01 池上彰と考える『SDGs入門』 SDGs、それは世界に広がるビジネスチャンス

01 池上彰と考える『SDGs入門』 SDGs、それは世界に広がるビジネスチャンス

Twitter Facebook LinkedIn

Q2 企業はどうやって途上国のSDGsに貢献しているの?

大企業から中小企業まで、本業の強みを生かしながら、途上国が抱える課題を解決する取り組みを進めています。もちろんビジネス機会を見据えながらです。

どんな取り組みがあるのでしょうか。JICA民間連携事業部次長の小西伸幸さんがまず紹介してくれたのは、日本の高度なICT技術が、途上国の課題解決に貢献しているケース。コニカミノルタと東京大学発ベンチャーのmiupは共同で、バングラデシュの貧困層を対象とした遠隔医療診断システムの導入を進めています。

「かつては世界最貧国ともいわれたバングラデシュですが、最近は所得水準が上昇し、生活習慣病の対応が重要な医療課題となっています。国民の7割近くが住む農村部では医療施設が十分ではなく、医療を受けるためには遠い都市部まで通わなくてはなりません。そこでコニカミノルタとmiupは共同で、農村部の貧困層を対象とした遠隔健診サービスを考案し、まずは試験的に都市近郊でサービスを開始しています」と、小西さんは背景を説明します。

JICA民間連携事業部次長の小西伸幸さん

この遠隔健診サービスでは、コニカミノルタのポータブル医療デバイスを使い、地方の診療所でX線撮影を行います。その画像データをクラウドに上げて、都市部の医師が診断するという仕組みです。目下、miup の開発したAI(人工知能)を活用し、1次スクリーニングを自動化するためのデータ収集に取り組んでいます。こうすることでさらに安価な健診サービスを実現できるといいます。

バングラデシュでは、コニカミノルタとmiupが共同で、
AIを活用した健診サービスの実証試験を行っている(写真提供:コニカミノルタ)

「両社の取り組みは、SDGsの17の目標のうちゴール3『健康と福祉』に合致するプロジェクトです。同時に、ビジネス面でもメリットが大きい。バングラデシュと日本とでは医療サービスの規制範囲が異なるので、日本ではまだ展開できないサービスについても、現地でビジネスの可能性を調査できるのです。いずれ、バングラデシュでのビジネスで得られた知見・データをベースにしたサービスが日本に逆輸入され、高齢化社会や地方の過疎問題など、日本社会が抱える課題解決にも役立つかもしれません」と、小西さんは期待しています。

企業の優れた技術が女性の自立を支援する

西アフリカのガーナでは、公益財団法人味の素ファンデーションが、17の目標のうちゴール1「貧困の撲滅」、ゴール2「飢餓をゼロに」に関わる取り組みを進めています。

「発酵コーンからつくる現地の伝統的なおかゆはKOKOと呼ばれ、離乳食としても重宝されています。しかし、タンパク質などの栄養素が不足しており、乳幼児が栄養不足から発育不良になることが大きな社会問題となっていました。そこで、味の素ファンデーションは「KOKO Plus」という名称でおかゆに混ぜられる、現地の素材を使った栄養強化食品を提供しながら、現地で生産と販売を行うための体制づくりを始めています」(小西さん)

「KOKO Plus」は、テスト販売の段階で消費者から「離乳期の子どもの下痢が減った」といった反応が聞かれたそうです。こうした効果が口コミで広がり、コミュニティにおける製品の浸透につながっており、NGOを通じて現地の女性が普及・販売を行う仕組みも検討されています。

ガーナでは、味の素ファンデーションが「KOKO Plus」という栄養強化食品を提供、
現地での本格生産を目指している(写真提供:味の素ファンデーション)

一方、スリランカでも、女性の自立を支援する取り組みが注目を集めています。

2008年に設立された株式会社すららネットは、スリランカにおいて主に小学生児童を対象としたeラーニングシステムの導入・運用サービスを提供し、教育の場の拡充に務めてきました。しかもeラーニングシステムを活用した学習塾の活動に貧困層の女性を積極的に登用し、女性の雇用拡大と自立を支援してきました。SDGsのゴール4「質の高い教育」とゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」、そしてゴール1「貧困の撲滅」の達成に貢献するものです。

スリランカでは、すららネットがeラーニングシステムを使った教育サービスを展開。
貧困層の女性を登用し、自立を支援している(写真提供:すららネット)

いかがでしょうか。いろいろな技術やアイデアをもつ企業が、世界で活躍していることがわかりますね。実は、ここで紹介した3つの事業はいずれも、JICAが用意している民間連携事業のメニューを活用しています。これについては次の項で紹介しましょう。

Q3 なぜ、JICAと連携してビジネスを開く企業が増えているの?