選択的介入とは、(1)市場を機能させるための諸問題に政府が取り組んだこと、(2)介入が適切かつ基礎的制作の範囲内で行われたこと、(3)介入の適正基準を策定し、それをモニターする政府の能力に依拠していたこと、を意味します。いわゆる、成長をもたらしら制度基盤が重視されている。実はこれらはすべて、日本が戦後の復興の中で、自国でやってきたことと同じなのです。そして三つ目は、「日本のおかげ」です。

池上え、実際にそう書いてあるんですか?

宮司いえ、これは私なりの翻訳で、実際は「円高と米国による日本からの輸入規制」と書いてあります。つまり、日本の製造業の生き残り戦略でもあった、製造ポイントの東アジアへのシフトによって、東アジア諸国が国際市場に参入するための稀有の機会を得た、というわけです。いうなれば、日本政府の援助と民間企業のニーズが自然発生的に相乗効果を生み、東アジア地域での経済発展を後押しした特異なケースと言えます。

池上なるほど。日本にとっては産業の空洞化に繋がるのですが、一方でそれがアジアの成長を促したわけですね。

宮司そうです。日本は、日本の都合で近いアジアに目を向け、アジアを発展させました。ところがアフリカに対しては、そのような自己都合がないんです。ではアフリカの場合、となると、欧米がその役割を果たすことになるはずですが、すでに記したように、植民地と宗主国の長い関係があったせいもあり、その遺伝子ともいえるものが残っていて、すぐに対等のパートナーにはなりにくい状況なのです。ゆえに、アジアと同じ道筋をアフリカがたどることは考えにくいのです。

池上では、アフリカ発展のカギを握っている国は?

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