こんにちは、池上彰です。
テレビや新聞では、アジアやアフリカなど途上国の貧困問題や食料問題やさまざまな紛争について日々報道されています。またこうした途上国に、日本の公的機関やNGO、ボランティアの方々が赴き、国際協力の現場で毎日奮闘しています。
ただし、普段日本で生活していて、途上国が抱えるさまざまな問題について思いをめぐらせる機会というのは、なかなかありません。
日本という国自体が、長引く不況で、企業も個人も疲弊しています。「格差」や「貧困」問題も浮上しています。
自分たちだって苦しいのに、なぜ日本人が、遠いアジアやアフリカ、中南米の途上国の人たちを手間とお金をかけて救わなければいけないのでしょうか?
この企画では、どうして日本が途上国に対して国際協力をするべきなのか、途上国が抱えている問題は私たち日本人とどんなつながりがあるのか、私たちが実際にできることとは何か、といった疑問に対して、私がナビゲーターとして専門家にインタビューしたり、アフリカの現地で国際協力の現場を取材したりしながら、その答えをさぐっていきたい、と思っています。
途上国の抱えているさまざまな問題は、日本人にとってけっしてひとごとではありません。もちろんビジネスパーソンである皆さんにとっても。理由は3つあります。
第一に、日本が貿易依存国だからです。資源も食料も最近では人材も、海外から輸入しなければ日本の経済は成り立ちません。しかもその輸入元の多くは、日本の国際協力を必要としている途上国です。
第二に、途上国の抱える問題の多くは、一国の事情を超えたグローバルな問題だからです。
地球温暖化をはじめとする、環境問題やエネルギー問題、食料問題や人口問題、それにエイズなどの医療問題、さらに紛争問題。これらの問題の震源地は途上国であることが少なくありませんが、いずれも世界レベルで解決しなければならない問題ばかりでもあります。途上国の平和と、途上国の人々の健康と安全とが確立しなければ、私たち日本人の繁栄と平和もけっして望むことはできないのです。
第三に、人道的な理由です。途上国の多くの人々は、いまだに水を満足に得られず、食料難に悩まされ、満足な教育も受けられず、健康問題や紛争問題に直面して生命の危機にさらされています。地球に生きる仲間たちの苦境をみすごすことは、同じ人間としてできません。手を差し伸べ、いっしょに世界を変えていこうとするのは、当然のことなのです。日本国憲法前文にはこうあります。
「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」~「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」
私たちは憲法でも国際協力の必要性を高らかにうたっているのです。
日本は国際協力においても先進国です。徹底的な現場主義で、専門家やボランティアがさまざまな分野でさまざまな国に赴き、現地の人たちと寝食をともにし、改善に努めています。
日本は、アフリカや中東や中南米では、欧米先進国と異なり、歴史的にも宗教的にも中立的な立場をとれるがゆえに、国際協力の欠かせぬ存在としてその役割が期待されています。
なんらかの国際協力を必要としている途上国は約150カ国。人口比で世界の約8割です。こうした国々は、日本にとって今も、そして未来においてはもっと大きなパートナーでもあり、「お客さま」でもあります。
「国際貢献」と聞くと、資金の拠出とか自衛隊の派遣など、政治絡みで難しいもの、という印象を持ちます。しかし、今必要なのは、より同じ目線でいっしょに事態を改善していく「国際協力」という考え方だと思います。国際協力はけっして途上国に一方的な援助を与えることではありません。その成果は私たち日本人にも確実に返ってくるものなのです。「国際協力」を通じて、途上国の人が"日本"という存在に感謝してくれたとき、それは真の「国際貢献」に変わるのではないでしょうか。現地の人たちと、パートナーとして行動し、新しい世界をつくっていく。そんな姿勢が大切なのです。
今回の企画を通じ、私自身アフリカの現地を歩いてきました。専門家の方のご意見も聞きました。そこで感じたのは、「途上国の抱える問題は、終戦直後、日本が直面していた問題と同じじゃないか」ということでした。
第二次世界大戦で何もかも失った日本は、戦後、各国の援助を受けながら自分たちの努力で復興を果たし、先進国の仲間入りをしました。この経験は、先進諸国の中で日本だけのものであり、だからこそ、その経験を途上国に伝えるべきだと思います。
これから約半年間、ご一緒に国際協力について、考えていきたいと思います。連載を通じて、国際協力に関する皆さんの理解が深まり、共感と賛同をいただき、「自分でも国際協力をやってみようか」と思い立ってくださる方が出てくることがあれば、それに勝る喜びはありません。