02 池上彰と考える『SDGs入門』 取り組まないことが最大のリスク SDGsをイノベーションの突破口に

02 池上彰と考える『SDGs入門』 取り組まないことが最大のリスク SDGsをイノベーションの突破口に

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< 池上彰氏特別インタビュー >

池上彰氏写真

アフリカや東南アジア、中南米などの途上国を訪れ、国際協力機構(JICA)による国際貢献の現場、またJICAとの連携の下で日本の企業や団体が行うさまざまな活動やそこで活躍する人々を取材してきた池上彰さん。じつはSDGsという言葉が2015年に世に出るずっと前から、日本の企業は社会課題の解決に貢献してきたといいます。

本連載の第1回では、JICAと連携して途上国の課題解決に取り組む企業が増えている現状をお伝えしました。第2回では、改めて、企業はなぜSDGsに取り組むべきなのか、どう取り組めばよいのかについて、池上彰さんに語っていただきます。

――最近、ジャケットの襟元にカラフルなパーツからなる円状のバッジ――SDGsのバッジをつけているビジネスパーソンが目立つようになりました。このバッジをつけている人たちは、「私の勤めている会社は、SDGsに関連する事業をしています」というアピールをしているわけですね。それほど多くのビジネスパーソンが熱心に取り組むSDGsとは、そもそも何でしょうか。

国連本部が販売しているSDGsピンバッジ

池上 SDGsを教科書的に説明すると、2015年9月に国連サミットで採択された、Sustainable Development Goals、すなわち、持続可能な開発目標です。国際社会全体で、2030年までに持続可能な社会を実現しよう、そのために全世界で17のゴールと、その17のゴールを細分化した169のターゲットを、地球上の誰一人として取り残さずに達成しようというものです。SDGsのバッジに使われている17色は、17のゴールを意味しているのです。

国連が採択したSDGsの17のゴール

誰もが同じように幸せに、長く暮らせる社会。それが、SDGsの達成された世界というわけです。みんなが「いいね、そこを目指したいね」と賛成しそうなゴールばかりです。

これら17のゴールに、さほど目新しいものはありません。国連は、2000年に採択された「国連ミレニアム宣言」と1990年代に開催された主要な国際会議等での開発目標をまとめる形で、「ミレニアム開発目標(MDGs;Millenium Development Goals)」を発表しました。MDGsでは国際社会の支援を必要とする課題に対して、2015年までに達成するという期限付きの8つの目標を掲げました。極度の貧困と飢餓の撲滅、初等教育の普及、ジェンダー平等の推進と女性の地位向上などです。2015年になって、改めてSDGsが設定されたのは、理想的な未来と現状には依然としてギャップがあるということでしょう。

いよいよこのままでは危ない、『地球の危機』が目前に迫ってきた

――なぜ、SDGsでは多くのビジネスパーソンがバッジをつけるほど熱心になっているのでしょうか。

池上 いよいよこのままいくと持続不可能になるぞというところまで、地球全体が追い込まれているということではないでしょうか。

たとえば、SDGsの13番目のゴールである「気候変動に具体的な対策を」について考えてみましょう。1997年に開かれた地球温暖化防止京都会議(COP3)では、先進国に対して温室効果ガス排出削減目標が設定されるとともに、他国と共同することで排出削減対策コストを抑えるための仕組み(京都メカニズム)が議論され、最終的に「京都議定書」が採択されましたね。ただしその当日はまだ、気候変動対策よりも、他に優先されるもの(経済性や利便性など)があると考える人が少なくありませんでした。ところが今は、これまでのように熱帯雨林を伐採していては、地球はダメになるのではないかと強く意識する人が増えています。

なぜこんなにゲリラ豪雨が降るのか、毎年のようにあちこちで水害が発生するのか。これまで当たり前のように存在していた地球、経済発展の舞台であるはずの地球の未来について、より真剣に考えるようになったのです。

――地球上でさまざまな危機が顕在化してきたことで、持続可能性(サステナビリティ)を意識する人が増えてきたということですね。ただ、それは先進国の認識であって、今から経済発展をしようという途上国が同じような意識を持つのは難しいような気がします。

池上 確かにそうですね。先進国、とりわけ戦後の日本は、とにかく物質的に豊かになることを第一の目標に掲げ、その目標達成のために必死に努力してきました。「衣食足りて礼節を知る」という言葉がありますが、まずは衣食を追求したのです。

その結果、衣食を手にすることはできましたが、同時に深刻な公害問題を引き起こしてしまった。ふと周りを見てみると、物質の豊かさの土台である地球の持続可能性が危うくなっている――地球を大事にするという「礼節」をないがしろにしてきたというわけです。こうした反省を踏まえ、日本はさまざまな公害問題の解決に取り組んできました。その結果、今は環境先進国として、世界(途上国)の持続可能な社会づくりに貢献しようとしています。

ここ7年間、実質GDP成長率6%以上と高成長を続けるフィリピンにて。「衣食足りて礼節を知る」の「衣食」の追求のただなかにある。先進国である日本は、こうした途上国で地球を大事にするという「礼節」を踏まえた開発協力を行う必要がある。

持続可能という言葉は、どこか堅苦しく、それゆえに縁遠いものに感じられるかも知れません。サステナブルという言葉もそうです。であれば、こんな風に置き換えてみてはどうでしょうか。「私たちの衣食は、100年後も続くだろうか」「今の仕事は100年後も続けられるだろうか」。そこに疑問が生じるようであれば、今は、持続可能な状態ではないということです。

長期的な視野で「リスクとは何か」を考える